潮騒と非日常に浸る 瀬戸芸、夏会期が開幕
文化の風

関西タイムライン
コラム(地域)
2019/7/26 7:01
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瀬戸内海の島々を舞台にした現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭2019」の夏会期が開幕した。春会期の大部分の作品を引き続き鑑賞できるほか、新たに大島や高松港などで十数点が加わる。これから始まる夏本番。アートと向き合う体験で日常をクールダウンしてみたい。

犬島の「C邸」で巨大な切り花状の作品を展示する半田真規(岡山市)

犬島の「C邸」で巨大な切り花状の作品を展示する半田真規(岡山市)

高松港から船で約30分。大島は島全体がハンセン病療養所だ。通りのあちこちに設置されたスピーカーから、目の不自由な入所者を誘導する優しげな音楽が流れる。島の時間はゆったり過ぎていく。

■長屋が証言者

「強制労働 まだ軽症のぼくは重症者の看護をさせられた」――。入所者寮だった長屋で悲痛な証言が目に飛びこむ。田島征三による夏会期からの作品「『Nさんの人生・大島七十年』―木製便器の部屋―」だ。

「Nさん」は80歳を超える男性入所者。田島は10年前に大島を初めて訪れ、交流を重ねた。16歳で家族と別れ収容されたこと、子供を中絶させられたことなど、悲しい記憶を5つの部屋にアートで再現した。

長屋を出ると、眼前の小さな畑にトマトがたわわに実る。Nさんが現在も手塩にかけ育てている。これも作品の一部。田島は「この長屋で語られるのは歴史上の問題ではない。今のことなのだ」と強調する。

山川冬樹の「海峡の歌/Strait Songs」は島の記憶を次代に渡す映像作品だ。かつて多くの入所者が島からの脱走を企て、2キロメートル先の庵治町(現高松市)を目指し海を泳いだ。波にのまれる人も相次いだという。

山川は彼らの魂をすくい取るように庵治から大島へと泳いだ。その様子を自ら撮影。大島側から撮った映像と合わせ、両面モニターに映す。山川は「島に生きた人から応援してもらった気がする」と振り返る。

銅精錬所で栄えた犬島は犬島精錬所美術館などアートの島に変貌した。集落の民家を活用した「家プロジェクト」のうち「C邸」では夏から、日本画の顔料で染めた巨大な切り花などを展示する。半田真規の作品だ。外とつながった空間は風が吹き抜け涼しげだ。「季節や天気でここだけの光が差す。作品空間として一番リッチ」と半田は言う。

住民と交流しながら制作した。作品は暮らしを慈しむ花だ。半田は「花を育てるうち、逆に自分がエネルギーを得ることもある。作品と住民のエネルギーが一体となり、島に溶けていけばいい」と語る。

■湯切りロボ能弁

高松港近く、旧倉庫街の一角。「北浜の小さな香川ギャラリー」と題し「瀬戸内の資源」をテーマにした作品が加わった。言わずと知れた香川名物うどん、丸亀市名産のうちわ、香川漆芸、瀬戸内の海などをテーマにした作品が並ぶ。

誰でも楽しめる明快さを持つのが「うどん湯切りロボット」。容器をセットすると「讃岐うどんの正しい食べ方をお教えします!」と元気にしゃべる。

湯切りは派手にバシャバシャと振らずにじっくり湯が抜けるのを待つなど、奥深いうどんの世界をロボットから教わるのが愉快だが、どこかシュールな体験でもある。「ロボットや機械がばらつきなくできる動きと、(機械とは違ったアプローチで)精度良くできる人間の特徴の違い」(制作した香川大学の石原秀則准教授)も考えさせる。うどんの麺は数量限定で、実際に食べるにはくじ引きでアタリを引く必要がある。

このほか、海に関するリサーチを基に作品を制作するフランスの作家、ニコラ・フロックによる「Watercolors」や、丸亀の名産品であるうちわの骨を大量に使ってオブジェにした西堀隆史の「うちわの骨の広場」などの作品も地域の資源が迫力を持って訴えかける。夏会期は8月25日まで。瀬戸内のアートの夏を大いに楽しもう。

(佐藤洋輔、西原幹喜)

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