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場立ち予想家は話術の達人 競馬ファンと運命共に

東京・大井競馬場のパドック横にずらりと並ぶ百戦錬磨の場立ち予想家のブース。一番端に位置する「ゲートイン」と書かれた場所には、いつも人だかりができている。大井競馬のカリスマ予想家、吉冨隆安氏。特に「痛快かつ爽快、そしてユーモア」あふれる口上は、時代が平成から令和へ変わっても、多くのファンを魅了し続けている。今回は吉冨氏の「口上」に迫る。

場立ち予想家の吉冨さんのブースの前にはいつも人だかりができる

「コツは何にもありません」

あれだけ人を引きつける口上には、きっと何かコツや秘訣があるに違いない、そう思ったのが今回、取材を思い立ったきっかけだった。さっそく口上について本人に伺ってみた。

すると、「予想理論」について聞かれると思っていた吉冨氏にとっては意外な質問だったようで、とても驚いた顔をされていた。そしてすぐさま「私は話し方についてこれまでレッスンを受けたこともないし、口上のコツなんてものも一切ありませんよ。むしろアナウンサーの方にアドバイスをいただきたいぐらいです」と笑いながら答えが返ってきた。

あれだけドラマチックな話し方をされるのだから、てっきり「話し方」についても勉強されてきたのだろうと考えていた私は、思わず拍子抜けしてしまった。加えてメインテーマになるはずの質問があっさり終わってしまい、どうしようか思案をめぐらせていた。そんな私に吉冨氏はこう語りかけた。

「場立ち予想をしているあの場は、かなり特殊な世界なんです。例えば30人聞いている人がいるとする。周りの人間からすれば、1人が30人に向かって演説をする、1対30という構図に見えるでしょう。しかし実際は、一人ひとりのファンと予想家がタッグを組んでいて、30組のペアができているようなものなんですよ。いうなれば場立ち予想家と聞いているファンは、テニスのダブルスのような関係で、その日の勝敗、その日の運命を共にしているのです」

「確かに周りからすれば、1人の男がおもしろおかしくあおって、予想を売っているように見えるかもしれない。しかし決して私はあおっているわけではなく、共に勝利をつかもうと"戦友"を励ましているだけなのです。そのように互いに鼓舞し合っているのがあの場所であり、だから特殊な世界なのです」

話す言葉の表現一つ一つ、そして言葉の力強さからは"吉冨節"の神髄を感じた。

辺境の地にできる人の群れ

吉冨氏は1989(平成元)年に大井競馬場の場立ち予想家として独立し、今日まで30年以上、壇に立ち続けてきた。今でこそ日本を代表する場立ち予想家だが、決して華々しくデビューしたわけではなかった。最初に与えられた場所は、4コーナーの端っこで、人はおろかハトすらも来ないようなところだったそうだ。向きもコースに対して反対向きだったため「みんなコースを見ているときにおれは平和島競艇場に向かってしゃべっていた」と、当時のことを今でも自虐の種にしている。

そうした場所だったため、とにかく集客には苦労した。30年前といえば、今日のようにネットがあるわけでもない。そのため「場立ち予想家」として名を上げるには、まず自分の話を聞いてくれる人たちを集めなくてはならないのだ。

そんな理由もあって、なんとか目立つように、なんとか人を集めるようにと工夫して、競馬とは関係がないネタも入れるようになったそうだ。それが今の口上につながっているかもしれない、というのが本人の分析。「辺境の地」で独立した吉冨氏は、「魅力あふれる口上」と確固たる軸馬1頭を決める「実走着差理論」によって多くのファンを獲得してきた。

プレッシャーとの戦い

競馬には当然、当たるときもあれば、外れ続けるときもある。恥ずかしながら一日一度も当たらず、「競馬はもうやめよう」と誓いを立てた経験が筆者には何度もある。プロの予想家でも、当たるときと外れるときの波は当然ある。しかも、場立ち予想家はその日の予想を、台の左上にある板に記しているのだから、残酷なまでに結果は一目瞭然である。

場立ち予想家のブースにはその日の予想が掲示されている。外れが続いても逃げも隠れもできない

吉冨氏にとって、あの壇に立つことは今でもプレッシャーであり、特に「本日一番」など勝負レースのときは耐え切れないほどという。筆者はそこまでのプレッシャーがあったとは知らず、「よくここまで続けられたと思いますよ」と笑いながら話していた姿が印象に残った。

どのようにしてプレッシャーを乗り越えてきたのかと尋ねると「自分の理論が正しいという、根拠があるからです」とこれまでにないぐらい強い答えが返ってきた。

「実走着差理論は計算方法さえ間違えていなければ当たるときはとことん当たります。魚の入れ食いのように、3連複が1日パーフェクトで当たることだって1年に何回かはある。これはゴルフで例えるならばホールインワンを何回も連続で出すようなものであり、偶然やまぐれでは絶対起こらないはずなんですよ」。数え切れない敗戦を重ねてアップデートし続けてきた「実走着差理論」。勝利することは、偶然ではなく必然なのである。

競馬専門紙の出馬表には、徹底した検討の跡を示す書き込みがびっしり

競馬理論に関する熱い話が落ち着くと、最後に吉冨氏は穏やかな口調でこう語った。「いつも来てくださる常連の方はもちろんですけど、若いカップルや家族連れなど、初めて競馬場に来たような人が自分の予想を聞いていると、より燃えますね。なんとか当ててあげて、帰りにいつもよりおいしいものを食べて、『良い日だったなぁ』と思ってほしいですから。それが私のできる社会貢献です」

吉冨節をご堪能いただけただろうか。筆者は1時間以上お話を伺ったのだが、取材していることを忘れ、思わず聞き入ってしまった経験はアナウンサーになってから初めてだった。前述の通り本人は話の勉強をしたことがないとのことだったが、やはり吉冨氏の語り口には人を引きつける魅力があることは間違いないだろう。

筆者個人として吉冨氏の魅力をひとつ挙げるならば、知識の幅広さだ。経済、哲学、時事ネタなどなど、取材をしていて吉冨氏に扱えない分野はないのではないかと思わされるほど話の内容が多岐にわたっていた。そして知識の幅が広いがゆえに、比喩も的確だ。今回も「テニスのダブルス」「ゴルフのホールインワン」という話が飛び出した。一見、競馬と全く関係がないようにみえる事象との共通点を探し出し、それをうまく取り入れることで、私はストンとふに落ちる爽快感を味わった。

「話す」ことをなりわいとする筆者にも、大変な勉強になった。吉冨節から学んだことを生かし、私も「魅力的な語り口のアナウンサー」を目指したい。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 小屋敷彰吾)

 各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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