2019年9月16日(月)

薬物依存の現実問う 倉田翠、支援施設メンバーと共演
文化の風

関西タイムライン
コラム(地域)
2019/8/23 7:01
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演出家・ダンサーの倉田翠(31)が主宰する集団akakilikeが、薬物依存症リハビリ施設「京都ダルク」のメンバーとの舞台作品を17、18日に京都芸術センターで上演した。メンバーの日常をフィクションとして再構成した演出に倉田の身体表現が絡み合った今作。両者の私的な交流から生まれ、様々な社会的な問いを投げかけた。

緻密な構成・演出で大半が初舞台となる出演者たちのリアルな言葉・表情を引き出した

緻密な構成・演出で大半が初舞台となる出演者たちのリアルな言葉・表情を引き出した

作品の軸となるのは出演者たちがバトンを渡すように連ねていく独白だ。

姉に迷惑をかけたくないと留置場で自殺を図った。反社会的組織の一員となり父の死に目に立ち会えなかったが、先日法事に参加できた。かつて好きだった女の子の夢を見た――。時にコミカルな場面も挟みながら生い立ちや日々の情景、胸の内を明かしていく。

■支え合う日常再現

日々のグループセラピーを再現するように紡がれる後悔や反省、悩み、迷い、感謝、希望。多くが舞台未経験とは思えないほど、言葉と佇(たたず)まいに力がある。

傍らでは倉田がしなやかな肢体を伸びやかに、時に縮こまるように舞台を駆ける。他の出演者に自らを拮抗させようともがいているようでもある。

並行して舞台奥では、メンバーが協力して豚汁と焼きおにぎりを調理する様子を演じる。平穏な日常と仲間たち。最終盤、出演者が一堂に会してにぎやかに食卓を囲む。回復に向けて支え合う施設の日常が再現されながら舞台は暗転する。

倉田は3歳から始めたバレエを基礎に作品を制作している。ドキュメンタリー的なモチーフやダンス経験のない人との共演など、ジャンルの枠を超えた作品も多く発表してきた。

近畿大学文芸学部の八角聡仁教授は倉田を「安易に物語の力を使わず、生身の身体・人物を配置することでフィクショナルな空間を立ち上げる高い演出力を持っている」と評価する。

今作は倉田が1年半前にダルクのメンバーと出会い、施設に通い生活を共にすることで生まれた。演出する倉田と演出されるメンバーという一方的な関係ではなく、相互の影響関係が基になっている。

ダルクで行うグループセラピーの基本は「言いっぱなし、聞きっぱなし」。胸の内をはき出すことで自分と向き合う。聞く側は意見も批判もせず、ただ耳を傾ける。出演者の1人、タイチは「その原則と同じく、否定も肯定もせず受け止めてもらえる作品だから自分をさらけ出せた」と話す。

「ダルク礼賛や更生のメロドラマといった単一の物語に還元しない。彼らがこのように生きている、その『危うさ』も含めて直截(ちょくせつ)に伝わる舞台」と八角教授。解釈を観客に委ねた余地が大きいだけに観客は多様な問いを読み込んだだろう。依存症の人たちを自分は、社会はどんな視線で捉えているか。いかに彼らを包摂するか――。

■「ただ伝えたい」

そんな社会的な問いをはらむ一方で、観客自身が抱える問題や生きる辛(つら)さといった個人的な部分に響く要素も豊かな作品だ。時間を共にしてきた彼らを「『いいな』と思って見ている。その『いいな』をただ伝えたい」と話す倉田の思いが、強く反映されているからだろう。

「これからもダルクには通い続ける」と倉田は断言する。「眠るのがもったいないくらいに楽しいことをたくさん持って、夏の海がキラキラ輝くように、緑の庭に光あふれるように、永遠に続く気が狂いそうな晴天のように」。祈りのようなタイトルの作品が継続的プロジェクトとして発展することも期待したい。

9月3日には東京のd―倉庫(東京・荒川)でも上演する。

(佐藤洋輔)

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