脱「護送船団」好機に 愛知トヨタ、最多店舗網が武器
ナゴヤの名企業 新戦国時代 第1部 自動車(4)

2019/8/8 12:00
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トヨタ自動車が全国に280社ある販売会社の改革を急いでいる。4系列に分かれた車種の2020年からの併売を決めたことで、販売会社の「護送船団方式」が終わり、同系列同士でも真剣勝負を求められる時代に突入する。トヨタ系の多くの販売会社は身構えるが、愛知県を地盤とする愛知トヨタ自動車をはじめとする巨大グループは好機とみて攻勢に出る。

「売れ行きは堅調。他の輸入車の取り扱いも検討している」。2019年春、ポルシェの正規販売店が愛知県長久手市と三重県四日市市で開業した。店舗を運営するのはいずれもトヨタ系販売会社グループで、同グループとしてポルシェを扱うのは初めてだ。

同社の担当者は「顧客の選択肢を広げることになる」と話すが、見据えているのは20年に始まる全車種併売による競争の激化だ。多くの販社は収益確保に向け同様の動きを加速させている。

これまでトヨタは「トヨタ」「トヨペット」「カローラ」「ネッツ」と4つの系列ごとに販売車種を分けてきた。住み分けによって多くの販売店の経営が成り立つ一方、店舗を訪れた顧客に望む車種をすべて販売できないなど非効率な面があった。国内市場が縮小する中、こうした販売方針を改め、それぞれの系列でのみ販売していた専売車を取り払い、すべての店舗で全車種を販売できるように切り替えるのが全車種併売だ。

トヨタは全車種併売を機に兄弟車などを減らして、30車種まで絞る(名古屋市内の愛知トヨタ自動車の店舗)

トヨタは全車種併売を機に兄弟車などを減らして、30車種まで絞る(名古屋市内の愛知トヨタ自動車の店舗)

もともとトヨタは、22~25年をメドに全車種併売を始めるとしていたが、このほど20年に前倒しした。トヨタは「市場や時代の変化が加速する中で、国内6000店の活用と変革を加速する必要があると判断した」としているが、これは販売会社同士の競争を促すことに他ならない。

「『もっと競争しろ』というトヨタ首脳陣の意思の表れだ」

ある販売店幹部がこう解説するのは、名古屋市内の販社3社が連名で発表したリリースだ。トヨタ自動車が10月、全額出資子会社で新車販売を手掛けるトヨタカローラ愛知とネッツトヨタ中部を、トヨタカローラ名古屋を傘下に持つGホールディングス(HD)に譲渡するとの内容だ。

トヨタはこれまでも、地方の直営販売店を地元企業に譲渡する動きを進めていた。ただ今回、これまでであれば真っ先に譲渡先として名前が挙がったであろう愛知トヨタ自動車を抱えるATグループや、名古屋トヨペットを持つNTPホールディングスといった巨大グループではなく、GHDが選ばれたことで関係者の間には衝撃が走った。

愛知県内には12社のトヨタ系ディーラーがあり、GHDはそのうち3社を傘下に収めることになる。譲渡される2社の18年3月期の売上高とトヨタカローラ名古屋の売上高を単純合算すると1300億円を超える。新車販売店だけを合算した売上高を比べても、これまで水をあけられていた首位ATグループや2位のNTPホールディングスに肉薄し、両社に続く愛知県内3位の地位が盤石になる。その結果、県内のトヨタ系同士の競争が激しくなるのは必至だ。

規模を拡大したGHDを迎え撃つ最大手のATグループは、全国初の代理店である「日の出モータース」が起源だ。創業者の山口昇氏は米ゼネラル・モーターズ(GM)系の代理店から、トヨタの歴史で「販売の神様」と称される神谷正太郎氏の説得を受け、トヨタ車の代理店に転身した。

今では県内に4つのトヨタ車の販売会社を持ち、グループ全体の売上高は独立したトヨタ系販売店としては全国最大で4000億円を上回る。昇氏の孫の真史氏がグループの社長を務める。

国内の新車市場は少子高齢化の影響に加え、カーシェアリングなどの普及で消費者が車に求める価値は「所有」から「利用」へと変わり、販売店が置かれる環境は厳しさを増す。ATグループは売上高が大きく店舗も県内で最も多いことから、顧客基盤は厚い。利益率の高い「レクサス」の販売拡大や、きめ細かなアフターサービスなどを通じて客単価を引き上げ、勝ちきる構えだ。

全車種併売に伴って、トヨタはさらに「ヴォクシー」「ノア」「エスクァイア」といった兄弟車種を一本化するなど、今ある車種を30種まで絞り込む。「トヨタの敵はトヨタ」と言われるほど系列同士の切磋琢磨(せっさたくま)が国内販売の強みとされてきたが、商品が共通になれば、より激しい競争を招くのは必至だ。

「現状、年150万台以上の国内販売は成り行きに任せると25年に120万台になる」。トヨタの国内販売を担当する佐藤康彦執行役員は危機感を隠さない。

新車販売が頭打ちになる中では新たな収益源の開拓や新規顧客との接点づくりが急務になっており、地域の移動サービスや生活サービスの展開を模索している。佐藤氏は「もはや護送船団方式ではない。失敗を恐れずに挑戦する店を応援する」と言い切る。新たな成長戦略をどう描くのか、各販売店の自力が試されている。

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