迫る米欧緩和、日銀試練 円高圧力を強く警戒

2019/7/30 23:22
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日銀の金融政策が試練を迎えている。2015年末から利上げを進めてきた米国が10年半ぶりに利下げに転換することが確実視され、日銀の緩和余地の乏しさから円高圧力が強まる可能性があるためだ。黒田東彦総裁は30日の金融政策決定会合後の記者会見で「追加的な(緩和)手段はいくつもあり得る」と強調したが、追加緩和は銀行経営をさらに圧迫するなど副作用も強い。日銀の進む道は一段と険しさを増している。

「従来より踏み込んだ言い方で、金融緩和にかなり前向きになったと言える」。黒田氏は会見で決定会合後の声明文を自らこう解説した。

日銀は声明文に「物価安定目標に向けたモメンタム(勢い)が損なわれるおそれが高まる場合には、ちゅうちょなく追加的な金融緩和措置を講じる」との表現を新たに追加した。これまでも黒田氏は似たような言い回しをしてきたが「おそれが高まる場合」という文言を入れ、より機動的に緩和に動く構えを示した。

元日銀審議委員の野村総合研究所の木内登英氏は、黒田氏の会見を受け「追加緩和のハードルは今までよりも一段下がった印象だ」と指摘する。

日銀は同日の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で2%の物価目標の達成に向けた物価の上昇基調は保たれているとの立場を堅持した。短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度に誘導する「長短金利操作」などの現行政策を据え置いた。黒田氏が政策を維持する一方、追加緩和について踏み込んだ発言をした背景には、米欧中銀の緩和競争に劣後しているとみられたくないとの思惑がちらつく。

米連邦準備理事会(FRB)は31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で10年半ぶりに利下げに動くことが確実とみられている。13年に日銀総裁に就任し、超低金利政策で「アベノミクス」を支えてきた黒田氏にとって、米国も利下げに動く局面は初めてだ。日米金利差の縮小による円高を警戒しなければならない試練を迎えた。

欧州中央銀行(ECB)も25日に追加利下げや量的緩和政策再開の検討を表明。世界の中銀は緩和競争の様相を示す。

足元の外国為替市場では、米欧中銀が緩和に前向きな姿勢を強めても円相場は1ドル=108円前後で安定的に推移している。だが、市場関係者の間では米欧中銀の動き次第で年内に1ドル=100円台前半まで円高が進むとの見方も浮かぶ。

日本経済は以前と比べ内需の存在感が高まったものの、円高の進行は自動車や電機など輸出産業の業績悪化を通じて景気を冷え込ませる効果がなお強い。経営者心理が悪化すれば設備投資が減速し、株価下落が個人消費を抑え込むなど内需にも影を落とす。これらが物価の押し下げ要因になることを日銀は警戒する。

もっとも、日銀が黒田氏の「口先」による緩和期待の演出にとどめているのは、具体策の効果が読み切れないためでもある。FRBが市場の想定を上回る大幅な利下げに動けば、日銀が追加緩和しても円高抑止力は限られるとの見方は多い。

黒田氏は30日の会見でマイナス金利の深掘りや長期金利の誘導目標の引き下げ、上場投資信託(ETF)などの資産の買い入れ拡大といった追加緩和手段の案も挙げ「これらの組み合わせや応用もある」と強調した。

だが、日銀内では副作用への警戒感も強い。すでに超低金利環境が長引き、地方銀行の体力はじわじわと奪われている。融資に慎重になり、地域経済を冷え込ませる懸念が強まった。年金基金など国民生活に直結する投資家の運用難も深刻だ。

黒田氏は「具体的に追加緩和措置を検討する場合には景気や物価へのプラスの影響と金融システムへの副作用を総合的にみる」とも語った。政策効果が副作用を確実に上回りそうな次の一手を見いだせず、身動きが取れない実情も浮かぶ。

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