日本、実は世界4位の「移民大国」 採用難で門戸開放

コラム(ビジネス)
2019/8/20 4:30
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日経ビジネス電子版

世界で4番目に外国人を多く受け入れる「移民大国」となった日本。政府も新たな在留資格を設け労働市場の門戸開放に動き始めている。背景にあるのが深刻な人手不足だ。コンビニエンスストアや飲食店など私たちが普段目にするところ以外にも、採用難により外国人材に頼らなくては回らなくなっている現場が増えている。

■地方だからこそ必要な外国人材

福岡県朝倉市にある「原鶴温泉」。この温泉街で最大級の75の客室を構える旅館「泰泉閣(たいせんかく)」には、9人の外国人正社員が在籍している。ネパール出身のティムシナ・ビマルさん(25)もその1人だ。

福岡県の温泉旅館「泰泉閣」に入社したネパール出身のティムシナ・ビマルさん

福岡県の温泉旅館「泰泉閣」に入社したネパール出身のティムシナ・ビマルさん

「ホテルの経営などを勉強したかった。都会も苦手だったので」と泰泉閣に入社して1年。現在は宴会場の配膳などを担当し、客とのコミュニケーションにも支障はない。「懐石料理では料理を出すタイミングなど個々の部屋の状況把握が大事で、日本人でも難しい。彼はそれも難なくこなす」とラウンジマネージャーの松尾一生氏は話す。

泰泉閣ではかつては高卒の新卒社員を5~8人採用していた。ただ定着率は悪く、1年未満で辞めてしまうケースが多かった。「5、6年前から外国人材の労働力に頼らざるを得なくなった」と下野博文・接客支配人が実情を明かす。

原鶴温泉は大都市や著名な観光地に比べて訪日客が多い地域というわけではない。外国人への「慣れ」がない地方都市の旅館という伝統的な職場で「職場になじめるのか、仕事はこなせるのか」(下野氏)という不安はあった。現場では文化の違いや、日本人従業員が外国人との接触に慣れておらず、うまくコミュニケーションがとれていない時期もあったという。

「最初は外国人が宴会場の個室対応なんて無理だと思っていた。でも、今は本人の頑張り次第で『結局は本人の資質だ』と思うようになった」と松尾氏。一方、外国人材の多くは3年以上定着しないという苦悩もある。スキルが上がればキャリアアップを目指して転職してしまうのだ。「田舎ということもあるのでしょう。博多や天神の方に移ってしまう人もいる」と松尾氏は苦労を語る。

だが人気が高いとは言えない業種でさらに人材の少ない地方都市だからこそ、外国人の力は必要不可欠だ。松尾氏はビマルさんにいつかはフロントのリーダー役を任せたいと考えている。ビマルさんの育成を成功モデルに「外国人材がスキルを学べる場」というイメージをアピールすれば、彼らのコミュニティーからさらに人を呼び込めるとみているからだ。

「『辞められたらまた採用すればいい』では駄目。外国人だって職場環境を見ている。これからは海外の労働者にも選ばれる時代だ」。下野接客支配人はこう語る。

■日本人よりも稼ぐ

「ご乗車ありがとうございます」。日の丸交通のタクシーに乗り込むと、少し癖のある日本語で迎え入れるのはパキスタン人運転手のムハンマド・リハンさん(34)。パキスタンの大使館職員として日本に駐在したときに、日本人女性と結婚。家族の意向で、18年9月にタクシードライバーとしてデビューした。たどたどしさが少し残る日本語だが、安全運転で乗客を目的地に届ける。

日の丸交通のドライバーとして働くパキスタン出身のムハンマド・リハンさん(写真:陶山勉)

日の丸交通のドライバーとして働くパキスタン出身のムハンマド・リハンさん(写真:陶山勉)

日の丸交通(東京・文京)では、現在20カ国40人の外国人ドライバーが都内を走る。タクシー業界はドライバーの高齢化もあり慢性的な採用難に直面している。外国人ドライバーがいる会社もあるが、人数は少なく、在日の韓国人や中国人が大半という。日の丸交通では永住者や配偶者ビザで滞在し、漢字が読めて日常会話ができ、国内外で3年以上の免許取得期間を持つ人を対象に採用している。エジプトやオーストリア、ロシア、スリランカなど多岐にわたる国籍の外国人が働く。

日の丸交通が外国人の採用に力を入れ始めたのは2年ほど前から。きっかけは、たまたま入社していた在日ブラジル人ドライバーの好成績に着目したことだった。一般的なドライバーの営業成績は1日平均で5万円程度なのに対し、そのドライバーは毎日8万円近い売り上げを稼いでいた。1300人のドライバーが在籍する日の丸交通でトップ10に入る成績優秀者だった。

「タクシーの運転手の給料は歩合制。だからハングリー精神が高い外国人に向いているのでは」。そう考えた日の丸交通が求人広告を展開し始めたところ、応募が殺到。現在では毎月60~70人もの応募があり、日本語能力などで選考し月2~3人が入社する。入社後に研修を受け、タクシーの営業運転ができる普通自動車二種免許の取得を目指す。

同社の企画部の福家孝之課長代理は「(外国人ドライバーは)まだ経験は少ないものの日本人ドライバーより1割程度高い成績を残している」と話す。ベテランドライバーに学ぼうとする意欲が高いことから、成績の差はさらに広がる可能性もある。前述のムハンマドさんも「タクシーの仕事は簡単だと思っていたが、違った。日々ベテランの人に都内を走るこつを教えてもらっている」と話す。日本人の採用が難しくなり、さらに訪日客が増える中で、外国人の活躍がタクシー業界を支える日が来るかもしれない。

■銀行が紹介するのは外国人材

食品工場などに外国人を仲介する事業を手掛ける人材サービス会社マックス(東京・文京)の正木研社長は、最近意外な人物と営業に行くケースが増えた。金融機関の融資担当者だ。融資先にマックスを紹介する動きが加速しているのだ。

こうした取り組みを始めたのは2年ほど前から。銀行出身の正木社長が営業先を開拓するために、当初はマックスから金融機関を誘っていた。しかし、18年春から状況は変わった。「金融機関から『一緒に来てくれないか』と声をかけられる機会が増えた」(正木社長)。大手銀行だけでなく、信用金庫など多岐にわたる金融機関から「融資先訪問に同行してほしい」と依頼が殺到する。

かつては金融機関が融資先に紹介をするのは、主に新たに顧客になる可能性がある企業が多かった。しかし今、企業を悩ませるのは売上高拡大よりも現場を回す人材の不足だ。人材仲介会社に依頼するだけでは集めるのが難しくなっており、外国人に頼らざるを得ない状況になった。どのエージェントに頼めば、不法滞在者ではない適切なビザを持った人が来てくれるのか。採用した外国人はきちんと働いてくれるのか。不安は絶えない。

そこに着目した金融機関が、外国人の派遣で実績のあるマックスを融資先に紹介するという動きだ。マックスの正木社長は全国を飛び回り、登録する3000人の外国人をパートやアルバイトとして紹介する。登録する外国人の時給は1100円程度と企業が日本人を直接雇用するよりも高いケースもあるが、「明日にでも連れてきてほしい」と頼まれることも珍しくない。

経済協力開発機構(OECD)の調べによると、日本の年間の外国人受け入れ数(2016年)はドイツ、米国、英国に次ぐ4位。カナダやオーストラリアなど移民で知られる国々をも上回る。日本では「移民」という単語への抵抗感が強く、在留資格の拡大などについて政府も「移民政策ではない」との建前を崩さないが、実質的には既に「移民大国」とも呼べる状況だ。

実際、人手不足に苦しむ企業やその現場では外国人材の確保へ動き始めている。ただ外国人材の多くが日本では当たり前の働き方や雇用慣行に不満や不安を持っている。成長へのイメージが持てて、能力や実績をフェアに評価する人事システムや日常生活も含めたフォロー体制が整っているかどうかなど、企業は採用した「後」が問われる。

(日経ビジネス 神田啓晴、長江優子)

[日経ビジネス電子版 2019年8月19日の記事を再構成]

 この記事は日経ビジネス2019年8月19日号特集「『ブラック国家』ニッポン 外国人材に見放されない条件」の関連記事です。詳しくは特集をお読みください。

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