フジロック シーア、J・モネイら歌姫たちの魅力全開

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2019/8/11 2:00
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フジロックフェスティバル'19はジャネール・モネイとシーアという初来日となった2人の歌姫が圧巻のステージを見せた。

出色のステージを見せたジャネール・モネイ

出色のステージを見せたジャネール・モネイ

ケミカル・ブラザーズやトム・ヨーク、ザ・キュアーといった英国のスターたちに注目が集まる中で、現代的な音と民族音楽を融合させるタイやスペインのバンド、西アフリカのファンク歌手らが好演し、ジャンルや国境を超越するフジロックらしさもたっぷりと味わえた。

顔を見せずに歌うシーア

顔を見せずに歌うシーア

初日の昼間、フジロック最大の会場、グリーンステージ。いきなり記者のハートをつかんだのは3度目のフジロック出演となった若大将こと、加山雄三だ。池畑潤二(ドラム)をはじめとする特別編成のバンド「ルート17 ロックンロール・オーケストラ」をバックに、ゲストが次々と現れて歌う。そのトリが若大将だった。

熱唱する加山雄三

熱唱する加山雄三

5月に腰を圧迫骨折したばかりだというのに、さっそうと現れ、エルビス・プレスリーの「ブルー・スウェード・シューズ」や「ブルームーン・オブ・ケンタッキー」を荒々しく歌った。特にラストの「マイ・ウェイ」の熱唱は感動的だった。60年近く歌い続けてきたベテランだけに「自分の信じた歌の道を私は行くだけ」という歌には、有無を言わせぬ説得力があった。しかも82歳にして、この声量である。近くで聴いていた若いカップルが「格好いい」と叫んでいたのが印象的だった。

続いてグリーンステージに登場したのは、米国の歌姫ジャネール・モネイだ。生前のプリンスが才能を認めた逸材として知られるが、彼女の曲調やサウンドはまさにプリンスをほうふつさせるし、衣装やステージングにはジャネット・ジャクソンやマドンナを思わせるところもある。

バックは演奏陣もダンサーもすべて女性だ。モネイは「パンセクシュアル」だと告白している。性別を超越した恋愛の形で「全性愛」と訳される。彼女はステージから観客に語りかけた。「女性や黒人、LGBT(性的少数者)、低所得者たちの権利を守るために、私たちは闘い続けなければいけません」。その言葉は実に勇ましく、胸に響いた。

最後はスタンドマイクを握りしめ、ひざまずいての熱唱である。その姿はファンクの帝王ジェイムズ・ブラウンを思わせた。エンターテインメント色の強いパフォーマンスと真摯なメッセージを違和感なく両立させた出色のステージだった。

映像と一体となったケミカル・ブラザーズのステージ

映像と一体となったケミカル・ブラザーズのステージ

初日のグリーンのトリは8年ぶり、通算7回目のフジロック登場となったケミカル・ブラザーズ。サウンドと映像が一体となった完成度の高いステージで、観客は熱狂し、踊りまくった。

2日目は午前からグリーンステージで怒髪天を見た。男臭さ満開のロックである。2013年のフジロックでも見たが、あの時は榊原郁恵の「夏のお嬢さん」をカバーして大受けしていた。今回は松田聖子の「夏の扉」。増子直純のダミ声で「フレッシュ、フレッシュ、フレッシュ」と叫ぶのだから、会場は大爆笑である。とてもフレッシュとはいえないのに、妙にロックしていて気分が高揚する。このバンドの魅力を再認識させられた。

6年前、怒髪天が出演した時間はかんかん照りの晴天だったが、その後は土砂降りになった。この日の天気予報も芳しくない。案の定というべきか、彼らがステージを去ると雨が降ってきた。

続いてフジロック第2の大会場、ホワイトステージでソオーというバンドを見る。スペインのバレンシア地方のバンドで、ZOOと書いてソオーと読む。コンピューターの強烈なビートに、トロンボーン、バリトンサックス、エレキベース、エレキギターなどの楽器が絡む。

基本はダンスミュージックで、ボーカルはラップなのだが、サビは途端にメロディアスになり、楽器奏者たちが声をそろえてコーラスを付ける。現代的なデジタルビートに、スペイン民謡風の哀愁のメロディーが不思議と似合っていた。世界にはいろんなバンドがいるものだ。

仲井戸

仲井戸"チャボ"麗市(左)とチャー

次に小ぶりの会場、フィールド・オブ・ヘブンで「チャー×チャボ」を聴く。ギタリストのチャーと仲井戸"チャボ"麗市のデュオだ。サム&デイブの「ホールド・オン・アイム・カミン」で幕を開け、チャボが「チャーはロック界で1、2を争う雨男なんだ」と紹介すると、その言葉が合図だったかのように、土砂降りになった。

同じフィールド・オブ・ヘブンでマタドール!ソウル・サウンズを見る。ザ・ニュー・マスター・サウンズのエディ・ロバーツとソウライヴのアラン・エバンスによるバンドだ。英国と米国のジャズファンクの実力者同士が組んだのだから、それは強力だ。エバンスのドラムとロバーツのギターが生み出すリズムのうねりはすさまじく、ティナ・ターナーやチャカ・カーンをも思わせる2人の女性ボーカルの迫力と相まって、掘り出し物といえる好演だった。

フジロックの会場内では、傘の使用は禁止。屋根のある場所はごくごく少ない。雨は強まる一方だ。

小さな会場のジプシー・アヴァロンでGLIM SPANKYの登場を待つ。松尾レミ(ボーカル&ギター)と亀本寛貴(ギター)による若いロックデュオだ。もはやゲリラ豪雨に近い。リハーサルのためステージに出てきた2人は、荒天に耐えて集まっている観客を思いやり、何曲か演奏してくれた。こういう気遣いはやはりうれしいものだ。

松尾レミ(左)と亀本寛貴によるGLIM SPANKY

松尾レミ(左)と亀本寛貴によるGLIM SPANKY

本番で「大人になったら」「アイスタンドアローン」などを次々と歌う松尾の声はハスキーで実にパワフルだ。亀本も中年以上のロック好きが泣いて喜びそうな正統派のハードロックを聴かせる。叫ぶように歌う松尾のボーカルが、豪雨を切り裂いてダイレクトに胸に響く。今回のフジロックでも屈指の印象的なステージとなった。

もう夜だ。普段は川遊びもできるほどの川の水量が怖いほどに増し、濁流になっている。その川を横目にあえぎながら、やっとの思いでグリーンステージにたどり着くと、あちこちが沼になっていた。雨は勢いを増している。

今のポップス界を代表するオーストラリアの歌姫シーアの登場をひたすら待つ。彼女は予定時刻から5分ほど遅れて登場したが、たった5分が異様に長く感じられた。

金と黒のツートンカラーの髪に隠れて、表情は見えない。シーアは顔を見せない歌手なのである。舞台は真っ白。彼女の衣装も真っ白。隣で女性のダンサーが踊っている。筆者がやっとの思いで陣取った場所はステージからかなり遠く、しのつく雨にもさえぎられて、実際の姿はほとんど見えない。巨大スクリーンの映像が頼りだが、その映像さえよく見えない。

冒頭の曲「アライヴ」は「私は雷雨の中で生まれた」という歌詞で始まる。雷こそ鳴っていないが、土砂降りの現実と奇妙に呼応している。シーアはステージの端に寄って淡々と歌い続ける。ステージで躍動し、時に芝居がかった動きを見せるのはダンサーたちだけだ。

これが優れた舞台表現であり、本物と呼べるステージが繰り広げられているのは分かるのだが、大粒の雨に延々と打たれながら、ビジョンを頼りに見るというのは、少々条件が悪すぎた。明日もあるし、途中で引き揚げざるを得なかった。宿に戻る道はほとんど川。過去6回のフジロックの荒天に耐えてきた防水靴が初めて壊れ、靴の中に水がたまっていた。長年フジロックの撮影を頼んできた百戦錬磨のカメラマンも機材を2台もダメにしてしまった。

3日目は多くのステージを見るつもりだったのだが雨のダメージが思いのほか大きく、予定を大幅に変更せざるを得なくなった。3日目に見たのは2組だけ。こんな事態は初めてだ。

タイの異色のグループ、ザ・パラダイス・バンコク・モーラム・インターナショナル・バンド

タイの異色のグループ、ザ・パラダイス・バンコク・モーラム・インターナショナル・バンド

どうしても見たかったのがタイ東北部の民族音楽モーラムとロックなどを融合させた異色のグループ、ザ・パラダイス・バンコク・モーラム・インターナショナル・バンド。会場はフィールド・オブ・ヘブンだ。沖縄の三線(さんしん)に似た弦楽器を弾く男性がボーカルで、そのほか雅楽の笙(しょう)に似た管楽器、金属製の皿状の打楽器、ドラム、エレキベースという編成だ。

三線風の弦楽器はタイの伝統楽器ピンの音を電気で増幅できるようにした「エレクトリック・ピン」だ。エレキギターと同じような音がする。笙に似た管楽器はケーンと呼ばれ、オルガンのような音でリズミカルに和音を奏でる。

ケーンが複雑なリズムと和音を刻み、ボーカリストがタイの民謡風に歌い始める……。ここまでなら東南アジアの民族音楽なのだが、そこにベースが全く意表を突くリズムで乱入し、さらにドラムが8ビートを刻み始める。ボーカリストの弾くピンのフレーズは、まるで往年のエレキ合戦のようだ。そうだ、これはほとんどベンチャーズではないか。木に竹を接いだようでもあるが、不思議とマッチしている。観客は大喜びで踊っていた。

西アフリカ・トーゴ出身のピーター・ソロ(左)を中心としたバンド、ヴォードゥー・ゲームのステージ

西アフリカ・トーゴ出身のピーター・ソロ(左)を中心としたバンド、ヴォードゥー・ゲームのステージ

もう一つ楽しみにしていたのが、同じフィールド・オブ・ヘブンのヴォードゥー・ゲームだ。西アフリカ・トーゴ出身のピーター・ソロを中心に、チュニジアやチリ、フランスのメンバーと結成したグループで、仏リヨンを拠点に活動している。

ヴォードゥーはフランス語読み。英語ならヴードゥーだ。アフリカの土着的な薫りのするビートと洗練されたファンクが見事に溶け合っている。ピーターのアクの強い個性、呪術的なムードと相まって、一風変わった祝祭的なダンス音楽を楽しませてくれた。

フジロックには多くのステージがあり、見て回れる数は限られている。しかも今回はひどい雨に見舞われたこともあって、見られなかったステージがたくさんある。復活したエルレガーデンをはじめ、スガシカオ、ミツキ、オリジナル・ラブ、エゴ・ラッピン、スーパーフライ、平沢進といった注目の日本勢は見られなかった。

見た範囲で、あえてベストアクトを挙げるならジャネール・モネイだ。技能賞はザ・パラダイス・バンコク・モーラム・インターナショナル・バンド。敢闘賞は土砂降りに耐えた2日目の観客全員、殊勲賞は懸命に会場を支えたスタッフということにさせていただこう。7月26~28日、新潟県・苗場スキー場。

(編集委員 吉田俊宏、写真はすべて中嶌 英雄撮影)

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