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英国で多頭数競馬 覚えにくい馬名、実況に大苦戦

2019/8/31 5:30
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6月17日、英ヒースロー空港にて。筆者は同日、日本のディアドラが出走する英国のG1、プリンスオブウェールズステークスを実況するために現地入り。当日の他のレースも日本向けに実況中継するということで、移動の合間に現地サイトで情報を確認していると、あるレースにこのような表記がありました。

「28runners(出走馬28頭)」

6月19日、アスコット競馬場第1レース、クイーンメアリーステークス(G2)。芝直線5ハロン(約1000メートル)。なんと出走馬28頭!

昨年秋、筆者はオーストラリア伝統のG1、メルボルンカップで、24頭立てのレースを実況しました。当時も苦労しましたが、あれからわずか7カ月。それよりもっと多頭数のレースを実況することになろうとは思いもしませんでした。

広大なコース、聞き慣れない馬名…

舞台のアスコットはロンドンの西にあり、毎年6月に英王室主催の「ロイヤルアスコット」開催で知られています。競馬への深い愛情で知られるエリザベス女王をはじめ、王室の方々が馬車で来場し、一般入場者も着飾り、華やかな雰囲気でレースが行われます。初の英国出張となる筆者は、その雰囲気を体感することを楽しみにしていましたが、一転して緊張と不安が襲ってきました。果たしてちゃんと実況できるだろうか?

英王室主催の「ロイヤルアスコット」に馬車で入場するエリザベス女王

英王室主催の「ロイヤルアスコット」に馬車で入場するエリザベス女王

アスコットはとても大きな競馬場です。三角形のおむすび型をした1周約2800メートルの周回コースと、約1600メートルの直線コースがあります。コースの幅もかなり広く、レースによっては30頭以上が出走する場合もあります。クイーンメアリーステークスは直線で行われる約1000メートルの競走。直線1000メートルは国内でも新潟競馬場で実況していますが、出走馬は多くて18頭。それより10頭も多いなんて……。

頭数の多さだけではない難しさもありました。1000メートル戦はスタートからゴールまで1分足らずで決着してしまいます。それぞれの馬の判別に迷っている時間的余裕がありません。素早く馬を判別するため、短距離戦では馬名と勝負服をより確実に覚える必要があります。

ところが、このレースがデビュー間もない2歳牝馬限定戦。よほど海外の競馬に詳しい方でもない限り、デビュー間もない欧州の2歳牝馬の名前を知っている日本人はほとんどいないでしょう。筆者にとっても、ほぼ全ての馬が出走経験も少なく、初めて目にする名前でした。馬名をより確実に覚える必要があるのに、記憶に植え付けるだけの材料がほとんどないのです。

28頭分の馬名と服色を記した「塗り絵」も1枚の紙にびっしり

28頭分の馬名と服色を記した「塗り絵」も1枚の紙にびっしり

英単語をひたすら口に出して覚えた、学生時代の記憶がよみがえりました。28頭の馬名、騎手が着る勝負服と帽子のデザインを一枚の紙に書き、滞在先のホテルの自室でぶつぶつと、念仏を唱えるように馬名を繰り返しました。

我々ラジオNIKKEIのアナウンサーは、普段の競馬中継では1日に6レースの実況を担当します。多い時は100頭近い馬名を覚えて実況しているのです。しかし、日本の100頭は覚えられても、この英国の28頭はなかなか頭に入ってこない。当日に実況する他のレースは楽に覚えられたのに……。頭にたたき込んだ頃には当日の朝を迎えていました。

馬にも実況担当にも過酷な気象条件

クイーンメアリーステークスは当日に3頭が出走取り消しとなり、出走25頭に。頭数減で多少は楽になるかと思いきや、新たな難条件が加わりました。レース直前、アスコット競馬場を大雨が襲ったのです。日本でいうゲリラ豪雨に近い大粒の雨。放送席から約1000メートル先のスタート地点は、雨に煙ってほとんど見えません。「何ということだ……。こうなったらもう、なるようにしかならない」と開き直りの境地。

放送席に置かれたモニターの映像を頼りに、先頭グループを走る馬を一頭ずつ口に出していたら、いつの間にかゴールイン。1着馬ラッフルプライズと2着馬キマリの接戦はきちんとお伝えできたとは思いますが、実況中に馬名を言えたのは25頭中わずか10頭ほど。高いハードルを越えようとしてもがいてはみたものの、つまずいてよろけたままゴールしたような感覚。確かに実況が難しいレースではありましたが、やはり悔しかったですね。ぜひまた挑戦したいです。

アスコット競馬場そのものは大変素晴らしい雰囲気でした。5日間の王室開催期間中、筆者が足を運んだのは2回。両日ともエリザベス女王が馬車で来場すると、静寂の後の場内に歓声が湧き、英国民が敬愛する女王の存在を改めて感じました。男性はモーニングにハット、女性はドレスやワンピースに華やかな帽子がお決まりのスタイル。筆者を含めて、放送スタッフも皆、モーニング姿で仕事をしていました。このような経験も王室開催ならではです。

筆者もモーニング姿で競馬場入り

筆者もモーニング姿で競馬場入り

クイーンメアリーステークスから1時間あまり後、プリンスオブウェールズステークスの直前にも再び豪雨。鋭い末脚が身上のディアドラには厳しすぎる条件になってしまい、6着に敗れました。優勝はクリスタルオーシャンでした。ただ、続く8月1日のナッソーステークス(グッドウッド競馬場)で見事に優勝。日本調教馬として19年ぶり、日本産馬としては初めての英G1制覇という快挙を達成しました。

3月のアラブ首長国連邦・ドバイから香港、欧州と転戦し、挑戦を続けて結果を残した陣営に敬意を表します。そして、私たちをロイヤルアスコットの舞台に連れて行ってくれてありがとう!

日本から遠征する馬がいればこそ、我々実況アナウンサーも現地に出張できるのです。昨年のメルボルンカップ、今年のロイヤルアスコット、そして初の多頭数レース。貴重な経験をさせてもらいましたが、まだまだ実況してみたい、挑戦したいレースはたくさんあります。今度はどの馬が我々をまだ見ぬ舞台へと連れて行ってくれるのか、次なるチャレンジを楽しみに待つ日々です。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 小塚歩)

 各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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