スマートディスプレー 一気に安く、動画・時計も魅力
西田宗千佳のデジタル未来図

スマートスピーカーにディスプレーをつけた「スマートディスプレー」が、ヒットしそうな気配だ。ブレークの理由は「価格」と「サイズ」だ。世界的にニーズ減速が伝えられるスマートスピーカー。ディスプレーがついて小型製品が出ることで、市場はどのように変わるのだろうか。
低価格Echo Showで成功の再現狙うアマゾン
2019年6月26日にアマゾンが販売を始めた「Echo Show 5」は、なかなか衝撃的な製品だ。
なにしろ価格が安い。通常時の価格は9980円(税込み、以下同)。さらに、7月15、16日に開催されたアマゾンの特別セール「プライムデー」では、5980円で販売された。
では安物で使い勝手が悪いのかというとそんなことはない。極めてよくできている。すでに発売済みの10インチディスプレーを搭載した上位モデル「Echo Show」(2万7980円)に劣らない機能を持ち、圧倒的にコンパクトだ。筆者も使っているが非常に完成度が高い。
Echo Showシリーズは、スマートスピーカー「Echo」にディスプレーをつけたモデルだ。
スマートスピーカーは音声で命令し、それに対し音声で応答する。ちょっとした問いかけに答えてくれたり、音楽を再生したり、連携する家電製品を動かすには便利なものだが、欠点もある。それは「レスポンスが音声に限られる」ということだ。
ニュースやショッピングなどでは、情報を文字や写真で見たいこともある。音楽だけでなく動画を見たいときもあるだろう。また、顔を見ながらビデオ通話をしたいときもあるはずだ。常に「時計」が見えるのも大きい。スマートスピーカーはアラーム代わりにはなっても、時間がすぐに見られない。ディスプレーがあれば普通に時計として役に立つ。
アマゾンのスマートディスプレーとしては、日本でも18年から、丸い小型ディスプレーを備えた「Echo Spot」(1万4980円)、「Echo Show」が販売されている。

そこに登場したのがEcho Show 5である。ディスプレーを5.5インチに変え、コンパクトにすることで大幅な低価格化を実現している。
なぜこのような製品を出したのか? アマゾンはすでに米国でこの手法を使った成功体験があるからだ。米アマゾン・ドット・コムでデバイス関連事業を担当する、アマゾン・デバイスのミリアム・ダニエル バイスプレジデントは、次のように説明する。
「すべては最初のEchoを出したときの経験に基づきます。Echoのときも、後にEcho Dotという小型・低価格の製品を出しました。初めてこの種の製品を試すユーザーは、小さなジャンプからスタートしたいものです。だから、低価格も魅力的でした。今回も発想は同じです」

スマートスピーカーも、最初は音質重視で大柄な製品が中心だった。だが、16年秋に、50ドル以下で手に入る小型・低価格版である第2世代の「Echo Dot」が登場して一気にブレークした。16年初頭までは技術に興味がある人が買っていたのが、16年末には普通の人も買うデジタルガジェットになり、「多くの消費者が家電製品との連係を期待している商品」と家電メーカーが認識するまでに成長した。Echo Show 5はその再現を狙っているのである。
グーグルは7インチモデルで日本市場参入
では、ライバルはどう対抗するのか?
グーグルは19年6月から、スマートディスプレー「Google Nest Hub」を日本国内でも発売した。米国では18年秋に発売した製品だ。
グーグルは米国では、7インチディスプレー搭載の本製品と、10インチディスプレー搭載の「Google Nest Hub Max」を販売している。しかし、Maxは日本では発売されず、コンパクトで低価格なGoogle Nest Hubのみが販売される。Google Nest Hubは1万5120円と、Echo Show 5に比べると高い。これは米国での発表当時、ライバルが高価なEcho Showであったからかもしれない。当時は十分に競争力のある価格だったのだ。
アマゾンのEcho Showとの大きな違いはグーグルのサービスに特化していることだ。アマゾンのEcho Showはアマゾンのサービスに特化しており、アマゾンでの買い物やプライムビデオの再生ができる。一方、Google Nest Hubは、グーグルマップでの経路検索やYouTubeの再生ができる。現状、Echo ShowでYouTubeは再生できないし、逆にGoogle Nest Hubでプライムビデオは見られない。両者の間には雪解けムードもあり、将来は相互利用が可能になるかもしれないが、少なくとも今は、「アマゾンのサービスが中心ならEcho Show」「グーグルのサービスが中心ならNest Hub」と考えておくのがいいだろう。
また、現状のGoogle Nest Hubにはビデオカメラがなく、ビデオ通話の機能がない。遠隔地をつないでビデオ電話的に使う場合、Echo Showシリーズの方を選ぶべきだ。
レノボは「スマートクロック」として低価格製品を投入
価格面で不利、というのがグーグルサイドの弱点だが、そこに、援軍がやってきた。
レノボ・ジャパンは7月19日から、グーグルアシスタントを搭載したスマートディスプレー製品を2種類販売した。
一つは「Smart Display M10」(2万4624円)。10.1インチディスプレーを備えたスマートディスプレーで、Google Nest Hubとほぼ同じ機能を備えている。本家よりもちょっとサイズが大きいバージョン、といってもいい。

もう一つは「Smart Clock」。機能は限定されておりYouTubeなどの動画再生には対応していないが、ネット検索や家電のコントロールはできる。音声アシスタントは、他と同じグーグルアシスタントだ。

一番の違いは、その名前の通り「賢い時計」であることに特化していることだ。時計が常時表示されるのはもちろん、グーグルアシスタントの持つ「ルーティン機能」を利用し、1つのコマンドで複数の操作ができる。例えば、「おはよう」といえば、その日の天気やスケジュール、ニュースを教えてくれる。ホワイトノイズを再生し、快適な眠りへと誘う機能もある。
そして、サイズが小さくて安い。ディスプレーは4インチでEcho Show 5よりさらに小さく、価格も9828円と、グーグル陣営のスマートディスプレーの中ではもっとも安価である。
低価格かつコンパクトなスマートディスプレーは、ベッドサイドでの利用が中心になる。Echo Show 5もそこを狙っているが、レノボはグーグルとのコラボレーションにより、明確にその市場を狙いに来た……といっていいだろう。
米国において、スマートスピーカーは「音楽サービスを気軽かつ安価に使うもの」として人気が出た経緯がある。日本では、サブスクリプション型の音楽サービスはようやく普及しはじめたところで、米国とは違い、スマートスピーカーの起爆剤になっていない。
もしかすると、スマートディスプレーを「賢い目覚まし時計として使う」ことは、日本における音声アシスタント搭載機器の普及のきっかけになるかもしれない。
スマホを目覚ましにしている人に、もっと快適で便利な生活を、しかも安価に提供してくれる機器として、小型スマートディスプレーはわかりやすい良さを備えている。
フリージャーナリスト。1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。
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