2019年8月20日(火)

大人気「かめおか子ども新聞」 忖度なし 本質ズバっと
とことん調査隊

関西タイムライン
コラム(地域)
関西
2019/8/6 7:01
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ある街で大人気の新聞がある。京都府亀岡市の月刊紙「かめおか子ども新聞」だ。「子どもが書き、大人が読む」というコンセプトで創刊し、まだ3年。だが人口9万人弱の同市で3万部を発行というから、同業として羨ましい限りだ。5月には書籍も出た。入社10年の大人記者が人気の秘密を探った。

7月21日、同市の山林に保育園児から中1までの子ども記者8人が集まった。取材するのは里山を手入れする住民グループ。切った木でツリーハウスなどの施設を作り、運営する。斜面を駆け上がり施設を満喫する子もいれば、暑さに音を上げる子もいる。

「いつ(施設は)できたんですか」「作った理由は何ですか」。施設を一巡りし、グループ代表の長瀬清澄さん(71)に取材を始めた。長瀬さんが「5年前です」「木が倒れそうになり、手入れを始めたのがきっかけです」と答えると、熱心にメモをとる。

記者たちの発言は気ままだ。「登るのが大変なのでエスカレーターを付けて」。さすがに怒られるんじゃないかと不安になった。しかし「途中まで車いすが入れるようにスロープは付けようと思います」(長瀬さん)と、思わぬニュースを引き出した。唯一の大人である編集長の竹内博士さん(38)は「基本的に子どもが取材した率直な言葉をそのまま載せる」と説明する。

そのため記事は脱線することも多いが、そこが普通の新聞にない魅力だ。木工職人の取材では、工房に飛びこんできた虫に興味を奪われてしまい「ハチがとても印象に残りました」。市の婚活支援の記事では、対応した担当者が未婚であることに触れ「まずは担当者さんが結婚できたらいいな。優しい人だったからきっと結婚できると思います」と、読者の笑いを誘った。

なぜこんなユニークな新聞が生まれたのだろう。竹内さんは地元紙で10年間記者として働き、現在は企業などに向けたコミュニケーション講師を務める。その経験から「コミュニケーション力を高めるには様々な人に会い、話すことが大事。全ては取材活動の中にあった」と思い至った。

子ども新聞は、小さな頃からコミュニケーション力を付ける塾として2016年に始まった。小4から記者を務める中1の今村孔祐くん(12)は「小学生のときは人と話すのが苦手だったけど、知らないことに対する好奇心がどんどん湧き、話すのも苦にならなくなった」とほほえむ。

5千円の月謝で、約10人の記者が月4回ほど取材に出る。2万部を新聞に折り込み、1万部を病院などに配布。いずれも無料で、月謝と広告収入で運営している。記事は会議を開いたり、取材メモを集めたりして竹内さんが執筆する。表現を極力生かしつつ、下ネタなど読者を不快にさせる表現は避ける。大人記者の目を通すことで、大人が読むに堪える質も保っている。

中でも名物コーナーが、大人の悩みに答える「はい! こちら子ども記者相談室デス!」だ。昨年3月号で、45歳の未婚男性から寄せられた「モテる秘訣を教えて」との相談に対する回答がツイッターで爆発的話題を呼んだ。「45歳なのに20代とか狙ってませんか? (中略)無理なら結婚しなくてもいいんじゃない? むしろ独身の方が楽に生きれる時代だと思います」

話題性に着目した出版大手の新潮社が5月、相談のやりとりを集め、コーナーと同名の書籍を発行した。編集担当の川端優子さんは「大人だと忖度(そんたく)して言えないような踏み込んだ答えばかり。笑えるだけでなく、本質を突いた回答に思わず共感してしまう」と指摘する。

取材の最後、集まった子ども記者に、大人記者から質問をぶつけた。「将来、新聞記者になりたい人はいますか」――。手を挙げる子はゼロ。やはり忖度はなかった。

(西原幹喜)

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