2019年9月20日(金)

アマゾン脅かすブラジル大統領(The Economist)

The Economist
2019/8/6 2:00
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人類揺籃(ようらん)の地は樹木もまばらなアフリカの草原地帯サバンナだったが、ヒトは長い間森林から食料や燃料、木材から崇高な霊感までも得てきた。今も森林は世界の15億人にとって生活の糧であり、大小の生態系を維持している。それ以外の62億人にとっては脆弱で軋(きし)んでいるとはいえ、気候変動から自分たちを守ってくれるバッファー的存在だ。

ボルソナロ大統領の下、ブラジルではアマゾンの違法伐採が加速しており、地球環境に与える打撃が強く懸念されている=Ibama・AP

ボルソナロ大統領の下、ブラジルではアマゾンの違法伐採が加速しており、地球環境に与える打撃が強く懸念されている=Ibama・AP

だが干ばつや森林火災、人間が引き起こした様々な変化が伐採によるダメージに追い打ちをかけている。世界の森林バイオマスの半分を占める熱帯地域では、樹木被覆地の減少するスピードが2015年以降60%加速している。熱帯雨林のこの減少分を一つの国にたとえると、二酸化炭素排出量で中国と米国に次ぐ世界3位となる。

■7~8割が違法伐採で、破壊は記録的レベルに

最も高いリスクにさらされているのがアマゾンの熱帯雨林だ。単に地球上の熱帯雨林の40%を占め、陸上生物の10~15%が生息しているという理由だけではない。南米のこの素晴らしい貴重な自然は危険なほど限界点に近づいているかもしれない。その限界点を超えてしまえば、たとえ伐採をやめたとしても熱帯雨林が温帯のステップ草原に似たものに変容するのを止めることも、元の状態に戻すことも不可能になる。

今年1月にブラジルの新大統領に就任したボルソナロ氏は、開発の名の下にこの変容を加速させている。アマゾンの森林の80%はブラジル国内に広がる。同大統領の政策は生態系の崩壊を助長する可能性があるため、その影響はブラジル国内で最も強く感じられるだろうが、国境のはるか外側にも及ぶ。このような事態は、何としても避けなければならない。

人類は、1万年以上前にアマゾンの熱帯雨林に定住して以来、この森を少しずつ伐採してきた。1970年代以降はそれを産業レベルで進めてきた。ブラジルは過去50年間、道路やダムの建設、木材生産、採鉱、大豆栽培や牛の牧畜のために熱帯雨林を元の面積から17%消滅させた。これはフランスの国土より広い。

政府の努力で7年間は森林破壊のペースは落ちたが、政策遂行力の低下や過去の違法伐採を不問に付したため2013年から再び加速した。不況と政治危機で政府の森林破壊抑制策を実行する能力はさらに弱まった。そしてボルソナロ氏は今、喜々として伐採を禁じる規制の緩和に着手している。

熱帯雨林の保護規制を廃止しようとする同氏の試みの一部は議会と裁判所が阻んだ。だが、法と秩序を回復させるために当選したはずのボルソナロ氏は、違法に伐採をする者は何も恐れる必要はないとの立場を鮮明にしている。もともとアマゾンでの伐採の70~80%は違法伐採なので、今や森林破壊は記録的なレベルに達している。同氏が大統領に就任して以来、ニューヨークのマンハッタン2つ分以上の面積に匹敵する森林が毎週消失している。

■森林アマゾンの減少は気温の上昇も招く

アマゾンは、水資源の多くが循環している点で他の森林と異なる。熱帯雨林が縮小すれば再生、循環する水も減る。そのためどこかの段階で、つまり今後何十年かで、その水を再生する力が弱まれば、森林は一層縮小していくという悪循環に陥ることになる。

気候変動で森林の気温は上昇しており、臨界点は年々近づいている。ボルソナロ氏は、事態を限界へと押しやっている。悲観主義者らは熱帯雨林がさらに3~8%消滅すれば(同氏の下では近いうちに起こり得る)、制御不可能な森林破壊のサイクルが始まると恐れている。彼らが正しいかもしれないと示す兆候がある。アマゾンは過去15年で3度の深刻な干ばつに見舞われ、森林火災も増えている。

ボルソナロ氏は科学全般に懐疑的なこともあり、こうした見方を否定し、外部の人々を偽善者と呼ぶ。先進国も森林を伐採してきたではないか、と。先進国は、ブラジルを貧しいままにしておくために環境保護をお題目に利用してきたとも非難する。最近も同氏は「アマゾンは我々のものだ」と怒りを込め叫んだ。ブラジルのアマゾン熱帯雨林で起きることはブラジルの問題だと彼は考えている。

だが、アマゾンの問題はブラジルだけの問題ではない。アマゾンの森林破壊は周辺7カ国にも直接被害を及ぼす。熱帯雨林から放出され、アンデス山脈沿いにはるか南のブエノスアイレスまで流れる湿気を減らすだろう。上空の水蒸気の流れだけでなく、ブラジルがダムを造って川をせき止めれば、下流にある国々は、それを戦争行為とみなすかもしれない。

アマゾンの熱帯雨林は大量の炭素を蓄積しているため、燃えたり腐敗したりすれば、世界の平均気温は2100年までに0.1度上昇する可能性がある。大したことはないと思うかもしれないが、温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」では将来の気温上昇を0.5度程度に抑えるのが望ましいとされている。

ボルソナロ氏の他の主張も説得力に欠ける。確かに先進国は自国の森を切り倒してきた。ブラジルはこの過ちを繰り返すのではなく、そこから学び、まだ間に合ううちに植林すべきだ。フランスはそうしている。欧米諸国が環境保護を強調するのはブラジルの経済成長を阻むのが狙いだと考えるのは妄想にすぎない。

様々なデータや知識を重視する経済にとって、森林から得られる遺伝情報は一般の土地や枯れた木から得られる情報より価値が高い。たとえそうでなくても、発展のために森林を伐採する必要はないはずだ。ブラジルの大豆と牛肉の生産量は04~12年に増加したが、この期間の森林伐採ペースは80%落ちた。アマゾン自体を除くと、実のところブラジル農業が森林破壊の最大の犠牲者かもしれない。15年の干ばつで中部にあるマトグロッソ州のトウモロコシ農家は収穫の3分の1を失った。

■環境保護策をブラジルと貿易する条件にすべき

こうした理由から、世界はボルソナロ氏の破壊行為を許容しないと明確に伝える必要がある。消費者の圧力を受ける食品企業は2000年代半ばにしたように、違法伐採されたアマゾンの土地で生産された大豆や牛肉を拒絶すべきだし、ブラジルの貿易相手は同国の環境保護対策を協定の条件にすべきだ。6月にブラジルを最大のメンバーとする南米4カ国が加盟する関税同盟、南部共同市場(メルコスル)がEU(欧州連合)と政治合意した自由貿易協定(FTA)には熱帯雨林の保護に関する条項が含まれている。この条項の履行は双方にとり極めて大きな利益となる。

また温暖化を懸念し、家畜の飼料をブラジルからの輸入農産物に頼る中国の利益にもなる。パリ協定に署名した先進国は途上国に植林の資金を提供するとの約束を果たさねばならない。世界全体の温暖化ガス排出の8%は森林破壊によるものだが、森林保全には気候変動対策資金のわずか3%しか割り当てられていない。

もしボルソナロ氏の熱帯雨林破壊作戦にいい面があるとすれば、それはもはやアマゾンの窮状を無視できなくしたことだろう。それは外部の人間にとってだけではない。ブラジルの農相は同氏にパリ協定に留まるよう求めている。野放しの森林破壊が外国によるブラジルの農産品のボイコットにつながれば、最終的に被害を受けるのは同国の農家だ。一般市民も大統領に方針転換するよう圧力をかけるべきだ。

彼らは地球から唯一無二の贈り物を受け取るという幸運に恵まれた。アマゾンは商業的価値だけでなく、アマゾンならではの素晴らしい森林という価値を持ち、かつ様々な生物や人類の生命維持に関わる存在だ。そのアマゾンを消滅させるのは必要のない破滅だ。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. August 3, 2019 All rights reserved.

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