国境越え集う起業家 関西の伝統×地の利・人の利
KANSAI as ASIA 来れヨソモノ

2019/8/1 6:00
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京都市で300年続く西陣織の老舗。着物や帯の横に並んだネクタイを若者が手にとって眺める。絹の生地は柔らかく、オフィスでも違和感のない落ち着いたデザインだ。考案したのはタイ人のラッチャタ・スワンシンさん(35)。母国で伝統の藍染めがジャケットなどに使われているのをヒントに4月、織物で洋服を仕立てるMONOHA(京都市)を立ち上げた。

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西陣織でネクタイなどを仕立てるMONOHAを起業したタイ人のラッチャタ・スワンシンさん(京都市上京区)

西陣織でネクタイなどを仕立てるMONOHAを起業したタイ人のラッチャタ・スワンシンさん(京都市上京区)

ラッチャタさんは故郷バンコクで目にした日本文化にほれ込み、2008年に来日。絹織物に模様を縫い込む京繍(ぬい)の工房で働くなか、目にしたのは後継者不足に苦しむ現実だ。「着物に使うだけでは織物文化は衰退する。若者が憧れる『新しい伝統』をつくりたい」と起業を決めた。

関西で起業する外国人が増えている。近畿2府4県で関連ビザの取得者は18年に前年比12%増の3399人と過去最高だった。増加ペースは関東(5%増)を上回る。けん引役が8割を占めるアジアの起業家だ。関西の伝統と若手起業家が次々と生まれるアジアの活力を掛け合わせることで関西発のイノベーションを創出する。

アジアで成功した起業家がグローバルの成長を目指す拠点として関西に目を付ける動きも出てきた。シンガポールの化粧品会社、Rejiを経営するエブリン・テオさん(36)は18年、大阪市に日本法人を立ち上げた。関西は化粧品のOEM(相手先ブランドによる生産)を受ける中小企業が集まる。直接肌に触れる化粧品の安全性や効果に対する消費者の関心の高まりを受け、Rejiはアジアで展開する保湿マスクや洗顔料などの多くを大阪で生産する。

テオさんは1年の半分を関西で過ごす。OEM先を探すだけでなく、大学と連携して新素材の開発を模索する。「科学的な裏付けがある付加価値の高い商品を生み出したい」と話す。

「関西は中国に似ている」。越境EC(電子商取引)サイト、SSQQB(大阪市)の中国人社長、張永強さん(34)は語る。ビル・ゲイツ氏に憧れ、滋賀県草津市にある立命館大学への留学中に起業した。卒業後も関西に残ったのは賃料が安かったため。オフィス仲介の三鬼商事によると、大阪市中心部の平均賃料は月1万1597円(3.3平方メートルあたり)と、東京の5割程度だ。

だが働くうちに人との距離が近い関西の雰囲気は母国に似て心地いいと感じるようになった。関西のベンチャーキャピタル(VC)との面談では冗談を交え夢を語らい、1時間の予定が2~3時間に延びることもある。「多くの企業をさばく東京のVCではありえない。東京ではなく大阪で成功したい」と話す。

米シリコンバレーは世界から多様な人材を受け入れることで革新的なサービスや製品をつくり出してきた。だがトランプ政権の誕生から就労ビザの取得が難しくなった。家賃の高騰も続き、外国人にとって起業するハードルが上がっている。

関西は賃料や人件費の安さに加えて専用ビザの新設など起業しやすい環境が整いつつある。スタートアップを支援するヒューマン・ハブ・ジャパンの吉川正晃代表(64)は「海外に目を向ける人材がもっと必要」と指摘する。巨大なアジア市場とつながりを持つアジアの起業家は関西に多様性をもたらし、ユニコーン企業を生むための大きな役割を果たす。

 ■支援体制 整備徐々に

外国人起業家の支援体制は福岡市が先行していたが関西でも整備が進む。大阪市と神戸市は2018年12月に施行した外国人向けスタートアップビザ制度の受け付けを始めた。ビザ取得に必要な条件を満たさずとも、準備期間として1年間日本に滞在できる。卒業後にビザが切れる留学生などの起業を後押しする。

福岡市は15年に国家戦略特区として起業前の最大6カ月滞在できる制度を始め、その後滞在期間を1年に延ばした。自治体が運営するコワーキングスペースや設立5年未満の企業が対象の法人減税措置なども備える。

制度面で充実してきた関西の今後の課題は海外での認知度の向上だ。福岡は高島宗一郎市長自らがスタートアップのイベントに登壇し、福岡での起業を呼びかける。北京や深圳などアジアにはスタートアップ都市のライバルが多く、一歩抜け出すにはトップセールスは欠かせない。

(大阪経済部 渡辺夏奈)

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