がん治療に第5の道 住友重機・ローム・楽天が競う
薬剤で目印、放射線・光を照射

2019/8/10 21:30
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がん細胞に薬剤で目印をつけて放射線や光で破壊する新しいがん治療法が2020年にも始まる。周囲の組織へ浸潤したり再発した治療の難しいがんへの効果が期待される。治療に使う装置や薬の開発では住友重機械工業のほか、ロームや楽天など異色の顔ぶれが並ぶ。普及に向けてコスト面の課題は残るが、医療界に新しい潮流を生みそうだ。

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放射線と薬剤を組み合わせ体へのダメージが小さく高い効果が期待される。がん治療では手術や従来の放射線、抗がん剤、免疫療法に続く「第5の治療法」ともいわれる。

20年にも一般患者への治療が始まるのは、BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)と呼ぶ放射線治療だ。従来の放射線治療と違い、正常細胞をほとんど傷つけず、照射回数が1回で済む。正常な組織との境界がはっきりしない病巣にも使える可能性が高く、PET検査と併用して治療前に効果を予測できる。

ホウ素化合物を含む薬を患者に与え、がん細胞に取り込ませる。その目印めがけて中性子を衝突させ核反応を起こしがん細胞のDNAを壊す。治療は1回40分ほど。正常な細胞はホウ素化合物をほとんど取り込まない。

住友重機がBNCTの治療装置を、ステラケミファ子会社のステラファーマ(大阪市)が薬剤を開発している。喉や舌といった頭頸(とうけい)部のがんへの臨床試験(治験)をこのほど終えた。国の承認の審査期間を6カ月に短縮する「先駆け審査指定制度」の対象に選ばれ、当局への申請を経て20年にも承認される見通しだ。

まずは進行した頭頸部のがん患者などが対象で、治験では約70%の患者でがんが縮小した。住友重機の装置を導入し、治験に参加した総合南東北病院(福島県郡山市)が20年度の治療開始を目指す。

福島SiC応用技研が開発中の小型BNCT装置のイメージ図

福島SiC応用技研が開発中の小型BNCT装置のイメージ図

BNCTを巡っては現在、国内で複数施設が建設されている。中性子を従来主力だった原子炉ではなく加速器でつくることに成功した。装置を病院に設置できるまで小型化できたのが追い風だ。

住友重機を追い日立製作所三菱重工業も装置を開発している。日立は米子会社で開発した加速器を国立がん研究センター中央病院に納入した。

課題はコストだ。BNCT施設の建設には50億~70億円と陽子線を使うがん治療施設と同程度の費用がかかる。これを20億円程度に下げる技術をロームが出資する福島SiC応用技研(福島県楢葉町)が開発中だ。

福島SiCは20年に関西の医療機関に装置を納入して治験を始め、22~23年の実用化を目指す。SiC半導体を産業機器向けに供給するロームは用途を医療にも広げる。

放射線治療は抗がん剤などに比べ患者への負担が少なく、市場は拡大傾向にある。米調査会社グランドビューリサーチは放射線治療関連の市場が16年の57億ドル(6100億円)が25年には101億ドルになると予測する。

楽天会長兼社長の三木谷浩史氏が会長を務める楽天メディカル(米カリフォルニア州)は光免疫療法と呼ぶ治療法を開発中だ。治療の仕組みや対象疾患はBNCTに近い。最終段階の治験が国内外で21年に終了する予定だ。先駆け審査指定制度の対象にも選ばれ、治験が順調に進めば22~23年ごろの承認が見込まれる。

がん細胞表面の特定のたんぱく質にくっつく抗体と、光に反応する分子を結合した薬を患者に注射し、がん細胞に薬を集めてレーザーで赤色光を当てる。光に反応する分子が変化を起こし、がん細胞を破壊する。米国立衛生研究所(NIH)の小林久隆主任研究員らが開発した手法で、再発した頭頸部がんなどで治験を始めている。

楽天メディカルの前身企業は三木谷氏が個人で167億円を出資し、筆頭株主となった米スタートアップで、今は楽天本体の持ち分法適用会社だ。日本のほか米国などでも事業化を進め、薬と治療装置を手掛ける。

BNCTや光免疫療法は当面、中性子線や赤色光を当てやすい体の表面に近いがんに限られる。三木谷氏は光免疫療法の「対象疾患を広げていく」考えで、肺がんなど体の奥にできるがんも治療できるようにする狙いだ。対象が広がれば治療法として定着する可能性がある。(大下淳一)

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