2019年8月19日(月)

高専を作ろう! 徳島県で「次世代型校」新設に挑む
高専に任せろ!

日経産業新聞
コラム(ビジネス)
中国・四国
2019/8/8 4:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

徳島県の中山間地、神山町で高等専門学校(高専)設立の準備が動き出した。町は高齢化と少子化に立ち向かおうとIT(情報技術)インフラを整備し、サテライトオフィスなどを約10年前から誘致。エンジニアやクリエーターが集まった。そんな知的集約な「田舎」にデジタル社会を担う優秀な人材を育てる機運が高まっても不思議ではない。「高専を作ろう!」。その背景を追う。

神山まるごと高専の予定地の神山中学校の校訓の碑前で(左から電通の国見氏、Sansanの寺田氏、神山町長の後藤氏、グリーンバレー理事の大南氏)

神山まるごと高専の予定地の神山中学校の校訓の碑前で(左から電通の国見氏、Sansanの寺田氏、神山町長の後藤氏、グリーンバレー理事の大南氏)

開学は2023年4月を目指す。今後、文部科学省に設置を申請し、認められれば04年春に開校した沖縄工業高等専門学校以来、約20年ぶりの高専新設となる。私立の高専としては4校目だ。

主導するのは名刺管理ソフトのSansan創業者、寺田親弘社長。神山町で約20年にわたりITや農業など新サービス立ち上げを支援するNPO法人、グリーンバレー理事の大南信也氏、電通のエグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターの国見昭仁氏など。それぞれがこれまでに神山町に新しい息吹を注ぎ込んできた人物だ。

高専の名称は決まっている。「神山まるごと高専」。「まるごと」に込めたのは、座学だけでなく、自然豊かな神山町で、そこに集う様々な才能を持つ人たちとの交流から次世代の人材を輩出することを目指すためだ。神山には四国八十八カ所の札所があり、お遍路さんたちに対する「おせったいの文化」もある。町が教科書なのだ。

教育方針は「利己的に学び、利他的に実現する」。技術習得だけではなく、それを活用して社会に変化を生み出す力、起業家精神を持った人材を育てる野武士型パイオニアの「次世代型高専」と位置付ける。

なぜ、学校の設立を目指そうとするのか。寺田氏はこう語る。「IT系の起業家たちと話をしていると、必ずと言っていいほど『教育』についての話題になる」。現状の教育システムではIT人材を育成できない危機感がにじむ。ではなぜ高専なのか。寺田氏はこう続ける。「会社に優秀な人材がいて、その社員が高専出身者だった。20歳で自分の生き方を決めている。そんな印象を持ちました」

寺田氏はここ数年、時間をつくっては全国の特色のある学校を訪れてイメージを膨らませていた。そしてサテライトオフィスのある神山町に高専を作れないだろうかと思い至る。

熱い思いを真剣に受け止めたのがグリーンバレー理事の大南氏だった。大南氏の持論は「できない理由よりできる方法を考える」「方法が見つかったらすぐにやってみよう」。神山町生まれの大南氏にとって「(寺田氏の考えを)放置はできなない。地域住民としても真剣に取り組もう」と腹をくくり、地域として関わることを決意する。今、大南氏は神山まるごと高専の設立準備委員会の代表を務めている。

■資金集めに工夫

神山町は中学を卒業した若者が町から出て行く厳しい現実がある。神山町の小中の教育システムを維持しながら、高等教育を受けるチャンスをつくることにもなる。幸いにも神山町には県立城西高校の神山キャンパスがあり、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」を使った農業関連の連携もできる。「学びの場としての神山町の価値を高める」(大南氏)という青写真を描く。

神山まるごと高専はどんな学校になるのだろうか。計画では生徒数は1学年40人。全国から学生を募るため全寮制を敷く。教員の要員数は18人。かかる費用は約10億円と想定。その一部は寺田氏の個人資産からの寄付で賄う。「会社の色を出すのではなく、いろいろな人を巻きこみたい」(寺田氏)考えだ。各方面からクラウドファンディングなどで資金を集めるほか、学生への奨学金で「ふるさと納税」の仕組みを活用することも視野に入る。ふるさと納税については既に大阪府立大学と大阪府立大学工業高等専門学校がこの方式で寄付を受け付けておりハードルは低いそうだ。

校舎は現在、神山中学校として利用している場所を想定。後藤正和町長によると「地域の理解を得ながら積極的に対応していく」と前向きだ。

神山まるごと高専の候補場所の神山中学校

神山まるごと高専の候補場所の神山中学校

準備委員会は昨年夏からコンセプト作りに着手。約4カ月かけて理念を固めてきた。その中心的な人物がプロボノ(ボランティア)で参加する電通の国見氏だ。議論を深めていく中で、最近の先端教育でよく用いられる3H(Heart こころ。Head 知識。Hands 技術)に加えてFoot(フィールドワーク)をカリキュラムの構造にすることにした。「やりたいことを見つけるのでなく、決めること」。会議の中で寺田氏は時折、口にした言葉を落とし込んだ。「愛せる未来の作り方学校」(国見氏)というのがコンセプトだ。

開校は23年春を目指しているためまだ時間がありそうだが、認可の取得に手続きを要するため、意外と時間はない。

校舎として予定している神山中学校の校訓は「やり遂げる」。寺田氏をはじめ高専設立に向けた関係者の堅い決意に重なる。

計画通りだと今の小学校6年生が神山まるごと高専の1期生となる。そして1期生が高専を卒業するのが28年。そのとき、世界、日本、そして神山町がどのような風景になっているのか。人口わずか5200人強からの挑戦が始まる。

(編集委員 田中陽)

[日経産業新聞 2019年8月2日付]

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