2019年9月15日(日)

イチロー フィールド

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引退忘れさせるイチロー ファンの前に変わらぬ姿
スポーツライター 丹羽政善

2019/8/5 5:30
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ユニホームのパンツ、紺のアンダーシャツ姿のイチロー(マリナーズ会長付特別補佐)が、グローブを持ってフィールドに出てくるのは通常、午後1時半すぎ。客席には人ひとりおらず、売店の店員らがぽつりぽつりと姿を見せ始める、まだ早い時間だ。たまたま居合わせた球場見学ツアーのファンが足を止めてスマートフォンを構える前でイチローはストレッチのあと、遠投を含めたキャッチボールをして、最後にクールダウン。たっぷり30分は汗をかく。

その様子が見られるのはホームのナイター前に限られるが、それは現役時代、屋外での練習がないデーゲームの試合前の過ごし方そのもの。ルーティンは変わらず、80~90メートルはあろうかという距離を、45歳の球が重力に逆らって空気を切る。耳を澄ませば、その音が聞こえそうだ。

実戦での守備のごとく外野で球拾い

それからはその日次第だが、チームの早出特打があるときは、外野で球拾いを行う。もっともこれは、近くに飛んできたボールを拾う、というレベルではなく、実戦の守備に近い。ライトにいれば、右中間へ全力で走る。ライトポール際へも疾走する。高く上がった打球なら、センターも守備範囲。外野をイチロー1人で守っているような感じだ。

最近は見かけないものの、それから打撃投手を務めることもあり、通常の打撃練習で投げるとしたら、3組目で打つ控え選手を相手に、10分で100球程度。5月1日に初めて投げたときには、こう言っていた。

「高いところからだから、力入れなくてもいい。あれだったら3組全部投げられる。300球ぐらいはね」

もっとも、ショートゴロに倒れた3月21日の現役最後の打席以来、打っている姿を見たことがない。先日、まだ全体練習が始まる前の早い時間に、黒いバットを手にグラウンドに出てきたことがあった。打撃ケージが用意され、マウンドの手前には、投球マシンも設置された。

打つのか? だとしたら、引退してから初めてのはずだが、遅れて出てきたマレックス・スミス、ディー・ゴードンと談笑。ともに足の速い彼らにセーフティーバントの構えを見せて指導するシーンはあったが、イチローがケージの中に入ることはなかった。

試合に備えた全体練習が始まる前、バットを手にゴードンと話すイチロー(右)

試合に備えた全体練習が始まる前、バットを手にゴードンと話すイチロー(右)

ただ、一切打たない、ということでもないのかもしれない。

ホームでナイターが行われる場合、午後4時すぎになると、野手は全体練習のため外へ出る。よってその時間は誰も室内ケージにいないはずだが、先日、その静かなはずの時間帯に室内ケージの前を通ると中から乾いた打球音が聞こえてきた。不思議に思って足を止めると、打つたびに「フンッ!」という声が漏れてきた。中が見えないので、打っている選手どころか、誰が中にいるのかも分からないが、テニス選手がインパクトのときに発するような声は、どこか聞き慣れたものだった。

早出特打の球拾いを終えると、イチローはいったん、ダッグアウトの中に下がる。野手のミーティングがあれば、それに参加する。それ以外はだいたい室内ケージにいるようで、そこには専用の初動負荷マシンも置いてあり、トレーニング姿を見かけることもある。その一角だけは、クラブハウスからフィールドに向かう通路から見えるようになっているのだ。

再びグラウンドに出てくるのは、打撃練習が始まってから。それは1組目からのときもあれば、2組目のこともあるが、ケージの後ろからじっと見守る。特にアドバイスをしている様子はないが、選手らとは室内ケージで多くの時間を過ごしているので、なにか指導をするとしたら、そのタイミングか。

打撃練習が終わると、ダッグアウトのところでサインを行うのが、よく見かける光景。Tモバイル・パークの開場は、試合開始2時間前だが、オープンと同時に入場したファンは、ダッグアウト上の通路に列を作り、チャンスをうかがう。

開場と同時に入場したファンがサインを求めて通路に列を作る

開場と同時に入場したファンがサインを求めて通路に列を作る

ざっとそれが最近のイチローの動きで、試合前には球場を離れ、家で試合を見ているとのことだが、少なくとも打撃練習が終わる午後5時半ごろまではフィールドにいるので、ファンもその姿を見ることはできる。サインをもらえるチャンスも決して少なくはない。

チームの遠征には帯同せず、そのときに3Aのタコマ・レーニアズがホームにいれば、そこへ顔を出して指導することもあるが、レーニアズの開場時間は試合開始1時間前なので、開門と同時に中に入っても、とっくに練習は終わっている。サインをもらうどころか、姿さえ見られない可能性もある。

いずれにしても引退すると、そのチームでなにかイベントでもないと顔を見られない選手も少なくないが、イチローの場合、体を動かす様子さえ、日常に溶け込んでいる。ふと、引退している現実を忘れそうだ。

表彰式という形で引退セレモニー

ところで、まさにそのイチローが出席するイベントが行われることになった。

マリナーズは9月13~15日を「イチロー記念特別週末」と銘打ち、様々な企画を用意。13日はイチローのハイライトシーンを見ながらの花火大会が開催され、翌14日には、先着2万人にイチローの首ふり人形が、そして15日は先着1万5000人に記念Tシャツが配られる。特別功労賞が贈られる記念式典は14日午後5時45分から。むろんそれが、実質的な引退セレモニーという位置付けとなるようだ。

イチローは、大げさな引退セレモニーに対してどこか消極的で、5月に一度、試合中に紹介されたことがあったが、「シアトルのファンの前で一度は、どこかのタイミングで、というのは理解している」と話したものの、歯切れが悪かった。そこで今回、チームが考えたのが、表彰式という形だったのかもしれない。

(敬称略)

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