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てきぱき渋野、3パットも迷わず打ってこそ

編集委員 串田孝義

米男子ツアーのプレーオフ初戦で、「科学者」の異名を取るブライソン・デシャンボー(米国)がグリーン上のライン読みで2分20秒をかけるなど、さすがに目に余るスロープレーを選手仲間、ファン(視聴者)から批判された。欧州ツアーは来季からスロープレーに罰打を科す計画だとされる。

そこで思い出すのが、全英女子オープンを制した渋野日向子がプレー中に食べていた駄菓子のこと。「タラタラしてんじゃね~よ」。タラを含む魚肉シートを原材料にしたのが名前の由来とはいえ、スロープレーに対するちょっと強めの辛口批評と思えなくもない。実際、渋野のてきぱきとしたプレーぶりは海外のテレビ中継でも「これぞプロのプレー」と絶賛されていた。

全英女王となって帰国した渋野は常に注目を浴びていた=共同

即断即決のプレーを迷わずやりきるのが渋野の特長とすると、全英女子から帰国2戦目、NEC軽井沢72トーナメントの最終日、18番ホールで外した、決めれば優勝となるはずだった5メートルのバーディーパットはどうだろうか。

2メートルオーバーして返しも入らず、3パットのボギーとして「サヨナラ優勝」どころかプレーオフにも残れなかった結果を知ってみれば、「無造作すぎる」「経験不足」との評価も当然だ。ただ、もし決めていたら「怖いもの知らず」とは言われるだろうが、思い切りの良さを「勇断」と再び称賛されたに違いない。

渋野は「単に緊張して手が動かなかった」と語っている。「パットは常にショートするよりオーバーしたいと思っていて、返しが入らなかっただけ」とも。つまり後悔しているのは2メートルもオーバーしたことではなく、返しのパットでカップに触ることなく外れる「情けない」パットを打ってしまったことであることがわかる。

精神的疲労が緊張招く

渋野はパターのグリップを余して握り、グリップの先をへそに向けて構えて、体の軸回転をしっかり意識して打つ。そんな人が「手が動かなかった」といい、手先のパッティングをしてしまうのだから、相当の緊張だったことがうかがえる。

「プレッシャーではない」と渋野。「プレッシャーとは『勝たなきゃいけない』みたいな感じのものでしょう?」。自分はまだまだ、負けてもともとのチャレンジャーだと思っているというのだ。では何が緊張を招いたのだろう。本人は決して口にはしない精神的疲労ではなかったか、と推察する。

全英女王となって帰国した日本国内は渋野にとって衆人環視、常に質問攻めに遭う別世界だった。新聞、テレビで大々的に報じられる「世界のシブコ」と、等身大の自分自身とのギャップに違和感を覚えて、ストレスもたまるばかり。

プロとしてツアー本格参戦1年目のまだまだ発展途上の自分が一夜にして大ギャラリーを引き連れる「シンデレラゴルファー」となり、最強の女子ゴルファーという期待を一方的に寄せられることに気持ちがいっぱいいっぱいだったようだ。18番のティーショット、渋野は原英莉花からの打順を間違え、自分が先に打ってしまっており、平静を欠いていたことがうかがえる。

かつて同じような熱狂を経験した石川は渋野を思いやる=共同

7月の日本プロ選手権で3季ぶりの優勝を飾ったのに続き、前週の長嶋茂雄招待セガサミーカップでツアー2連勝、完全復活を思わせる石川遼。15歳でツアー優勝を飾って「ハニカミ王子」フィーバーの主役となった経験から語る。「笑顔が注目されたのは共通点だけど、僕は(渋野のように)食べた物まで注目されなかった」と笑い、「ゴルフに詳しくなくて選手のパーソナルな部分に引かれてファンになるという人が今は爆発的に増えているから、大変でしょう」と思いやる。

「何も心配はいらない」

「その大変さの裏返しで、人からうらやましがられ、憧れを抱かれる立場にいるのも確か。渋野さんをめざしてゴルフを始めるジュニアたちもたくさんいることを忘れないでほしい」。全英女王という看板には責任と義務が伴っているのだ。

セガサミーカップ3日目のラウンド後、石川が自ら語り出したのがNEC軽井沢72での渋野の3パットボギーのこと。「僕も10代の頃は前のめりだった。自分の直感に従って動くというか。でも一歩引いて守る、なんていずれ覚えていくことで、『なんで攻めていけなかったのか』と悩むようになる方が実は問題が深いんです」。経験を積むうちに人間はほっておいても丸くなる。「(2メートルオーバーのパットを)彼女は強く打ったのでなく、最初からあのように打つつもりだった。ならば何も心配はいらないでしょう」と付け加えた。

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