白水社の翻訳レーベル 世界文学の潮流変化映す

文化往来
2019/8/12 6:00
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白水社の翻訳文学レーベル「エクス・リブリス」が創刊10周年を迎えた。「未邦訳の作家を紹介する」というコンセプトに基づき、これまでに60点の作品を刊行してきた。ラインアップからは、現代の世界文学の地図が大きく塗り替わりつつあるさまがうかがえる。

近年は東アジアの文学作品の翻訳刊行に力を入れている

近年は東アジアの文学作品の翻訳刊行に力を入れている

編集長の藤波健氏は「この間、東欧やラテンアメリカ、アジアの文学作品の評価が高まり、他言語に翻訳される動きが活発になってきた」と話す。世界文学といえば、西欧の作品がカノン(正典)と見なされる時代が長く続いた。だがいま潮目は大きく変化し、非西欧世界が豊かな文学の産地と目されている。

「エクス・リブリス」はそんな「文学の盟主交代」の潮流に対応しながら、日本の読者にとっては未知の作家の作品を送り出してきた。代表例はチリのロベルト・ボラーニョだろう。短編集「通話」は「ラテンアメリカ文学といえば魔術的リアリズム」という固定観念を払拭し、世界文学の最前線の息吹を届けてくれた。

近年は東アジアの作品の翻訳紹介に力を入れている。年内刊行予定の7点のうち3点は東アジアの作品だという。特に注目すべきは呉明益や甘耀明ら台湾の作家たちだろう。原発や第2次世界大戦の歴史などが主題化されており、日本の読者に鋭い問いを突きつけてくる。

翻訳文学の刊行は「新潮クレスト・ブックス」の新潮社や「未来の文学」の国書刊行会、文庫にも存在感のある早川書房など、他社も力を入れている。白水社は10周年を機に、翻訳家による作家紹介などを掲載した小冊子の配布を始めた。読者の裾野を広げていきたい考えだ。

人間と社会の多様性に触れるのが翻訳文学を読む効用だ。現代日本の読者の心を揺さぶる作品の発掘を楽しみにしたい。

(村上由樹)

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