市場が変える公共資源配分(一目均衡)
編集委員 西條都夫

2019/8/19 17:04
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国土交通省が東京の都心上空を通って羽田空港に発着する新ルートを来年3月に解禁すると決めた。飛行ルートの多様化によって、滑走路の利用効率が高まり、1日当たり50便の増発が実現する。

来年の東京五輪を控え、首都圏の空港容量の拡大は差し迫った課題だ。渋谷や新宿といった繁華街の真上を日常的に飛行機が飛ぶことに、沿線住民や自治体には不安もある。騒音や落下物対策に万全を期すことで、都心ルートの定着をはかることが航空当局や各航空会社の使命だ。

さらに羽田と成田の両空港の役割分担をどう整理するかも残された課題だ。1978年の成田開港以降、「国内線は羽田、国際線は成田」というすみ分けが続いてきたが、この役割分担に必然性があったのか判然としない。近年は羽田発着の国際線が増え、「便利になった」と実感する人は多い。首都圏の両空港の役割分担について、合理性と市場原理の観点から再検討してよい時期である。

そこで注目されるのが米デルタ航空の最近の決定だ。同社の前身の一つは戦後すぐに日本路線に就航した米ノースウエスト航空で、日米路線の盟主ともいえる存在だ。成田を拠点空港と位置づけ、投資を重ねてきた。機材の保守点検のために成田に専用の格納庫を構える唯一の海外エアラインでもある。

そのデルタが今月9日、成田からの撤退を決めた。現在成田からデトロイトなど米5都市に飛ばしている路線を来年3月以降すべて羽田発着に置き換える。羽田の容量拡大を機に同社の就航枠も広がり、都心に近く、多数のビジネス客が見込める羽田への引っ越しを決めたのだ。

この決定は経済原理に照らせば理にかなったものだ。羽田と成田は都心からのアクセスにかなり差があり、東京駅と羽田を結ぶJR東日本の新路線が開通する10年後にはその差はさらに広がる。便利さの見返りに、羽田には高い運賃を払う用意のある乗客が集まる。対して成田はアクセスに時間を要しても、安く旅したい人が選好する。現に国内大手エアラインのOBによると、「同じ路線を飛ばしたときの乗客1人当たりの運賃単価は羽田が成田のおよそ1.5倍」という。

ここから見えてくるのは、「国内・国際」の2分法ではない、市場の力に沿った両空港の新たなすみ分けの姿だ。羽田は高い運賃を負担できるビジネス客・ビジネス路線の拠点とし、成田はできるだけ安く済ませたい格安航空会社(LCC)などのレジャー路線・リゾート路線の発着基地になるのが望ましい形ではないか。

空港の発着枠に限らず、通信・放送用の電波のような希少な公共の資源をだれにどんな用途で配分すべきかは難しい問題だが、過去の経緯やしがらみ、サンクコスト(埋没費用)は一度棚上げし、その空港や周波数帯に適した用途をゼロベースで考えてみることが必要だろう。

それが日本経済の活性化にもつながるはずだ。

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