イラク戦争のトラウマ追体験 小泉明郎のVR作品

文化往来
2019/8/15 6:00
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薄暗がりの中、ゴーグルとヘッドホンを付けると、眼前の景色はイラクの首都バグダッドの街角に変わる。視界の主は20代前半の男性。市内のとある住居の一室で、とつとつと語り出す。13歳の頃、外を歩いていたら、突然米軍ヘリに銃撃され、目の前で5人が死んだ――。

小泉明郎「Sacrifice」(2018年、VRインスタレーション)
(C) Meiro Koizumi
Courtesy of the artist, Annet Gelink Gallery and MUJIN-TO Production

小泉明郎「Sacrifice」(2018年、VRインスタレーション)
(C) Meiro Koizumi
Courtesy of the artist, Annet Gelink Gallery and MUJIN-TO Production

美術家の小泉明郎が無人島プロダクション(東京・墨田)で開催中の個展「Dreamscapegoatfuck」。展示する3作品のうち「Sacrifice(犠牲)」(2018年)は仮想現実(VR)の装置で、イラク戦争の被害を被害者本人の視線と声で追体験できる。主人公は亡くなった親族の名前を呼び、両手で彼らをかき抱こうとする。観客が手を動かすと、体や心と一体化したような、不思議な感覚が襲う。だが、ゴーグルを外せば、そこはイラクの危険から遠く離れた日本だ。

美術家の小泉明郎

美術家の小泉明郎

小泉は言う。「自分と他人との距離感について考えてほしい。他人の体験を自分のものにするのは難しいが、世の中には、自分に引きつけて感じるべき現実があるのも確か。アートが(自己と他人の体験の)橋渡しになれば」

「Battlelands」(18年)は2枚の画面に動画を映し出す。主人公はイラク、アフガニスタン戦争に従軍し、帰還して退役した兵士7人。彼らの視線でカメラが動き、日常の風景を映し出す。同時に過酷な戦場の体験が語られる。「兵士はみなPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えていた。彼らにとっての戦争は今も続いている」(小泉)

これまで日本の過去の戦争をテーマにすることが多かった小泉。米国の戦争の取材を重ねるなかで気づいたのは「日米共通して子どもの話をする人が多いことだった」。会場の床に置かれた彫刻作品「Sleeping Boy」(15年)は、自身の息子への思いをモチーフにしている。8月31日まで。

(郷原信之)

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