2019年9月19日(木)

キャセイにみる中国政府の本質(The Economist)

The Economist
2019/8/27 2:00
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中国は、米国との貿易戦争で自国の魅力にかげりが見え始めているため、何とか外国企業からの人気を取り戻したいと考えている。そのため、外国企業も中国企業と同じ条件で中国において事業展開できるようにすると約束した。これは中国企業だけに特別な優遇策を与えるわけではないということを確約するものだった。

香港デモを巡り中国政府はキャセイパシフィック航空の乗務員のスマホを調べており、社内は今、恐怖に満ちているという=ロイター

香港デモを巡り中国政府はキャセイパシフィック航空の乗務員のスマホを調べており、社内は今、恐怖に満ちているという=ロイター

しかし、8月中ごろからこの約束は、香港のフラッグキャリアであるキャセイパシフィック航空に対し中国政府が強硬な姿勢を打ち出し始めたことによって別の側面をみせることになった。気に入らない外国企業があれば強硬な姿勢で、自国企業に自在に影響力を及ぼすように、対象外国企業のトップを厳しく糾弾して服従を迫る。そのため香港の企業各社は今、中国政府への対応に困っている。だが、中国政府が香港企業だけを対象にしていると思ったら間違いだ。

■グローバル企業は対象外、は大間違い

香港に2万6000人の従業員を抱えるキャセイは、大規模デモが繰り返されても当初は中立的な立場を取っていた。同社の会長は、従業員が考えることにまで口を出すなど夢にも思っていないと断言していた。しかし中国政府からの強い批判を受けるに従い、彼の断固たる姿勢はしぼんでいった。

中国航空当局が、キャセイの従業員たちがデモに参加したことでキャセイに安全上、重大なリスクを生じさせているという荒唐無稽な警告を発すると、同社は16日、ルバート・ホッグ最高経営責任者(CEO)を辞任させた。今、キャセイ社内は恐怖に支配されている。中国政府がキャセイの乗務員らのスマートフォンを調べ、政府に批判的な内容がないかチェックし始めたからだ。

グローバル企業から見ればキャセイは香港の企業だから特殊なケースで、自分たちは違うから大丈夫だと思うかもしれない。

キャセイはアジア最大の国際航空会社であり、世界の航空会社ランキングで常に上位に名を連ねてはいるものの、その命運はほぼ中国政府が握っている。同社の貨物便と旅客便の70%は中国領空を通る。同社の最大の株主であるスワイアパシフィック(太古)は、香港の英系名門財閥でありながら中国本土で「コカ・コーラ」などの清涼飲料の製造販売から不動産まで手広く事業を展開する。スワイアの経営陣は、中国政府に少しでも抵抗を見せることは、自社が自滅することを意味すると判断したようだ。

中国政府の逆鱗(げきりん)に触れた企業はキャセイだけではない。同社は中国政府を怒らせて、打撃を被った一連の海外企業の一社にすぎない。その怒りを鎮めるための対応策は、比較的単純なものだが屈辱的だ。最近では、香港を中国とは別の国であるように表記したTシャツなどを販売したとして、8月に高級ブランドの「ヴェルサーチ」「コーチ」「ジバンシィ」が相次いで大々的な謝罪に追い込まれた。

ヴェルサーチは、Tシャツに「香港」を独立国のように表記した問題で中国から強い批判を受け、7月にそのTシャツの販売を停止、8月に謝罪を余儀なくされた=ロイター

ヴェルサーチは、Tシャツに「香港」を独立国のように表記した問題で中国から強い批判を受け、7月にそのTシャツの販売を停止、8月に謝罪を余儀なくされた=ロイター

■中国企業に爪はじきにさせるいじめ

一般論として、中国市場を重視する外国企業ほど中国には注意しなければならない。欧州最大の銀行であるHSBCは、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長兼最高財務責任者(CFO)が昨年12月に逮捕された事件に関し、同氏を詐欺罪で立件するのにつながる情報を米当局に提供したとして中国政府から圧力を受けている。中国市場での成長を企業戦略の中核に据えるHSBCにとって、中国で「悪者」でいるわけにはいかない。HSBCはファーウェイ問題との関連は否定したが、今月上旬、ジョン・フリントCEOと中国事業部門の責任者が辞任させられている。

現在、キャセイが陥っている苦境は、世界中の企業の経営陣がなぜ中国を怒らせると大変なことになると懸念を高めているかを物語っている。従来であれば、外国企業にとって最大の懸念は国営メディアにあおられて起きる消費者の不買運動だった。日本の自動車メーカーや韓国系の小売店などがそれで被害を受けたが、半年か1年程度もすれば中国での売り上げは回復した。

しかし、今回のキャセイへの中国政府の攻撃はこれよりももっと踏み込んだものだった。中国の航空当局は、キャセイは安全上重大なリスクを抱えていると宣言し、中国国有大手の銀行、中国工商銀行(ICBC)の系列の証券会社である工銀国際は13日、リポートで「キャセイ株の売りを推奨」、中国最大の国有複合企業である中信集団(CITIC)の銀行は社員などにキャセイを使わないよう指示した。

航空当局による根拠のない警告は、中国のあらゆる企業にキャセイを爪はじきにさせるための大義名分だ。ICBCやCITICは、中国の外でこそ知名度は低いが世界中で事業を展開している。ICBCは保有する資産規模では世界最大の銀行だし、CITIC銀行も巨大なグローバル国営企業グループの傘下にある。これらの企業がキャセイいじめに加わったのは、彼らが最後まで忠誠を誓う相手は中国共産党に他ならないことを示している。

■中国の野望に疑問を投げかける行為では

中国政府は、国有企業も市場原理に沿って経営していると言うが、実際には自分たちの意に沿わない企業に制裁を下すのに利用しているわけで、その主張はうそだと言わざるを得ない。

また規制当局を、特定企業をやり込めるために利用するというのは、中国が国際舞台で今よりももっと大きな役割を果たしたいとする野望に疑問を投げかけることになる。

中国民用航空局は、トラブルが相次いだ米ボーイングの新型旅客機「737MAX」の運航停止を3月にいち早く決断して世界で称賛を浴びた。しかし今回、キャセイを安全ではないとした判断を見る限り、中国政府の言いなりでしかない感が否めない。

中国共産党政権は香港問題について、他の外国企業にも中国政府の思惑通りに従わせることに成功するかもしれない。その過程では、これまで隠されてきた同政権の本性を露呈していくことになるだろう。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. August 24, 2019 All rights reserved.

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