美しさ 心のひだまで描く(バレエ評)
エイフマン・バレエ「アンナ・カレーニナ」

関西タイムライン
2019/8/9 7:00
保存
共有
印刷
その他

ロシアの鬼才振付家ボリス・エイフマン率いるバレエ団が21年ぶりに来日。びわ湖ホールでの『アンナ・カレーニナ』で日本ツアーの幕を開けた(7月13日)。

アンナ役のレズニク(上)とヴロンスキー役のスボーチン=瀬戸 秀美撮影

アンナ役のレズニク(上)とヴロンスキー役のスボーチン=瀬戸 秀美撮影

トルストイの同名長編小説からアンナと夫カレーニン、青年ヴロンスキーに人物を絞り、彼らの感情をダンスで吐露しつつ物語る。トルストイと同時代を生きたチャイコフスキーの楽曲が一層、そのドラマに深みを与えた。

長身(入団条件は男性184センチ、女性173センチ以上)で手足が長く、エイフマンの振付が身体に染み込んでいるダンサーたちの動きは、そのダイナミックな美しさで目を見張らせる。と同時に、登場人物の心を、その襞(ひだ)まで瞬時に明らかにする。

ヴロンスキーの腕に飛び込むアンナは、そのまま彼に抱かれ、さらに宙に投げられるように飛翔(ひしょう)する。二人の想いの高まり合いがその熱い吐息とともに視覚化されていく。アンナ役21歳のレズニクは圧倒的な容姿の美しさと身体能力の高さでその役を印象付けた。ヴロンスキー役のスボーチンも一途な恋情とともに、アンナの強い思いを抱えきれないもどかしさも感じさせた。

原作では読み飛ばしかねない一行も、エイフマン作品では見どころとなる。たとえば夫の「指を鳴らす悪い癖」。舞台上のカレーニンは、その動作だけで妻の心が自分に向いていないことへの焦燥を痛みとともに描き出す。アンナとのデュエットの歪(いびつ)さは、どうしようもない不幸を訴える。隙のない動きだけでなく静止ポーズでも心の翳(かげ)りを表現したカレーニン役はベテランのマルコフ。びわ湖ホール公演だけの幸運なキャスティングだった。汽車の群舞にアンナが飛び込む衝撃的なラストまで一気に見せ、エイフマン・バレエの存在感を十分に示した日本公演初日だった。

(舞踊評論家 桜井 多佳子)

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]