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広島・西川、華麗なショーにもなりうる悪球打ち

編集委員 篠山正幸

アマチュアの世界ではご法度とされる悪球打ちも、プロの世界では華麗なショーになりうる。今、その「曲打ち」の妙を楽しむなら、広島・西川龍馬(24)がお薦めだ。

7月24日の中日戦。先頭打者として左打席に立った西川は、プロ初先発の右腕、山本拓実の高めの球を、上からたたきつけた。打球は先制のソロとなって右翼席に吸い込まれた。

西川は高めのボール球でもやすやすとスタンドまで運んでみせる=広島

フルカウントからの一発。山本からすれば、見逃して歩いてくれた方がまだまし、という一発だった。かさにかかった広島はさらに山本を攻め、続く菊池涼介の二塁打から1点を加えた。

山本も二回以降は立ち直って好投しており、痛恨の立ち上がりとなった。「それはないでしょ」という西川の本塁打がすべてを狂わせた。

体が「勝手に反応した」と西川は話した。センスの塊だからこそできる悪球打ちなのだろう。「追い込まれたが、何とか食らいついていけた。変化球はどうにかなるかなと。まっすぐにしぼっていた」

打てる球はすべてストライク

追い込まれてから変化球で攻められたが、変化球ならどうにか当ててカットできる、という計算があった。このたぐいまれな技術があってこその自由奔放な打法だ。逆にいえば、ちょっと練習したら誰でもできるようなことなら、アマからプロまで、口酸っぱく「ボール球に手を出すな」と言い続ける必要はないことになる。

西川にストライクゾーンという"常識"は通じない。おそらく打てる球は全部ストライク、といったところなのではないか。ゾーンを定義するのは自分なのだ、といわんばかりの打撃は意外性に満ち、プロらしいエンターテインメント性をもたらしている。

高めの球に限らず、低めのワンバウンドしそうな球に当てるのも得意だ。ファウルならまだしも、しばしばヒットにするから、投手としてはたまったものではない。

福井・敦賀気比高から社会人の王子を経て、2015年のドラフト5位で入団した。当初から注目されていた天才的なバットコントロールが、丸佳浩が去って空いた中堅のポジションをつかんだ今季、本領を発揮し始めている。

3番でスタートした打順も、どうやら1番に落ち着きそう。7月15日に1番に入ってから、ここまで先頭打者弾は4本。31日の巨人戦の初回、2番の菊池涼とのアベック弾は、試合の主導権を握る貴重な先制パンチとなった。

浮き沈みの激しかった今季の広島。反転攻勢のきっかけの一つとなったのが「1番西川」。ストライクでもボールでもお構いなしに、打っていく異色の1番が相手の脅威になっている。

西川も、初回の第1打席は1番の役目を意識しているという。なるべく相手に球数を放らせ、後続の打者の参考になる打席を心がけているが、2打席目以降は本能に任せているらしい。

丸の穴を埋め、打撃の才を存分に開花させている西川(左)=共同

そのバットは時には上からたたきつけるハンマーとなり、時には下からすくい上げるゴルフのアイアンのような道具となる。バットという道具が、使い手によってこれだけ多彩な仕事をするのか、と感心させられるばかり。

悪球打ちはプロの世界では褒め言葉になり得る。かつて野球評論家の豊田泰光さんが、今年ユニホームを脱いだイチロー外野手(マリナーズなど)を、日米を通じて"史上最高の悪球打ち"と評したことがあった。

東西の歴代の悪球打ちの代表として、ヤンキースのヨギ・ベラ捕手、阪神の鎌田実二塁手らを挙げつつ、低めのボール球を打つという点で、イチロー外野手は特異な存在だとコラムに記している。「ストライクゾーンという野球の根本概念すら変えた。そこがイチローという打者の核心」(週刊ベースボール『オレが許さん!』)

イチロー外野手の名前を出すにはまだ早いが、西川ならばあの芸の担い手になりうるかもしれない。

もっといえば、西川はイチロー外野手よりさらに、積極的にボール球を好んで打ちにいっている、というにおいがする。その技術からすると2割9分という打率は満足いくものとは思われず、どんな球にも当てられるという器用さにつけ込まれている恐れもあるのだが……。

おきて破りだからこそ、おもしろい

聞いてみた。「悪球打ちの名人といわれるのは、好きではないですか」

「何も思いません」

たぶん、西川にとって、投球がストライクゾーンの中か外かどうか、つまり世間でいうところの悪球かどうかは二の次なのだ。打ちましたけど、何か? といった感じ。こういうおきて破りの打者がいないと、プロ野球もつまらない。

今後も、そのスタイルを「変えるつもりはない」とのこと。ストライクゾーンすら溶け出す「西川ワールド」にどれだけ、相手投手を引きずり込めるか。その打棒にチームの浮沈もかかっている。

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篠山 正幸

カバージャンル

  • 野球ほかスポーツ全般

経歴

1985年東北大卒、日本経済新聞社入社。主に運動部に在籍し、プロ野球を中心に取材歴35年。本紙朝刊にコラム「逆風順風」、電子版に「勝負はこれから」を連載。著書に「プロ野球 心にしみる80の名言」(ベースボール・マガジン社)「プロ野球 平成名勝負」(日本経済新聞社)。共著、監修本に「プロ野球よ」「そこまでやるか」(ともに日本経済新聞社)など。現職は編集委員

活動実績

2016年11月 テレビ北海道情報番組 日本ハムの新球場への期待

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