/

五輪きっかけに東京変わる 学生、街づくりにアイデア

池上彰と考える2020年の東京 津田塾大・芝浦工大の学生と語る

ジャーナリストの池上彰氏(右)とテレビ東京の福田典子アナウンサー
 2020年東京五輪・パラリンピックを契機とし、東京の街づくりについて考えるシンポジウム「池上彰と考える2020年の東京」(日本経済新聞社主催)が7月23日、東京・千代田のイイノホールで開かれた。ジャーナリストの池上彰・東京工業大特命教授が講演したほか、外国人のおもてなしや防災活動にかかわる大学生の取り組みについて意見が交わされた。

第1部ではジャーナリストの池上彰氏が「1964 東京は輝いていた」と題し、前回の東京大会の思い出や街の変化について語った。(聞き手はテレビ東京の福田典子アナウンサー)

福田 前回大会にはどんな思い出があるでしょう。

池上 私は14歳、中学2年生だった。自宅の白黒テレビで開会式の中継を見た。学校では興味のある五輪関連記事をスクラップし、感想を書く宿題が出ていた。いま思えば、五輪をきっかけに新聞記事に興味を持つようになったように思う。

開会式では青空が広がり、自衛隊機が五輪のシンボルである大きな五つの輪を描いた。当時の写真や映像にはきれいな青空が写っているが、東京の空はいつも工場の煙や自動車の排出ガスなどで汚れていた。開会式の直前に降った雨の影響で空気の汚れが流された効果だった。

福田 青空が広がったのは幸運だったのですね。

池上 そう思う。過去の気象データから、東京の晴れる日が多い10月10日が開会式に選ばれた。当時、東京タワーの展望台を登っても、視界が悪いことが多かったことを記憶している。

当時の東京というのは、街にはゴミが目立ち、町内会で浄化運動に取り組んだ。近年、サッカーの国際大会などで日本人応援団が観客席のゴミを回収して帰り、称賛された。日本人には駅や公共の場をきれいに保つマナーが培われている。そのきっかけになったのは、前回の東京五輪の経験が大きいのではないか。

福田 街も人の意識も大きく変わったのですね。

池上 幹線道路が拡張されたり、首都高速道路が建設されたり、道路網が整備された。五輪直前には東京と大阪を結ぶ東海道新幹線が開業した。大会の模様を中継するために、NHKの放送施設なども拡充された。新しい都市が築かれた時代でもあった。

福田 東京が五輪で世界にアピールできることは。

池上 1964年、日本は経済協力開発機構(OECD)に加盟し、先進国の仲間入りを果たした。高度経済成長の下、前回大会は施設や社会基盤などハード面の充実に力を入れた大会だったと思う。

次回は日本がどのような手本を示せるか、世界から注目されているのではないだろうか。たとえば障がい者が過ごしやすい街を実現することも大事な視点だと思う。災害対策も重要だ。若者のアイデアを取り入れるなどソフト面での充実がカギになるだろう。

津田塾大生・芝浦工大生、地域の課題に挑む

パネル討論では、津田塾大、芝浦工大が地域とともに取り組むプロジェクトが紹介され、東京五輪・パラリンピックを契機に、地域と学生がどう協力しながら街づくりを進めていくかについて、池上彰氏も加わって議論を深めた。

津田塾大の増野晶子さん(20)

増野 津田塾大の千駄ケ谷キャンパスは東京大会のメイン会場、新国立競技場から世界で一番近い。この立地を生かして何かアクションをしたいという学生や教授が集まって、「梅五輪プロジェクト」を立ち上げた。千駄ケ谷が抱えるであろう様々な課題を未然に防ぎ、日本の魅力を世界に発信したい。

栗城 JR千駄ケ谷駅と共同して英語マップを作成した。飲食店メニューの英訳も行っている。地域の英語化を進め、外国人が過ごしやすいまちづくりを目指している。

津田塾大の栗城ゆかりさん(20)

戸根木 (千駄ケ谷キャンパスに近い)日本将棋連盟の職員にヒアリングを行うと、英語で将棋を紹介できる人が少ないという課題があった。解決策は初心者向け英語版将棋パンフレットを作ること。現在、世界各国での将棋普及活動で使われている。

増野 梅五輪全体として、様々な学生の企画を実用化することを目指している。東京大会の際の具体的な目標は、日本文化を体験できる空間をキャンパス内につくること。ここで体験したことを引き継ぎ、大阪万博など大規模国際イベントにつなげていきたい。

津田塾大の戸根木希さん(21)

須野原 芝浦工大の学生プロジェクト「すみだの'巣'づくりプロジェクト」は、まちに関わるソフト面の活動を主に行っている。墨田区は木造建築が密集し、災害危険度が高い地域として知られている。取り組みの一つに、避難訓練に楽しみの要素として遠足を掛け合わせた「防災遠足」がある。防災設備の使用方法やクイズを行い、集合場所から避難場所まで地域住民と一緒に歩いて回っている。

津田塾大の曽根原登教授(65)

渡部 紙の防災マップはしまい込んだり、なくしてしまったりする。そこで、防災や観光の要素を加え、NPOやデザイナーと一緒に「防災観光ふろしき」を作成した。昨年度完成し、小学校2校でイベントをした。今後は墨田区北部の小学校全校と取り組んでいく。

花咲 地域の学生に宿題を教える取り組みのなかで、自由研究では学生が防災をテーマにしたものを企画した。また、「カエルキャラバン」という全国的な防災教育イベントにも参加している。プロジェクトを今後、他大学や参加の少ない地域の中高生とも協力し、地域企業とともに街を活性化させていくことにつなげたい。

芝浦工業大の花咲道弘さん(22)

池上 英語マップは学生からJRに声をかけたのか。

栗城 JR千駄ケ谷駅に学生が訪れ、「英語マップがない」ということが話としてあがったので、「私たちが作りたい」と話が始まった。

曽根原 英語化に最初に取り組んだのは、地元の小学生とだった。五輪を迎えると、地元の子どもたちが対応できるようになるといいなという思いでスタートした。

芝浦工業大の渡部雄貴さん(21)

戸根木 浮世絵を使ったりして、英語が分からない人でも、その内容がわかるように工夫をしている。

池上 英訳についての工夫は。

栗城 「サクサク」「パリパリ」には英語そのままの意味はないため、大学にいる英語の先生に添削してもらったり、試行錯誤している。

芝浦工業大の須野原拓海さん(20)

池上 学生から墨田区に「協力したい」と話を持ちかけたのか。

渡部 どちらかというよりは、お互い「やっていこうよ」というふうになった。街歩きをしてみて、墨田区は廃れていなくて、商店街がにぎわっているなど、古き良き時代の雰囲気がまだ残っている。

池上 墨田区のプロジェクトでは行政や小学校を巻き込む試みは。

芝浦工業大の中村仁教授(57)

須野原 区の防災課に依頼したり、PTAにアプローチしたりしている。防災遠足では、わざと細い路地を歩いたり、袋小路をわざと見に行って、危険な情報を教えながら、一緒に街を歩くコースになっている。

中村 4年ぐらい前に研究室の大学院生が学生プロジェクトを立ち上げた。学生が先輩から後輩に教えていって、活動に持続可能性がある。

会場からの質問者 津田塾大の試みの中で、日本文化をもう少しアピールしてもいいのでは。

池上彰氏

戸根木 日本に根付いたものをどんどん広げたい。外国人留学生と交流したとき、扇子やうちわの受けがよかった。この分野にも広げたい。

質問者 地域とのつながりはどうすれば強くなっていくのか。

須野原 私たちが活動している場所は、既にコミュニティーが形成されていて、そこをつなげる、広げるということが大きい。防災遠足は年齢に合わせたコースを選定せず、高齢者から小学生まで一緒に歩く設定をしている。

質問者 在日外国人とコミュニティーをどうつなげる。

渡部 ふろしきの英語版を作ったりして、外国人をターゲットに活動していくことを考えている。ふろしき自体が日本の文化。それを生かしたイベントを開催したい。

◇   ◇   ◇

<シンポジウムを終えて>

津田塾大学と芝浦工業大学の学生たちの取り組みは、それぞれ活動しているテーマも地域も異なるが、注目できる共通点がある。課題を抱える地域の人々の声に耳を傾け、共に汗を流して、具体的な解決策を提案している点だ。

その背景には、大学の教育現場で地域連携などを通じた実践的な学びの手法を積極的に取り入れていることがある。学生にとって、国内外から多くの観光客を迎える2020年の東京五輪・パラリンピックは、社会の可能性や課題を知るまさに生きた教材である。

学生の取り組みは広がっている。たとえば立教大学は、地元自治体とともに新座キャンパス(埼玉県新座市)へブラジル選手団の事前キャンプを受け入れる。学生はすでにボランティア活動に参加するなど、選手団を支援するためのノウハウを学んでいる。

神奈川大学の学生はNPO法人と組んで、五輪のヨット競技会場となる江の島(神奈川県藤沢市)周辺でのバリアフリー対策の状況を調べた。実際に歩いて確認した情報を基に、車いすで利用できる施設の情報や関連動画で確認できる案内地図を作製した。

今回のシンポジウムで、モデレーターの池上彰氏が「若者たちがソフトを次々と作り出している。あと1年でできることはたくさんある」と指摘した。若者ならではのアイデアは、新たな地域づくりのヒントになるだろう。東京五輪・パラリンピックが育むソフト面での財産の一つといえるのではないだろうか。

(編集委員 倉品武文)

Paravi

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン