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火星暮らしを模擬体験、「月面基地」が大学に出現

編集委員 小玉祥司

月や火星を目指す宇宙開発が加速し、人間が地球を離れて暮らす時代が近づいている。人間が地球とは違う星で生活するには、どのような環境や設備が必要になるのだろう。火星や月の基地を想定した施設で実際に体験しながら考える取り組みが京都大学や東京理科大学で始まっている。

米アリゾナ州の砂漠地帯に巨大なガラス張りの温室などの建物が並ぶ。建物のなかは外部と遮断され、人工的に熱帯雨林や海、砂漠などが作られている。

この施設「バイオスフィア2(B2)」は、施設のなかだけで食料や水、空気などを自給自足し、人間が地球以外の星でどのようにすれば生きていけるかを探るために作られた。1991年から2年間、8人の科学者が宇宙基地を想定して暮らした実験で有名だ。

京大は5人の学生をこの施設に派遣、8月5日から10日まで実習を行う。火星に移住することを想定し、基地を建設するために必要な知識を得るのが目的だ。参加する理学部2回生の平井颯さんは「夢は宇宙生物学。火星に行ってフィールドワークをしたい」と語る。

京大の学生は米国側の学生5人とそれぞれペアを組み、地球と違う環境でどのように食料を作るかや宇宙基地の暮らしでどんなストレスを感じるかなどのデータを集める。太陽表面でフレアと呼ばれる巨大な爆発が起きて火星を強力な放射線が襲った時に、どう被害を防ぐかという訓練なども実施する。

参加する5人は42人の応募者から選ばれた。引率する山敷庸亮教授は「何をやりたいかというモチベーションを重視して選んだ」と説明する。

農学部3回生の橋本亜美さんは「火星環境を再現した施設で、植物や作物がどのように変化・適応しているかを観察したいと思い志望した。食料危機の解決に関わりたいと思っていて、宇宙研究を地球に還元したい」と意気込む。火星で暮らすという目的だけでなく、地球上の問題解決にも役立てたいというわけだ。

今年は京大単独の事業だが、来年からは文部科学省の支援を受けて少なくとも3年間は継続する予定だ。

B2ほど大規模ではないが、東京理科大は清水建設、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で月面基地を想定したかまぼこ形の設備を開発。野田キャンパス(千葉県野田市)に実際に設置した。開発した施設はポリエステル繊維の布を樹脂でコーティング。空気をふき込むと、畳んだ状態から3分ほどで大型テントほどの「月面基地」ができあがる。

B2と同様に外部と遮断して、秋口から実験設備を設置する予定。月面での植物栽培や基地の空気の浄化、エネルギー供給などの研究を行う。「独立した環境で技術を試せる。月に住むことで、地球上の問題も解決できる」と木村真一教授は狙いを説明する。宇宙という閉鎖環境のための研究が、地球の環境問題などの解決にもつながると期待する。

1棟の広さは約30平方メートルだが、設置は簡単なのでいくつもつなげば簡単に基地を拡大できる。「学生が暮らしてみる実験もやってみたい」と木村教授は意気込む。

日本の宇宙開発は、ロケットや有人宇宙船の技術では米国やロシアなどに後れを取る。しかし「宇宙で暮らしていくための技術は、日本も先導的な役割を果たせる」と元宇宙飛行士の向井千秋東京理科大スペース・コロニー研究センター長は説明する。京大や東京理科大の試みは、人材を育成し、宇宙開発での日本の強みにつながる期待が大きい。(編集委員 小玉祥司)

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