2019年9月19日(木)

トランプ人気を支える「失業率、賃金、GDP成長率」
日経ビジネス

コラム(ビジネス)
2019/7/30 4:30
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「メーク・アメリカ・グレート・アゲイン(米国を再び偉大な国に)」を掲げ、保護主義に傾く米国のドナルド・トランプ大統領。米アップルや米インテルなどには中国との貿易戦争の影響も出始めている。一方で、米国内には中西部を中心にトランプ大統領を支持する人たちが数多くいる。

かつて米国を代表する自動車メーカーの拠点として栄えたデトロイト。そこからクルマで2時間ほど南に下ると、オハイオ州を東西に貫く州道309号線に突き当たる。州道といっても反対車線のクルマがギリギリ行き交えるほどの狭い道。左右には広大なトウモロコシ畑と大豆畑が広がり、いつも通りの夏であれば人の背の高さほどのトウモロコシが黄色の実をたわわにつける。

だが、今年は様相が違う。「6月に何度も大雨が降って洪水に見舞われたから、トウモロコシも大豆も大打撃を受けた。だからこの辺りの畑は荒地になっているだろう? 雨にやられたのさ」

トウモロコシや大豆の畑は豪雨の被害で荒れ地になっていた

トウモロコシや大豆の畑は豪雨の被害で荒れ地になっていた

祖父の代から農業を営み、自身も農業に従事した後、数カ月前にリタイアしたというデービッド・シリングさんは、こう言って苦笑いを浮かべた。災害で打撃を受けたうえに、大豆やトウモロコシはトランプ政権の対中関税の報復で中国政府から25%の追加関税をかけられた(7月24日、中国政府は300万トン分の大豆輸入で関税を適用外に)。さぞ頭を抱えているかと思いきや、あっけらかんとした表情でこう言った。「この辺りの農家はこういう時のために皆、保険に入っている。災害と認められれば何も仕事をしなくても想定収入の4割はもらえるからね。たいていは何とかなる」

これに加えて、ドナルド・トランプ大統領が進める農家保護策の一環として補助金が入る。しかも農務省は、関税による収入減かどうかを証明しなくても、収穫量を報告しさえすれば1農家当たり最大12万5000ドルを支給する。

トランプ大統領の関税政策は、米国の農家を傷つけているとの報道が米国でも流れている。だが、シリングさんのあっけらかんとした表情が物語る通り、手厚い補助金が共和党支持者の多い中西部の農家の心をつかんでいる。

■民主党支持者が流した涙

これまで国内製造業の低迷で仕事を失っていた人ともなれば、トランプ支持の傾向もより顕著だ。中西部の日系部品メーカーで総務部長を務めるジュリア・ジョーンズさん(仮名)は、トランプ氏が中国からの自動車部品にかける関税が勤務先の利益を圧迫していることを知っている。それでも「関税が米国内の製造業を守ってくれている。トランプ氏はアメリカの経済発展のために尽くしている」と話す。

トランプ氏のおかげで失業中だった夫が仕事に復帰できたことも大きい。オハイオ州の州道309号線上に位置するライマという街にある陸軍の戦車製造施設。トランプ氏が7億ドル以上を費やして174台の戦車を新規発注したことで、閉鎖寸前だった工場が息を吹き返した。

ジュリアさんの夫は1990年代からこの工場に勤務し、景気に合わせて解雇と再雇用を3度も繰り返した。この施設をトランプ氏は19年3月に訪問。「本当は民主党支持者」(ジュリアさん)という夫もトランプ氏の演説を間近で聞き、感涙したという。

2019年3月、オハイオ州ライマの戦車製造施設を訪れたトランプ大統領(写真:Andrew Spear / Getty Image)

2019年3月、オハイオ州ライマの戦車製造施設を訪れたトランプ大統領(写真:Andrew Spear / Getty Image)

中国や時には日本に対しても厳しい要求を突きつけるトランプ大統領。一見、支離滅裂にも見える同氏の行動原理は、上記のような国民の支持をより大きなものにすることにある。

「失業率、賃金、国内総生産(GDP)成長率」。トランプ政権に近いといわれる保守系のシンクタンク、ヘリテージ財団のジェームズ・カラファノ副所長は、トランプ氏が注視するこれら3つの指標を挙げた。トランプ氏は19年5月から7月にかけて、連邦準備理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長を「いつでも解雇できる」と数回にわたってけん制。利下げを間接的に要望した。利下げは今、市場が最も期待する景気刺激策。これまで報われなかった人たちに補助金や仕事を与えて支持を増やしたトランプ氏にとって、2020年の大統領選に向けて、現在の好景気を維持することは最重要テーマだ。

20年の大統領選の行方は米中貿易戦争や日本経済にも影響を与える可能性がある。例えば、トランプ氏が討論会を経ていく中で自身が優勢だと判断すれば、日本や欧州などと進める自動車関税の交渉や対中の追加関税の交渉において、あえて結論を出さない可能性が高い。自身が大統領に就任してから成果を出した方が国民の人気を勝ち取れるからだ。

一方で劣勢と見れば、冒頭で触れたような支持者を意識して、何らかの成果を早い段階で出そうとするだろう。例えば、自動車関税のカードをちらつかせながら日本政府に兵器を購入させたり、中国に米国産の農作物を購入させたりすることが考えられる。大統領選が近づくにつれ、トランプ氏の言動がより過激になる可能性があることは頭に入れておいた方がよさそうだ。

(日経ビジネスニューヨーク支局長 池松由香)

[日経ビジネス電子版 2019年7月29日の記事を再構成]

日経ビジネス2019年7月29日号の特集「アメリカの実相保護主義でも生き残る日本企業」では保護主義がますます強まる米国、その中で日本企業が生き抜くための事例を紹介する。

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