2019年9月17日(火)

マッキンゼーは起業の揺りかご 卒業生7000人の人脈

2019/8/12 0:00
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起業の担い手として米コンサルティング大手、マッキンゼー・アンド・カンパニー出身者の存在感が高まっている。起業を経験したことのある世界の「マッキンゼー卒業生」は7千人近くに及び、互いに刺激し合える強みがある。日本でも医師や官僚の経験者らが競い合う。スタートアップに同社の卒業生が目立つことは、日本企業の人材の起業意欲が乏しい現状も映している。

「人工知能(AI)で革新的なサービスを出せるなら、辞める価値があると思った」

マッキンゼーの日本支社でパートナー(共同経営者)まで務めた重松路威氏は、2018年初めに退社した。そして同じ年のうちに消費分析のニューラルポケット(東京・千代田)を創業した。同社には世界から技術者が集まっている。AIを使い、店頭での消費者の動きをとらえながら商品の売れ行きを分析する技術などの開発を急ぐ。

世界に広がる「アルムナイ」

起業のきっかけは、17年に米シリコンバレーを訪れ、同じマッキンゼー出身のステファン・ヘック氏に出会ったことだった。自動運転のための画像を分析する米ナウトの最高経営責任者(CEO)で、激しい競争に身を置いていた。

ナウトには米ゼネラル・モーターズや独BMWなどが出資し、多くの資金を調達している。重松氏は「変化の最前線にいたい」との思いを強くしていった。

重松氏の事例は、起業家を生みだす揺りかごとしてのマッキンゼーの特徴をあらわしている。グローバルに事業を営んでいるため、刺激し合える仲間が世界中にいるということだ。

マッキンゼーは同社出身者のことを「アルムナイ」と呼んでいる。一般に同窓生という意味で使われる言葉だ。アルムナイは世界に3万4千人いて、このうち2割が起業を経験する。

日本支社は社員とアルムナイの交流の場を定期的に設け、ビジネスに生きるネットワークづくりを促している。リクルートも独立する人材を多く輩出することで知られるが、それでも起業家たちの人的ネットワークは国内中心だ。

医師や官僚も

こうした世界規模のネットワークを土台にして、日本の中でもアルムナイのつながりが深まり始めている。重松氏は、資産運用サービス会社ウェルスナビ(同・渋谷)の柴山和久社長によく相談した。「事業計画づくりや資本政策などつまずきやすい点を教えてもらい、心強かった」

マッキンゼーを通じた起業へのルートは、大きく分けて2つある。

1つはコンサルティングと異なる分野からマッキンゼーに入り、その後起業するパターンだ。

武藤真祐氏は循環器内科の医師で、東大病院などに勤めた経験を持つ。マッキンゼーに入り、現在はオンライン診療システム会社、インテグリティ・ヘルスケア(同・中央)の会長を務める。

官から民へという流れをあらわしている事例が、岡田光信氏だ。マッキンゼーに入社する前は旧大蔵省主計局で働いていた。宇宙ごみを除去する衛星の開発会社、アストロスケールホールディングス(同・墨田)のCEOとして、世界でも珍しい事業を形にしようとしている。

もうひとつのパターンとして増えているのが新卒でマッキンゼーに入社し、起業する流れだ。

金属加工の受発注を仲介するキャディ(同・台東)の加藤勇志郎社長は、面接で「3年で起業したい」と話した。どんな事業で起業するかは決めていなかった。だがそのうちに「町工場は取引の仕組みが古くから変わらず立場が弱い。製造業の課題だ」と気づいて、進む道を決めたという。

先輩の背中追う

マッキンゼーからスタートアップ経営へと進む卒業生にとって、00年ごろ会社を興し、上場させた先輩たちが刺激となっている。

ディー・エヌ・エーの南場智子会長はゲーム開発で会社を成長させ、自動運転に事業を広げている。医師が論文や薬の情報をみられる医療ポータルサイトの運営会社、エムスリーの谷村格社長は時価総額を1兆5千億円まで高めた。

多くの起業家を生んでいるとはいえ、もともとはコンサルタント。実際に経営していたわけではない。ただ、仕事を通じてその難しさを身近に感じているため、会社を興すという流れは自然なものとなりやすい。

これと比べればほとんどの日本企業では起業の意欲が高まりにくい。終身雇用で、割り振られた細かい役割にまい進しているため、経営の感覚は養えない。元日本支社長の平野正雄早大院教授は「大企業に優秀な人は多いが、閉鎖的。だから外資系出身者が目立つ」と指摘している。

AIなど技術の進歩に伴ってイノベーションが加速し、ビジネスの可能性は広がっている。マッキンゼー出身者たちによる起業の波は、日本の人材に挑戦を促している。

(山田遼太郎)

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