女性も家庭から社会へ 「役に立ちたい」、就業率上昇
シニアパワー いきいき働く(下)

2019/8/21 6:00
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JR中浦和駅(さいたま市)から歩いて8分ほどの住宅街に、子連れの母親から90歳近い老女まで幅広い世代の女性が集う一軒家がある。子育て経験豊かな主婦らのアイデアを生かしたものづくりをする「BABAラボ さいたま工房」だ。

「BABAラボ さいたま工房」では幅広い世代の女性が「孫育てグッズ」を製作する(さいたま市)

「BABAラボ さいたま工房」では幅広い世代の女性が「孫育てグッズ」を製作する(さいたま市)

約50人が日替わりで通い、体力が乏しい高齢者でも使いやすい「孫育てグッズ」を作る。手芸の経験を生かし、工房のヒット商品「抱っこふとん」を製作する田村和子さん(76)は「健康なうちは通い続けたい」。

現在のシニア世代の女性は出産や育児で仕事を辞め、30代を中心に就業率が下がる「M字カーブ」が顕著な時代を生きてきた。20代後半~30代前半の女性の労働力率は2018年には約8割に上ったが、1978年時点では5割に満たなかった。「M」の谷間が深い世代だからこそ、社会で活躍する意欲に燃えるシニアが少なくない。

埼玉県春日部市の山本貴恵さん(53)は育児を終えた後、中学時代から興味のあった建築への思いが再燃し、15年から主婦の目線を生かしたリフォーム事業を始めた。キッチンや屋内の動線など、経験に基づいた助言が顧客に喜ばれている。18年度の売り上げは前年度の2倍になった。

実際の施工は職人に委ねるが、建築業界で女性経営者はまだ少ない。当初は職人らからは甘くみられ、高い受注額などを提示されることもあった。だが、職人に理詰めで粘り強く説明することで信頼を勝ち取り、仕事を増やしていった。来年には建設業許可を申請する予定だ。

山本さんのように心に秘めていたことを、子育てが一段落して実行に移す女性は多い。横浜市の五味真紀さん(57)も「地域の人がつながる場所を作りたい」との思いを達成するため、自宅を改修してカフェ「ハートフル・ポート」を開いた。客には相席を勧め、新たな出会いを後押しする。

総務省の労働力調査によると、18年の55~64歳の女性の就業率は64.2%で、10年前より12.5ポイント上昇した。全体の3分の2の女性が働いている計算だ。65歳以上の女性の就業率も4.5ポイント上昇し、17.4%に上っている。社会の役に立ちたいと、就業や起業する中高年女性が増えている。

平田のぶ子さんは手にまひのある人も握りやすいかぎ針を開発(さいたま市)

平田のぶ子さんは手にまひのある人も握りやすいかぎ針を開発(さいたま市)

さいたま市の平田のぶ子さん(60)は趣味の編み物を生かし、半身まひの障害者でも握りやすいかぎ針を考案し、実用新案を取得した。東京都世田谷区の小倉美奈子さん(58)は東日本大震災で被災した故郷の福島県で、手芸を通じて心を癒やすボランティアをした。その経験をもとに、今年9月にも一般社団法人を立ち上げ、孤立しがちな被災者の交流促進や防災の啓発に取り組む。

女性をはじめシニア層が働くことは生きがいをつくるだけでなく、生活にゆとりが生まれ消費が増える可能性もある。老後に約2000万円の蓄えが必要と試算した金融庁審議会の報告書が国会でも議論となったが、シニアになっても活躍できる場が広がれば、老後の不安緩和にもつながる。

日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳と、世界トップクラスの長寿国だ。意欲のあるシニアにどういきいきと働いてもらうかが、人口減も進む中での社会の活力維持に重要となる。

伴和砂が担当しました。

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