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好機にこそ「遊び」 浦和・興梠が8年連続2桁得点

J1浦和のFW興梠慎三(33)が1日の湘南戦で今季リーグ戦での10ゴール目をマークした。J1では最長となる8年連続2桁得点。さび付かない技で、ベテランになってもなおコンスタントにゴールを積み上げている。

リーグ全体でみると佐藤寿人(千葉、37)による12シーズン連続2桁得点という大記録がある。ただし佐藤は仙台、広島でのJ2時代を含んでおり、J1に限ると興梠が最長記録となる。

J1の歴代得点王でも、長期に渡って2桁ゴールを挙げたFWは多くはない。興梠は2013年に鹿島から浦和へ身を移してから、「恩師」と慕うペトロビッチ監督(現札幌監督)にFWの1番手を託され続け、その期待に応えてきた。

シュートを決めるべきエリアで、心に余裕を持てるか。興梠(右)は「遊び心が大事」という(6月15日の鳥栖戦での決勝点)=共同

2013年から3年続けて得点王となった大久保嘉人(磐田、37)は「俺にボールを寄越せ」といったストライカーらしい責任感と我の強さを備えていた。2012年の得点王である佐藤は高さやスピードに恵まれていたわけではなかったが、ゴール前のどこにどんなタイミングで入り込めば得点できるかを考え抜いたワンタッチゴールが持ち味。パスの出し手と入念すぎるほどの意思疎通に注力することで、点取り屋としての自分を生かし続けた。

一方、興梠は得点王に輝いたことはない。その気になれば日本代表でもおかしくない力を持ちながらも、当人がその欲を示さない。大久保のような押しの強さはないし、外国人FWのように強引にシュートコースをこじ開ける剛力を誇るわけでもない。味方に生かされてこそ仕事ができる「自分1人では得点できないタイプ」と自覚する点は佐藤とも相通ずるが、佐藤のような綿密さという形容はしっくりこない。興梠のプレーにはむしろ、ひょうひょうとした即興芸の趣がある。

「外してもOK」心の余裕が必要

趣味の一つでもあるゴルフは自分でも「なかなかのもの」という腕前。練習後に遊びでキャッチボールをすれば、素人らしからぬ肩とグラブさばきをみせる。球技をさせれば何でも「オール5」が取れそうだ。とらえられそうにない空中のボールをミートしてみせるボレーの感覚、力任せにせずボールを狙ったコースへ送り届ける技は、生来のセンスの延長線上にあるものだろう。「あいつは才能でやっている。努力したとこ、みたことない」。数々のゴールをアシストしてきた柏木陽介(浦和)は冗談半分にうそぶく。

スッと動き出し、しれっとDFの視界から消える。背中から密着されて押されても、柳のごとく身をかわし、ボールを逃がしつつキープするポストプレーはこの人ならではの至芸と呼びたくなる。

「ストライカーはペナルティーエリアのなかでどれだけ仕事ができるか」と前置きしたうえで、興梠は続ける。「(ただし)ペナルティーエリアでは『遊び』が必要。いい具合で遊び、余裕がないと決められない」。決定機を決めれば英雄に持ち上げられ、外せば戦犯扱いされるのがエースストライカー。明暗を分かつ大事な瞬間にこそ、「遊ぶ」のだという。絶好のチャンス、と万人なら力みそうなところで、興梠は涼しい顔でボールと触れ合ってみせる。「決めないと、と思うと力が入ってしまう。外してもOK、くらいで。心の余裕といえばいいのかな」。拘泥しすぎないことで、かえってゴールという結果へ近づく境地に達したのだろうか。

長期離脱こそないが、この2、3年は膝などの慢性的な痛みをだましだましなだめつつプレーしてきた。強いシュートを打つのをはばかられる状態のときも。そんな興梠が、パンチ力やスプリント力なら下り坂を迎えそうなキャリアの晩年、30歳を超えた今でも確かな足跡を残し続けているのは意味深い。

スピードとパワーが幅を利かせつつある近年のサッカーにおいて、「技」としなやかな「心」で身を立てるすべを、身をもって示しているようでもある。

(岸名章友)

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