郷土料理を伝える、瀬戸芸が人を育てる
SETOUCHI2.0 「食」を極める(4)

2019/8/1 7:30
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香川、岡山両県の島々をアートで彩る瀬戸内国際芸術祭(瀬戸芸)は、地域の食の魅力を発信する人材育成に取り組んでいる。島の歴史や文化が色濃く反映されているのが「食」だという考えのもと、料理人の包丁さばきや味付けで郷土料理の魅力を高めて観光客の胃袋をつかむ。瀬戸芸に携わった人が飲食店を開業するなど地域の観光を支え始めている。

飲食店「暦」は壺井栄の作品に登場する小豆島の郷土料理を再現した(香川県小豆島町)

飲食店「暦」は壺井栄の作品に登場する小豆島の郷土料理を再現した(香川県小豆島町)

小豆島にある郷土料理「暦」(香川県小豆島町)。2017年7月に開業したこの店では、地元出身で小説「二十四の瞳」などで知られる壺井栄の作品の中に登場する郷土料理を提供する。「本からうまれる一皿」というアイデアは瀬戸芸で生まれた。

店主の岸本等氏(41)は16年の前回の瀬戸芸に向けて開かれた「瀬戸内『食』のフラム塾」に参加した。当時、小豆島にあるつくだ煮の製造会社で働いていたことから、製品のアピールにつながればと考えた。

「食の物語をつくりなさい」。瀬戸芸の総合ディレクター、北川フラム氏(72)の指導のもと、壺井栄の作品に登場する食に関する記述を、島民の協力を得て抽出した。その中から炊きたてのご飯に旬の具材を混ぜる「かきまぜ」など約80種類の料理が生まれた。

小豆島を訪れた観光客に振る舞うと、多くの人が土地に根付いた食を求めていることが分かった。岸本氏は小豆島の出身だが、瀬戸芸に関わったことで「島の食文化は面白い」ことに気づいた。確かな手応えを感じたからこそ、今も郷土料理の再現に取り組んでいる。

瀬戸芸は島の食×アーティストを重点プロジェクトに掲げる。古民家を再生した豊島の島キッチン(香川県土庄町)などが代表例だが、裾野を広げようと誕生したのがフラム塾だ。食に絞った前回は110人、宿泊の運営などにまで広げた今回は67人が受講した。

受講生には移住者も含まれ、瀬戸内の食の担い手として活躍し始めている。豊島で18年にオーガニックカフェとゲストハウスの「とのわ」(土庄町)を開業した稲子恵氏(44)がその一人だ。

埼玉県から15年に移住し、16年の瀬戸芸を通じて豊島のばらずしや、大豆を水に浸してすりつぶしたものを入れた呉汁などの郷土料理を学んだ。それが現在のメニューにも生かされ、飲食店が少ない豊島にとって貴重な食文化の発信拠点となっている。

瀬戸内国際芸術祭で学んだ豊島の郷土料理をカフェ「とのわ」のメニューに生かしている(香川県土庄町)

瀬戸内国際芸術祭で学んだ豊島の郷土料理をカフェ「とのわ」のメニューに生かしている(香川県土庄町)

島の食文化について稲子氏は「食材で季節を知る。それが都会にはない魅力」と話す。季節に応じた郷土料理が生まれ、観光客を飽きさせないという武器になる。だが、郷土料理の魅力に気づいている人は瀬戸内にどれだけいるだろうか。

バジルソースで味付けしたタコ。岡山の郷土料理「ばらちらし」に創作を加えた弁当、たまのの「たまべん」が、開幕中の瀬戸芸の宇野港会場(岡山県玉野市)で販売されている。フラム塾の受講生で、弁当を企画したフードクリエーターの田上真貴氏(48)は、「新しい食べ方の提供を通じて、観光客だけでなく、地元の人も玉野の魅力に気づいてくれれば」とアレンジを加えた狙いを話す。

豊かな海、山に恵まれた瀬戸内は食の宝庫である。地元民が一人でも多くその価値に気づくことが、食を通じた地域活性化につながる。

広がる食とアートの地域振興

アートによる地域振興は、今や瀬戸内で広く展開されている。旅の大きな楽しみが食にあるからこそ、各地域とも取り組みを強める。

岡山県は瀬戸芸や9月27日から岡山市内で開かれる岡山芸術交流2019に合わせた観光キャンペーンを展開している。その一つとして倉敷市は8月の1カ月間、「アートでふらっと倉敷」を初めて開く。美術館や飲食店などが参加し、地元のフルーツを使ったケーキやカクテルなどSNS(交流サイト)映えするメニューを提供する。

広島県三原市、尾道市、福山市で20年秋に開催する「ひろしまトリエンナーレ2020 in BINGO」は、9月から小佐木島(三原市)でプレイベントを開き、芸術作品として屋台をつくり、島でとれた塩を使ったおむすびを提供する予定だ。本番での食の打ち出し方は検討中だが、広島県の観光課は「地域の特産品とアートを結びつけるしかけを準備する」と話す。

愛媛県西条市など3市の振興イベント「えひめさんさん物語」では8月10、11日に地元の人気飲食店と高校生が協力して、「うちぬき水」の氷を使ったオリジナルかき氷のコンテストを開催する。石鎚山からの豊かな水に恵まれた西条市の魅力を発信する。

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