2019年8月25日(日)

日韓、WTOで応酬へ 輸出規制 「安保」の正当性焦点

2019/7/23 23:03
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WTOの一般理事会で2国間の紛争が話題になるのは異例だ=ロイター

WTOの一般理事会で2国間の紛争が話題になるのは異例だ=ロイター

世界貿易機関(WTO)の一般理事会が23日、スイス・ジュネーブで始まった。日本と韓国が半導体材料対韓輸出規制を巡り討議する。双方が正当性を主張して加盟国に理解を求めるが、WTOルール違反にあたるかどうかの議論は平行線に終わる見通しだ。韓国はWTOへの提訴の準備を進めており、「安全保障上の適切な措置だ」とする日本の主張が認められるかが焦点になる。

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WTOの一般理事会は2年に1度の閣僚会合を除けば実質的な最高意思決定機関で、通常は加盟164カ国・地域にかかわる全体の貿易課題を議論する。2国間の紛争を取り上げるのは異例だ。日韓からともに高官が参加したが、対韓輸出規制を巡る議論は24日に持ち越しとなった。

日本側は外務省の山上信吾・経済局長が説明する。強調するのは今回の措置が安全保障上の懸念に基づいた輸出管理である点だ。軍事転用の恐れなどの問題がある商品を規制することは、関税貿易一般協定(GATT)第21条で例外規定として認められている。

規制の運用の見直しは各国独自の判断に任されており、日本は今回の措置もWTOルール違反ではないと主張する。世耕弘成経済産業相は23日の閣議後記者会見で、「適切な輸出管理のために必要な見直しだ」と改めて強調した。

韓国もGATTの規定を盾に反論する見通しだ。根拠とするのはGATT第1条と第11条だ。1条はWTO加盟国が他の加盟国に最恵国待遇を供与することを定め、11条は特別な理由なく加盟国間の輸出入数量を制限することを禁じている。

日本がフッ化水素など半導体に使う3品目に個別審査を求めたり、韓国を信頼できる輸出先である「ホワイト国」から外したりすることは、1条と11条に違反するとの論理を展開する。

韓国側は一般理事会で金勝鎬(キム・スンホ)新通商秩序戦略室長が演説し、韓国企業だけでなく世界貿易にも影響を与えると強調する。「加盟国の理解を深めてコンセンサスをつくる」(産業通商資源省)ことで日本に圧力をかける。

一般理事会は加盟国が意見を表明するが、何らかの対策を決定する機能はない。焦点は実際にルール違反かを判断する提訴後の審理に移る。

韓国は「WTOへの提訴を準備中」としている。一般理事会で各国の反応をみて「提訴した場合の勝算を探る」(ジュネーブ外交筋)との見方がある。提訴には具体的な被害額の算定といった作業が求められるため、実行に移すまでには時間がかかる見込みだ。

提訴の場合、WTOによる審理がどちらに進むかは未知数だ。日本の関係者は「自由貿易に逆行することは何もない」と自信を示す。韓国の輸出管理体制の脆弱さや、同国向け輸出で不適切な事案があった点を改めて説明すれば、違反とされる可能性は低いとみる。

ただ、WTOがGATT21条を巡る紛争を裁いた例はほとんどなく、例外規定の適用が認められるためには安保上の相当重要な理由が必要になるとみられる。日本がこれまで規制強化の理由としながら詳しい内容を公表していない「不適切な事案」が、安保上の理由として認められるかを疑問視する声もある。

世耕経産相は7月3日、対韓輸出規制の強化にからみ、自身のツイッターで元徴用工訴訟への韓国の対応について「満足する解決策が示されなかった」と書き込んでいた。今回の措置が「元徴用工問題とからめた政治報復だ」とする韓国の主張が認められれば、審理が韓国に有利に進む可能性もある。

(ジュネーブ=細川倫太郎、ソウル=鈴木壮太郎、杉原淳一)

《専門家の見方》
■WTOになじまない議論 細川昌彦・中部大特任教授(元経済産業省貿易管理部長)
 輸出管理は輸出国の判断で包括許可への変更が認められているが、国際的に個別許可が原則だ。日本が不適切な事案を理由にフッ化水素などを個別許可にした手続きに問題はない。輸出管理の見直しは安全保障の観点から検討することであり、そもそも世界貿易機関(WTO)での議論にはなじまない。今回の見直しがもし違反にあたるなら他国にも同様の事例がある。元徴用工問題の対抗措置と受け止められて複雑化したが、淡々と日本の判断で進めるべき話だ。

■日本の説明は抽象的 宋基昊(ソン・ギホ)弁護士
 関税貿易一般協定(GATT)第10条3項は世界貿易機関(WTO)加盟国間で「一貫的かつ公平で合理的」に貿易規則を施行しなければならないと定めている。正当な事由もないのに貿易制限的な措置を取れば、10条3項に抵触する。韓国がWTO提訴に踏み切れば勝訴の可能性はある。正当な事由があるならこれまでに与えた優遇をなくすことはできるが、日本は抽象的にしか説明していない。具体的な主張と論拠を提示しなければならない。(ソウル=鈴木壮太郎)

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