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「IRわが街に」自治体競争熱く 横浜も参入

カジノを含む統合型リゾート(IR)を巡る動きが活発になっている。IR実施法が2018年7月に成立したことを受け、自治体の誘致活動が本格化した。海外のIR事業者は日本進出を目指して施設の構想を披露している。IRが地域経済の起爆剤となるにはギャンブル依存症対策なども欠かせず、万全な準備が求められる。

自治体の誘致活動でまず、注目されるのは大都市型のIRだ。

大阪府・市は大阪湾の人工島、夢洲(ゆめしま)への誘致に向けて4月、全国に先駆け事業者からのコンセプト募集(RFC)を始めた。7事業者グループが参加登録した。大阪・関西国際博覧会(万博)が開幕する25年5月までのIR開業を目指す。吉村洋文知事は「19年秋冬には本格公募(RFP)し、20年春にはパートナーとなるIR事業者を決めたい」とのスケジュールを描く。

募集要項によると、49万平方メートルの敷地に施設全体の延べ床面積100万平方メートルを見込む。国際会議場は最大会議室に6000人以上、展示場は10万平方メートル以上とする。

横浜市の林文子市長は22日、山下ふ頭への誘致を表明した。市の試算では、訪問者数は年2千万~4千万人と東京ディズニーリゾート並み。経済波及効果は年6300億~1兆円に上る。すでに海外勢など複数の事業者が参入の意向を示す一方、地元の港湾事業者らが反発している。

20年7月に知事選を控えた東京都は慎重な態度を貫くが、いつ動き出しても対応できるような態勢にあるともいわれる。第1候補地は臨海部のお台場・青海エリアだ。千葉市は10月からIR導入のイメージや経済効果についての情報提供を民間事業者に募る。

中部国際空港島への整備を検討するのが愛知県だ。空港直結の国際展示場「アイチ・スカイ・エキスポ」が30日に開業する予定だ。

地方型IRとして先行するのは和歌山県だ。和歌山市の人工島、和歌山マリーナシティへの誘致を目指す。18年に「IR基本構想」を公表した。

長崎県は同県佐世保市への誘致を目指す。テーマパーク運営のハウステンボス(HTB、同県佐世保市)との間で、誘致に成功すれば施設建設の候補地として土地の一部を活用することで基本合意している。

北海道は4月に公表した基本的な考え方で「誘致に向けた取り組みを進めることが重要」と明記。9月から道民を対象に誘致への賛否などの調査を始める。優先候補地の苫小牧市に海外勢3社が事務所を開設している。

国が3カ所まで認定

IR実施法は2018年7月に公布された。同法や政省令で定める手順のポイントは、まず誘致を目指す自治体がIR事業者を選定して区域整備計画をつくり、その後に国に認定を申請するということだ。国は当面3カ所を上限に認定する。申請できるのは47都道府県と20政令市に限られている。

現在は誘致を目指す自治体が国の基本方針策定を待っている段階だ。国の具体的な審査基準を定めた基本方針に従って、自治体が事業者公募のための実施方針をつくるためだ。ただ、当初の19年秋から20年3月までにずれ込む見通し。国は誘致を急ぐ自治体が実施方針づくりに早期に取り組めるように、19年9月に基本方針案の内容を公表するとの見方も出ている。

大阪府・市が事業者に対して実施しているコンセプト公募(RFC)は法律に定められた手続きではなく、事業者に計画づくりを促す独自の手法といえる。ギャンブル依存症対策などについて提案を求めている。

誘致を予定、検討する自治体の準備状況には大きな差がある。国はこうした状況にも配慮して、区域計画の募集を2回に分けて実施する可能性もある。

後発ゆえの優位性生かせ

面積720平方キロメートル。東京23区を若干上回る広さのシンガポールには、大阪市の約2倍の人(約560万人)が住む。「シンガポールの奇跡」とも言われ、世界競争力ランキングでもトップ(スイスのIMD調べ)に上り詰めた。国際都市として急速な発展を遂げた背景には、明確な国家戦略があった。

同国は1980年ごろ、外資導入に舵(かじ)を切り、産業構造を資本・技術集約型に転換することを目指し、国際的な金融・情報センターへと国の姿を変える姿勢を鮮明にした。社会インフラも整備し、2005年にはカジノを解禁した。10年にはホテルや商業施設などを備えたIR2カ所が開業。そこから再び成長に弾みをつけた。海外からの観光客は人口の3倍強の1850万人(18年)にもなる。

日本でもIRによる大規模開発の道筋が見えてきたが、世界を見渡せばその歩みは遅すぎるとの指摘も多い。日本にない"街"を新たに建設するわけだから、様々なリスクを検討する慎重さは理解できる。

だが、後発ゆえのメリットは大きいと見るべきだろう。先進事例を持続的な経済社会を前提とした新時代のIRの参考にすればいいからだ。デジタル化が急速に進む今、後発になればなるほど最新の技術を組み込むことができるはずだ。

日本の国家戦略の一つとして観光立国を掲げて約15年。東京五輪・パラリンピックを迎える20年には、訪日外国人客の4000万人突破も視野に入る。そして、25年の国際博覧会(大阪・関西万博)を経て、30年には6000万人という目標がある。

これまではビザの発行条件の緩和や免税手続きの簡素化など、巨額な財政主導を伴わない施策を段階的に打ち出して果実を享受してきた。国の財政事情を考慮すれば、大規模な財政出動は望めない。さらなる観光立国へと飛躍するには、国際会議場・展示場などの集客施設を一体的に整備・運営する巨額の民間投資の出番ではないだろうか。

世界の主なIRはシンガポールや米ネバダ州のラスベガス、マカオ、韓国のソウルや済州島などにある。ほかにも世界の観光客やビジネスパーソンらを吸い寄せる施設はあまたある。そこに日本のIRが割り込む形になる。東京や米ニューヨーク、英ロンドンのように多面的に人を呼び込める都市がグローバルな社会で勝ち残れる。国際間競争の優劣が都市の命運を左右する時代だ。

少子高齢化が進む日本にとって、観光だけでなくビジネスや学会などで多様な人たちを迎え入れることこそが国際都市としての地位を得ることになろう。また、IRは官民で取り組む「ナイトタイムエコノミー」を推し進める原動力になるはずだ。大阪府・市に加え、横浜市もIR誘致を表明した。誘致合戦は活発になる。IRを軸とした国際都市づくりが本格化する。

(編集委員 田中陽)

建設や観光、企業も商機うかがう

IRの開業をにらみ、国内外の企業が商機をつかもうと動きだしている。IRは25年の国際博覧会(大阪・関西万博)と並ぶ、東京五輪に続く大型プロジェクト。建設や観光など多くの企業が参画のチャンスをうかがう。海外のIR事業者も日本進出への意欲を隠さない。

「大阪は万博とIRへの期待が大きい」。こう話すのは大成建設の村田誉之社長。建設業界では東京五輪に向けた旺盛な建設需要が続いた。大阪市の人工島・夢洲(ゆめしま)へのIR誘致が実現すれば、万博を含めた建設需要は東京五輪に匹敵するとの見方もある。

同社は1月、営業総本部に「まちづくり・IRプロジェクト推進部」を設けた。清水建設も「夢洲プロジェクト室」をつくるなど、ゼネコン(総合建設会社)各社はIRの関連需要を取りこもうとしている。

ホテル・旅行業界もIRに関心を示す。ハウステンボス(長崎県佐世保市)は長崎県や佐世保市がIR誘致に成功した場合、候補地として土地の一部を売却する考えだ。自らはIRを運営しないものの「来場者が年間100万~200万人増えると期待できる」(沢田秀雄会長)。プリンスホテルは大阪府への進出を検討する。夢洲の開発が進めば、訪日外国人客に加えて関連企業の従業員の出張需要も見込める。

パナソニックは5月のIR見本市に出展し、セキュリティーシステムなどを紹介した(大阪市)

大阪府に本社を置くパナソニックもビジネスを呼びこもうと、「統合型リゾート(IR)事業推進本部」を7月に設置した。IR事業者に対し、多言語翻訳システムや施設空間を演出する機器を提供することを狙う。

「調理器具や食材、従業員の制服など幅広い商品が必要。調達では地元企業を優先したい」。6月初旬、大阪市で開かれたイベントに参加した米IR大手のMGMリゾーツ・インターナショナル日本法人のエド・バワーズ最高経営責任者(CEO)はこう呼びかけた。

バワーズ氏は夢洲でのIR施設を同社が担うことになった場合、関西企業などから食材や日用品を調達するためのデータベースを構築する考えを示した。早くも地元企業へのアピールを強めている。

香港のメルコリゾーツ&エンターテインメントはサッカー・J1の横浜F・マリノスなどとパートナー契約を結んだ。メルコのローレンス・ホー会長兼CEOは連携の目的を「日本での事業展開につなげたい」と説明した。知名度を高め、IR事業参入に弾みをつける狙いのようだ。

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