米企業、崩れる増益の幻想(The Economist)

The Economist
2019/7/23 2:00
保存
共有
印刷
その他

The Economist

米国の株価は過去25年間上昇を続けてきた。根拠なき株高ではなく、この長期にわたる活況は好調な企業利益によって支えられてきた。上場・非上場を合わせた全ての米企業が世界で稼ぎ出す利益はこの四半世紀で455%増加し、国内総生産(GDP)に対する比率は長期平均を35%上回っている。今や米企業は5時間ごとに10億ドル(約1080億円)の利益を生み出している。

米株価は好調な企業利益を背景に上昇してきたが、環境は変質しており、もはやこれまでのような利益率拡大は期待できないという=AP

米株価は好調な企業利益を背景に上昇してきたが、環境は変質しており、もはやこれまでのような利益率拡大は期待できないという=AP

これだけの利益の伸びは、グローバル化の進展や賃金の緩慢な上昇、技術の発展、激烈ではなかった競争により可能となった。ただ、これらの力のいくつかは弱まっており、絶えず利益が拡大する時代は今、危機に直面している。

今後数週間にわたり、米優良企業の決算発表が続くが、その決算では利益は微減すると予想されている。特に多くの企業が多額の債務を抱えており、事業継続には増益が必要なことを考えると、経営者も投資家も警戒が必要だ。

■米企業の利益のGDP比は2012年以降横ばい

利益は資本主義の根幹をなす。利益は、倹約する者に報い、革新を起こす者にインセンティブを与え、投資のための余剰資金を生み出す。米国の企業ほど利益を生み出している国はない。世界の上場企業が生み出す利益1ドルあたりの33セントは米企業による。

利益率の水準は時代によって上下する。1945年以降の好況で米企業は稼ぎまくったが、80年代半ばは苦しんだ。それでも90年代以降の利益の拡大ぶりには目を見張るものがある。米企業が世界で稼ぎ出した税引き後利益のGDP比は94年は5.9%だったが、現在は10%近くにまで上がっている(下のグラフを参照)。2008~09年の不況による減益は長くは続かなかった。

この傾向はフランスの経済学者トマ・ピケティ氏の資本収益率が経済成長率を上回っているとの指摘に合致する。このことは、経営者が成果の取り分を容赦なく増やす一方で、社会の他の構成員が受ける恩恵は圧縮されていることを示唆する。

しかし、詳しく見てみると、現実はそれほど単純ではない。米企業が国内外で上げた利益のGDP比は12年に最高を記録して以降、横ばいが続いている。トランプ米大統領による減税で18年の企業利益こそ大幅に増加したが、長期トレンドでみると利益水準は停滞気味だ。S&P500種株価指数を構成する企業の19年4~6月期の1株当たり利益(EPS)は平均で前年同期比3%減ると予想されており、2四半期連続の微減となるとみられる。

個々の企業には、それぞれ浮き沈みがある。ゼネラル・エレクトリックの今年4~6月期の利益は15年に記録した過去最高益に比べ91%減となる見込みだ。一方、マイクロソフトは1975年の創業以来、四半期ベースではこの4~6月期に過去最高の利益を計上すると予想されている。しかし、同時にもっと深いところでは、こうした利益拡大を阻む力が動いている。

グローバル化によって企業の効率は高まったが、今は利益を押し下げている。米企業が海外で稼いだ税引き前利益の全体に占める比率は、10年前の35%から25%に減っている。企業が開く投資家向け電話会見では、今は必ず貿易戦争の話が出る。国内では労働市場の需給が引き締まる傾向にあることから、18年は賃金が約5%上昇するなど人件費の上昇圧力は高まっている。

■人件費の上昇や独禁法の適用強化の逆風

過去20年来の増益ブームは、米グーグルの持ち株会社アルファベットやアップルなど、極めて利益率の高い一握りの企業の隆盛により押し上げられた面もある。しかし、彼らの成長率は鈍化してきており、ライドシェア最大手のウーバーテクノロジーズや動画配信大手ネットフリックスといった新たな世代のIT(情報技術)企業は、事業に巨額の資金を投じるばかりで、黒字化には苦労している。

17日にネットフリックスが発表した決算では、有料会員数の伸びが270万人と、市場予想(510万人)を大幅に下回ったのを受け、同社の株価は急落した。さらに通信やメディア、確固たるブランドを築いてきた食品メーカーなど、これまであまり厳しい競争にさらされず安穏としてきた業界にもついに競争が押し寄せ、各社の利益は打撃を受けつつある。何年も企業は買収や合併をやりたい放題だったが、規制当局はついに反トラスト法(独禁法)を厳しく適用し始めている。

企業の利益は、景気後退期にあっては通常6分の1、あるいはそれ以上落ち込む。米経済は現在121カ月連続という過去最長の拡大期を続けているが、たとえこの好況が続くとしても、利益率低下のリスクにさらされつつある。人件費の上昇圧力や独禁法の適用強化は、消費者や労働者には大企業からより有利な条件を引き出すことにつながるが、投資家と経営陣にとっては2つのリスクに直面することを意味する。

第1に、株式ファンドの運用担当者やウォール街のアナリストらは長年の高成長に慣れ切ってしまっているため、19年後半に利益が回復すると期待しているだろう。だが、その期待は失望に変わるかもしれない。

第2に、多くの企業は好景気がずっと続くと信じて、借金を増やし、バランスシートを拡大させてきた。今や米企業の債務はGDP比74%に達し、過去最高だった08年をも上回る。債務の40%はEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の4倍以上の借金を抱える「高レバレッジ」企業のものだ。

■利益拡大が当たり前という発想が危険だ

ほとんどの経営者は利益が増えず、かつ多額の債務を抱えているのはよくないと理解しているが、そのことで自社が大変な危機に陥るとは考えていない。だが、安定して利益を出し続けると信頼されてきた大企業の中には、問題が顕在化し始めたところが複数ある。

AT&Tは、1690億ドルという巨額の純債務の返済を進めなければならない一方で、ケーブルテレビ事業で多くの有料顧客が他社に乗り換える厳しい事態に直面している。食品大手クラフト・ハインツの純債務も300億ドルに上るが、同社の主力商品の一つ「マカロニ・アンド・チーズ」は健康的な食品を好む若い世代からそっぽを向かれている。

かつては利益は増えたり、減ったり変わりやすいものだと企業関係者は理解していた。しかし、増益が長い間続いてきたことで、利益は拡大していくものだという見方が米企業関係者たちの間に浸透してしまった。

投資家や債権者の大半は利益が増え続けると想定している。ほぼどの企業の事業に関するプレゼンテーションを聞いても、利益率の拡大は所与のものだと捉えている。誰もがそう思っているから大丈夫だと考えがちかもしれないが、これは極めて危険だ。これが結論だ。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. July 20, 2019 All rights reserved.

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]