2019年9月18日(水)

インド、カシミール自治権剥奪 議会で成立
パキスタン「安保理決議違反」と反発

2019/8/6 19:12 (2019/8/6 23:06更新)
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【ニューデリー=馬場燃】インドで6日、北部のジャム・カシミール州に自治権を認めている憲法の規定を削除して連邦直轄領とする改正案が成立した。同州を含むカシミール地方の領有権をインドと争うパキスタンは強く批判している。国連は両国に自制を促し、トランプ米大統領は仲介意欲をみせる。核兵器を保有し敵対する印パ両国の緊張が一段と高まってきた。

インドはカシミール地方での防衛を手厚くしている=AP

「テロの温床を消す」。インドのモディ首相の最側近の一人、シャー内相は5日、上院に同州の自治権を認める憲法の規定を削除する改正案を提出。6日には4~5月の総選挙で大勝した与党インド人民党(BJP)の賛成多数で下院も通過して改正案が成立した。

インド政府は今後、ジャム・カシミール州をジャム・カシミール、ラダックの2つの連邦直轄領に分けて統治することになる。これまでインド政府はあらゆる法律の適用に同州の同意を得る必要があったが、今後は実質的に支配できる。パキスタンのカーン首相は5日、マレーシアのマハティール首相との電話会談後の声明で「国連安全保障理事会決議の明白な違反だ」と指摘した。

安保理はこれまで、カシミール地方は「中立地」で、帰属決定のための住民投票を促す決議を採択してきた。イスラム教徒が多いパキスタンに有利な決議だとみるインドは受け入れていない。

国連のグテレス事務総長は5日、両国に自制を求める声明を発表した。印パ両国との関係が密接な米国の国務省報道官は同日「すべての当事国に対し、実効支配線に基づく平和と安定の維持を求める」と表明。トランプ氏は「仲介役になる」と公言する。

今回のモディ政権の強行は、ヒンズー教の価値観を前面に出すBJPの公約実現といえる。BJPはこの春の総選挙でジャム・カシミール州の特権取り消しを掲げて戦った。インドは約8割がヒンズー教徒だが、同州はイスラム教徒が多い。直轄領にすればほかの州のインド人が不動産などを購入できヒンズー教徒の土地を増やせる。

モディ政権はパキスタンやイスラム過激派に対する強い姿勢が支持率を高めることも学んだ。インド空軍は2月下旬、実効支配線に近いパキスタン北東部バラコットにあるイスラム過激派の訓練施設を空爆した。カシミールのインド支配地で2月中旬にあったテロを実行したと主張した組織だ。越境空爆は1971年以来とみられ、総選挙での勝利につながった。

インドは若者の失業率が過去最悪の水準にあり、景気減速が鮮明になっている。カシミールの自治剥奪には、パキスタンへの強硬姿勢を示すことで国民の支持をつなぎとめる狙いもありそうだ。

オブザーバー・リサーチ財団のマノージュ・ジョシ氏は「モディ政権はアフガニスタンからの米軍撤収を警戒した可能性がある」と話す。米国が近く撤収に踏み切れば、アフガンの反政府武装勢力タリバンが盛り返し、インドを含む地域が不安定になるという懸念だ。

タリバンはパキスタン軍統合情報部が支援する。統合情報部はパキスタン側のイスラム過激派を育ててきたとされる。統合情報部に対するパキスタン政府の統制は弱く、カシミールを巡る今回の決定に反発しているのは確実だ。インドは新たに約8千人の兵力をカシミール地方に送り込んだ。

連邦直轄地となるラダック地方の一部であるアクサイチンを実効支配する中国もインド政府の動きに反発する。中国外務省の華春瑩報道局長は6日「中国の領土主権を損ねる。このやり方は受け入れられず、何の効力も生じない」と批判するコメントを出した。今後、地域情勢が流動化する可能性がある。

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