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豊島逸夫の金のつぶやき

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長短金利逆転、なぜ?いつまで?

2019/8/15 9:40
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8月の「金利怪談」に株式市場が震撼(しんかん)している。米ダウ工業株30種平均が前日比800ドル安の安値引けとなったきっかけは中国と欧州であった。中国の7月の工業生産は前年同月比4.8%増にとどまり、伸び率は10年半ぶりの低水準。ドイツの4~6月期の実質国内総生産(GDP)は前期比0.1%減とマイナス成長だった。

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欧州と中国の経済に対する懸念が高まり、安全性を求めるマネーは米国の長期金利の指標となる10年物国債への逃避を速めた。米10年債の利回り低下が加速して、14日は欧州時間で米10年債が2年債の利回りより低くなる「長短逆転現象」が発生した。

実は金利の長短逆転現象は既に米10年債と3カ月、6カ月、1年債の間では起きていた。ただ、これはいわゆる「前座」の位置づけ。市場では「10年債と2年債の利回り逆転はまだだから、様子見」との会話が交わされていた。利回り格差(スプレッド)の指標としては10年債と2年債が最も代表性が高い「真打ち」のためだ。10年債と2年債の長短金利の逆転現象は不況の前兆とされ、危機ラインを超えたと市場では見なされる。

ではなぜ、不況の前兆なのか。過去の事例では、10年債と2年債の長短金利の逆転が生じると、数カ月から1年以上のタイムラグを伴って景気後退に陥っている。いきなり不況になるわけではなく、タイムラグの間には株価は上昇する事例も珍しくない。

それゆえ、14日のダウ平均の800ドル安は、マーケットの初期のショック的な反応といえる。「10年債・2年債逆転」との見出しに、アルゴリズムが一斉に売り注文を発動させた。夏季休暇で商いも薄く、値動きは増幅された。

この逆転現象が解消されるために必要な条件はなにか。総じて、政策金利と相関の強い2年債利回りは米連邦準備理事会(FRB)が決め、インフレ期待を映す10年債は市場が決めるとされる。

そこで、まずFRBが利下げ姿勢を強めること。例えばパウエルFRB議長が、トランプ政権が望むごとく、9月に0.5%幅で利下げを示唆すれば、2年債利回りは急低下しよう。世界同時株暴落ともなれば、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)を待たず、緊急利下げの可能性さえ市場では期待感を持ってささやかれる。

とはいえ、市場が動揺したから利下げするということになれば、マーケットは催促すれば利下げしてもらえると甘えてしまう。既に市場は先走り、年内に2回から3回の利下げを織り込んでいる。そこに、FRBがゼロ回答すれば、マーケットは混乱する。昨年12月に利上げに動き、市場が大変動して以来、FRBはマーケットの反応に常に神経質にならざるを得ない状況なのだ。FRBの政治的独立性が危ういが、マーケットのおねだりから独立する姿勢も見せねばなるまい。

なお、FRBにはオペレーション・ツイストという金融政策手段もある。FRBが2年債を買い、短期金利を下げ、10年債を売ることで、長期金利に上げ圧力をかける。FOMCが長短金利逆転を重要視すれば、現実的な政策対応となろう。

いっぽう10年債利回りを相対的に上げるには、ハードルは高いが、インフレ指標が改善することが条件となろう。既に、7月の米消費者物価指数(CPI)は変動の激しいエネルギー・食品を除くコア指数で2.2%上昇した。低インフレ現象が解消に向かえば、経済の体温計とされる10年債利回りが反騰しよう。更に、米10年債は安全資産として買われるので、地政学的リスクが後退したり、米中の貿易交渉が進展したりすれば売られ、利回りは上昇する。

とはいえ、過去の事例が今回の参考になるとは限らない。なんといっても、米政策金利は2%台という歴史的低水準だ。欧州や日本でマイナス金利も常態化している。それゆえ、この程度の長短逆転は新常態(ニューノーマル)かもしれない。国債購入者が金利を払うという、どう見ても異様なマイナス金利に比べれば、長短金利が一時的に0.02%とか0.08%程度逆転する現象は、ノイズ(雑音)とも言えよう。

リーマン・ショックの有事対応として発動された非伝統的金融緩和政策が終了して金融正常化に向かうはずが、今や振り出しに戻りつつある。中央銀行は、未知の水域での海図なき航海を強いられているのだ。その過程で、一時的に長短金利が逆転することもあろう。

筆者は、マイナス金利がいつまで続くのか、のほうが気になる。14日時点で、ドイツの10年物国債はマイナス0.65%、フランス10年債までマイナス0.37%水準にマイナス幅が拡大中だ。あの財政不安のイタリア国債の利回りがプラス1.51%水準まで下がり、米10年債1.58%より低くなるという逆転現象のほうが、不気味だ。財政破綻したギリシャの国債でさえ、2.07%水準だ。

先週は、デンマークの銀行が、10年物の住宅担保証券をマイナス0.5%で発行して話題になった。住宅ローンを組めば、金利がもらえるということになる。異常としかいいようがない。

欧州の国債は欧州中央銀行(ECB)が量的緩和を再開することで、いずれECBに買ってもらえるという見込みがあるから、機関投資家はマイナス金利でも国債を買い続ける。彼らが追求しているのは、イールド(利回り)ではなく、短期債券売買差益なのだ。

それゆえ、ラガルド次期ECB総裁が、緩和政策から引き締めに転換するまでは、マイナス金利の深掘りも含め、異様な状況は変わるまい。

株式市場の反応は、緩和は大歓迎なのだが、明らかな金利異変となるとさすがに不安感から売りが先行する。しかし、新常態に慣れてしまえば、とりあえず株買い再開となろう。

一部のヘッジファンドたちからは、日経平均が2万円を割れば買いに入るから現地が深夜でも構わないので連絡してくれ、とのリクエストも来ている。

おおむね、超短期売買に徹する商品投資顧問(CTA)は、株価下落のモメンタム(勢い)に乗って一稼ぎをもくろむ。いっぽう、グローバルマクロ系の中期で動くファンドは、2万円割れで徐々に買いのタイミングを模索する傾向も見られる。

夏休みを切り上げて、ぼやきながらも、欧米のヘッジファンドのファンドマネジャーたちは市場に戻りつつある。

豊島逸夫(としま・いつお)
 豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・公式サイト(www.toshimajibu.org)
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
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