小説のオリジナリティーとは 芥川賞選評から考える

文化往来
2019/8/20 6:00
保存
共有
印刷
その他

今村夏子氏の「むらさきのスカートの女」の受賞が決まった第161回芥川賞で、候補作だった古市憲寿氏の「百の夜は跳ねて」における参考文献の扱いが選考会で議論となっていたことがわかった。同作は別の作家が2012年に発表した小説と題材や細部の描写が似ている。盗作には当たらないが、作品のオリジナリティーをめぐり選考委員の間で意見が分かれた。

芥川賞候補になった古市憲寿氏の小説「百の夜は跳ねて」(新潮社)と参考文献に挙げられた木村友祐氏の「天空の絵描きたち」(「文学界」2012年10月号)

芥川賞候補になった古市憲寿氏の小説「百の夜は跳ねて」(新潮社)と参考文献に挙げられた木村友祐氏の「天空の絵描きたち」(「文学界」2012年10月号)

「百の夜は跳ねて」は高層ビルの窓ふきの青年を主人公に、都市生活者の満たされない内面を浮かびあがらせる。古市氏が参考文献に挙げた木村友祐氏の「天空の絵描きたち」は窓ふきの女性の労働を題材に、利益優先の社会で個人がないがしろにされるさまを描いている。

「文芸春秋」9月号掲載の選評では、川上弘美氏が「安易に、木村さんの声を『参考』にしてしまった」「ものを創り出そうとする者としての矜持(きょうじ)に欠ける行為」と指弾したほか、吉田修一氏も「盗作とはまた別種のいやらしさを感じた」と痛烈に批判。一方で奥泉光氏は、様々な言葉をコラージュするのが創作であるとの考えに立ち「自分は肯定的に捉えた」と記している。

厳しい批判について名古屋大の日比嘉高准教授(日本文学)は「適切な手続きは踏まえていても、古市さんの小説に木村作品との対話関係が見受けられず、先行作品への敬意が感じられないということだろう」と指摘する。選考委員の高樹のぶ子氏も「作家にとって切実なものでなければ深く取り込むことはできない」と話す。

前々回の芥川賞の選考でも、候補作品の一つでノンフィクション作品との類似が問題になった。文学は先行作品との関係の中で生み出されるものなので、引用や換骨奪胎の作法がしばしば問題になる。多様なコンテンツにアクセスできる時代だからこそ、「他者の言葉」を踏まえて創作する作家には覚悟が求められるだろう。

(桂星子)

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]