企業とスクラム、横浜美術館の挑戦
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2019/8/28 7:10
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「できたよ」「走るかな」。8月上旬、日産グローバル本社ギャラリー(横浜市西区)の一角で、子供たちの歓声があがった。木片で車を作るプログラム。1時間ほどかけ、約20人が思い思いに組み立てた車に色を塗り、マイカーを完成させた。

横浜美術館のスタッフの指導で思い思いの車を作る(8月3日、日産グローバル本社ギャラリー)

横浜美術館と日産自動車の共催で、今年で2年目となる。美術館が材料を用意し、作り方を教える。横浜美術館が2008年から続けている「ハート・ツー・アート」と名付けた取り組みの一つだ。「子供たちが車づくりに興味を持つきっかけになれば」と日産の担当者は期待する。

美術館と企業のつながりといえば、展覧会への協賛や寄付の形をとることが多い。ハート・ツー・アートは美術館が持つノウハウを企業活動に生かす狙いを併せ持つ。「お金だけ出して終わり」の一方通行ではない。企業は年数十万―数百万円を提供し、美術館は子供向け教室を開くなどして協力する。19年度は日産のほか、ニコンや横浜信用金庫など7社が参加している。

社員研修に美術の力を使う試みも始まった。ある企業は部署横断で新規プロジェクトチームを立ち上げる際、横浜美術館のプログラムを取り入れた。こんな内容だ。

メンバーに粘土が配られる。各自が家をつくり、さらに家々をつなぎ街をつくる。その街を災害が襲ったとの想定で、どう生き残るか議論する――。「創作が得意な人もいれば、プレゼンテーションが得意な人もいる。プログラムを通じてお互いをわかり合うことができ、チームワークが高まる」と同美術館で企業との連携を担当する広報・渉外チームの襟川文恵さん。企業側の評価も高かったという。

日本国内には200以上の公立美術館があるとされる。おしなべて運営は厳しい。これまでのように美術品を展示し「どうぞ見に来てください」と待ち受けるスタンスでは先行きは暗い。「どうすれば社会の役に立つかというアプローチが必要。社会のインフラにならなければならない」。襟川さんの危機感は強い。

「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」(山口周著)がベストセラーになるなど、最近はアートとビジネスの関係に注目が集まる。美術館の役割はどうあるべきか。企業との連携を模索する横浜美術館の試みは、公立美術館が生き残るために目指すべき道の一つといえるかもしれない。(横浜支局長 石川淳一)

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