ジョンソン英首相は孤独で小心者(The Economist)

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2019/7/30 2:00
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ボリス・ジョンソン氏は、英首相だったウィンストン・チャーチル氏の伝記を執筆し(編集注、ロンドン市長時代の2014年に出版した)、その中でチャーチル氏への多くの批判を取り上げている。例えば「彼に真の友人はいなかった。周りは自分の出世のために『利用した』人たちばかりだった」というくだりは、他の多くの箇所と同様に対象をジョンソン氏にすぐ置き換えられる。しかも、この批判は的を射ている。

英新首相に就任したジョンソン氏の最大の弱点は、人に好かれたいがために相手に合わせた発言をして矛盾した事態に陥る点だという=ロイター

英新首相に就任したジョンソン氏の最大の弱点は、人に好かれたいがために相手に合わせた発言をして矛盾した事態に陥る点だという=ロイター

ジョンソン氏が英首相の座に就けたのは、テレビや新聞、雑誌で笑いを誘うユーモアある人物なことが大きい。以前は多くの有権者に好かれていた。保守党の有名な選挙コンサルタント、リントン・クロスビー氏はロンドン市長選で、ジョンソン氏の政策を支持しない人でも彼の写真を見ると彼に好意を抱くことに気付いた。だが最近、ボサボサの金髪頭のジョンソン氏の写真を目にして大喜びするのは、英国の欧州連合(EU)離脱を支持する人々だけだ。ただ、ジョンソン氏をとんでもない人物だと思っている人でも、彼が多くの魅力を持ち合わせている点は認めている。EU離脱を巡り国全体が陰鬱なムードに包まれ、分断している今の英国にあって、こういう人物が首相であることは大きな資産と言える。

■2度の離婚に「道徳面は破綻」との声

ジョンソン氏は人をひきつける力は備えているが、孤独だ。人付き合いがよく、どんどん友情を築くタイプではない。これまでの同僚で彼を信頼する人もほとんどいない。英紙タイムズでコメントをねつ造したことで解雇されたジョンソン氏を採用した、英紙デイリー・テレグラフのマックス・ヘイスティングス氏(当時、編集長)は最近、「彼が悪党なのか、単にやんちゃなのかは議論の余地があるが、道徳面が破綻している点は議論の余地がない」と指摘している。ジョンソン氏が首相に指名された23日夜にBBCが放送した彼に関する番組で、同氏のロンドン市長時代の広報担当以外に彼に好意的なコメントを寄せる人物を見つけられなかったことが、これを物語っている。

ジョンソン氏には、チャーチル氏がクレミー(クレメンタイン)夫人との長く愛情に満ちた結婚生活で得たような家庭でのサポートもない。ジョンソン氏は、2番目の妻だった法廷弁護士のマリナ・ウィーラーさんとの間に4人の子供がいるが、一連の不倫スキャンダルが発覚し放り出された。ついに離婚の原因となった与党・保守党の広報担当と今もつきあっているものの、その関係は安定とはほど遠く、6月には2人の口論を心配した近所の人が警察に通報したほどだ。彼女が首相官邸であるダウニング街10番地に引っ越すかは不明だ。

ジョンソン氏は家族も政治的には頼りにできそうにない。同氏は、優秀だが押しの強いジャーナリストや政治家を輩出してきた家系の出身だ。新聞社でコラムニストを務める妹のレイチェル氏は「私たちは数の多いネズミのような存在よ。ロンドンで数フィートも歩けば、必ずジョンソン家の人間に2人に会う」と書いている。

きょうだい仲は良いが、ボリス氏以外は筋金入りの親EU派だ。レイチェル氏は5月の欧州議会選挙ではEU残留派の新政党「チェンジUK」から出馬した。弟のジョー氏は与党・保守党の残留派で、メイ前政権では閣外相を務めていた(編集注、離脱を撤回するための2回目の国民投票を実施するために昨年11月に辞任)。父親のスタンレー氏は欧州議会の議員だった。このため、ボリス氏がEU離脱を主張するようになったことで、家族との関係に緊張を生んでいる。

英議会にも取り巻きはいない。議員経験がまだ10年しかないうえ、議員になっても執筆や講演による金もうけに忙しく、様々な委員会への出席といった議会の退屈な仕事にほとんど時間を割いてこなかったためだ。同僚議員らはジョンソン氏のこうした姿勢を好ましく思ってこなかった。晩さん会後のスピーカーとしては引っ張りだこだが、議会での実績はさえない。お酒が入った銀行家たちをおだてて楽しむのと、下院議会の場で何かを仕切って、成し遂げるのとは別物だ。

■離脱でなく権力の座にとどまることが関心事

ジョンソン氏は大半の人に比べ難なく好意や賛同を得られるが、多くの人(そして多くの政治家)と比べても好かれたいという気持ちが極めて強い。しかも自分への批判には非常に敏感だ。この弱点が、元上司のヘイスティングス氏によるジョンソン氏への痛烈な批判につながっている。「小心者なため、相手がどんな聴衆でも喜ばせようと思慮に欠いた発言をするから、1時間後には何らかの矛盾が発覚する事態に陥る」。こうしたことが、これまでジョンソン氏の足をすくってきた。

ジョンソン氏は保守党党首選で10月31日までに「何としても」EUから離脱すると明言した。離脱後の混乱を回避すべく当面はアイルランドに物理的な国境をつくらないための「安全策(バックストップ)」を設けることは、英国を事実上の関税同盟に縛り付けることになるとして、一切拒む姿勢を示した。EUはバックストップの必要性を主張しているが、強硬離脱派はこれを毛嫌いしている。このため、ジョンソン氏が公約にこだわれば、残された道は合意なき離脱しかなくなる。ジョンソン氏が党首選で楽勝することは誰の目にも明らかだったことを考えれば、同氏はこのように自らの裁量余地を党首選で狭める必要は全くなかった。だが、党内の大半を占める欧州懐疑派に好かれたい一心から、強硬離脱派が同氏に用意した罠(わな)に見事にはまった。

ジョンソン氏がEU離脱に情熱を持っているかどうかはともかく(状況に合わせて自分の政治信条を変えてきたことを考えると、本人は恐らくそれほど熱心に離脱を望んでいない)、彼の本当の関心は強硬離脱派とは違うところにある。強硬離脱派が優先するのはEU離脱で、離脱によりどんな事態が起こるかは気にしていない。ジョンソン氏の関心は権力の座にとどまることだ。

だが今後数週間にわたって、ベテランの官僚らに合意なき離脱に陥った場合の緊急対策案を説明されれば、合意なき離脱がいかに深刻な事態を招き得るかを思い知ることになるだろう。リークされた情報によると、同対策案には北アイルランドの直轄統治を復活させ、広範な企業の倒産を回避し、市民の暴動を何とか抑え込む対策などが含まれている。合意なき離脱でどんな事態が発生しようともその全責任をジョンソン氏が負うことになるわけで、多くの有権者の怒りを買うことになるだろう。

■総選挙なら最も短命の首相となるリスク

もう一つの選択肢は、欧州懐疑派に対して誓った公約をほごにして、バックストップに関してEUから何らかの譲歩を引き出すことだ。これはメイ前首相がEUと合意した離脱協定案に改良を加える取り組みだと広くみなされており、本質的にはメイ氏の案と何ら変わらない。自分の魅力を強みに前政権で3度否決された案を議会に売り込むということだ。ジョンソン氏のこれまでの言動を踏まえると、同氏が身を置いてきた欧州懐疑派の人々を含め、誰もこうした彼の裏切り行為には驚かないだろうが、ジョンソン氏には激怒するだろう。

とにかく人に嫌われたくないジョンソン氏にとっては、いずれの選択肢も好ましくない。これらを避ける唯一の方法は、10月31日までに総選挙に打って出ることだ。その場合、最も短命に終わった首相というありがたくない名誉を得る公算が大きいが、有権者に好意を持ってもらうことに成功するかもしれない。現時点では誰にも先はわからないのだ。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. July 26, 2019 All rights reserved.

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