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西武・中村、「意思」の力が生み出した400号

編集委員 篠山正幸

史上5位のスピード記録となる出場1611試合目にしての400号を放った西武・中村剛也(35)。パワー、技術が不可欠なのはもちろんだが、記録を可能にした一番の要素は、どんなときでも半端なスイングはしない、という「意思」だったようにも思える。

19日、延長にもつれこんだ試合に、中村が一振りでけりをつけた。十一回1死無走者で、オリックス・増井浩俊の球をとらえて左翼へ。打った瞬間にそれとわかる美しい弾道の本塁打だった。6月1日に通算400号を達成した巨人・阿部慎之助に続き、20人目となる記録に到達した。

平成を代表する本塁打王は、一方で4度の三振王となっている。三振か、本塁打か……。その打席は試合の展開にかかわらず、常にのるかそるかの緊張をはらみ、これぞプロ、という楽しさをもたらしてきた。

衝撃を与えた大谷との勝負

その白眉といえるのが、日本ハムのエースだった大谷翔平(米エンゼルス)との戦いだった。

2015年7月24日、西武は日本ハムに大敗したが、西武プリンスドーム(当時)に詰めかけたファンは衝撃の2発を、その網膜に焼き付けることになった。

この年の「投手大谷」は絶好調で、10勝1敗という数字をひっさげての登板だった。

だが、中村のスイングにひるむところはない。まず四回。スライダーをとらえて、高い弾道で左翼席に運ぶ。このソロが41人目の通算300号かつ281人目の1千安打となった。

続く五回の打席は1死満塁で回ってきた。初球の156キロを空振りしたあとの2球目は、この日最速の159キロを計測した。中村もやや差し込まれ、こすったような当たりになった。上がり過ぎ、と思われたが、打球は右翼フェンスを越えた。大谷の球速と中村のスイングスピード。力と力がぶつかりあい、特異な軌跡のアーチが描かれた。

大谷は「真っすぐでいける、という判断だったが……。打ち損じなくあそこまで運ぶ能力に怖さを感じた」とのコメントを残している。振り返れば、こうした勝負にもまれて、大谷はメジャー挑戦の下地をつくっていったことにもなる。

中村にとって、これが通算15本目の満塁弾だった。王貞治さん(巨人)と並ぶ、プロ野球タイ記録。この年、さらに1本を加えて単独トップに立った中村は、今年5月、6月にも満塁弾を放ち、日本記録を18本まで伸ばしている。

翌16年5月15日(札幌ドーム)の対決も、名勝負となった。

この日、大谷は162キロという、自己の持つその時点での日本球界最高球速を2度マークしていた。さすがの中村も第3打席まで3三振。しかし、七回。無死一、二塁で中村は141キロのフォークボールをとらえて、3ランに。中堅の陽岱鋼(現巨人)が2、3歩で追うのをあきらめたほどの打球だった。

甘かったとはいえ、2球前に160キロの球を見せつけられてからのフォーク。三振を重ねても、めげずにバットを振り続けた結果、ついにバットとボールが衝突したのだった。

400本の1本1本は全て、三振と紙一重の勝負から刻まれてきたものといっていい。

以下は野球評論家、広澤克実氏のコラムからの引用だ。

「おかわり君(西武・中村剛也)だけが本塁打を打てるのはなぜか……彼のスイングスピードは日本人選手のなかで突出したものではない。彼と並ぶヘッドスピードを持つ打者は何人もいる。では、どこが違うのかといえば、意志の問題ではないだろうか。当たり前ではないかと言われそうだが、おかわり君はホームランを打とうと思っているから打てるのだ」(日経電子版『ダイヤモンドの人間学』12年6月17日公開『西武・中村だけがなぜ統一球を飛ばせるのか』)

ボールが飛びすぎているのではないか、という視点から11、12年の2シーズン、プロ野球で低反発球が採用された。

両リーグとも本塁打が激減する中、中村だけが何事もなかったように飛ばし続け、両年とも本塁打王に輝いた。48本をかっとばした11年は2位の松田宣浩(ソフトバンク)の25本のほぼ2倍という、圧倒的な数字だった。

その秘密を解き明かした広澤さんの指摘は中村という打者の本質を表していた。

低反発球という壁にぶち当たって、自分の打撃を見失ったり、長距離打者の看板を下ろさざるを得なくなったりする打者は少なくなかった。

どんな球でも本塁打できる

しかし、中村は自分のスイングをすればどんな球であろうが、本塁打にできるのだという確信を持ち、スイングし続けた。まさに、意思の力が生んだ400号、というべきだろう。

11、12年という、打者にとっての氷河期を生き延びた中村。そのしぶとさからして、肉体的な盛りを過ぎても、おそらくそのスイングは衰えず、まだまだ楽しませてくれるに違いない。

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篠山 正幸

カバージャンル

  • 野球ほかスポーツ全般

経歴

1985年東北大卒、日本経済新聞社入社。主に運動部に在籍し、プロ野球を中心に取材歴35年。本紙朝刊にコラム「逆風順風」、電子版に「勝負はこれから」を連載。著書に「プロ野球 心にしみる80の名言」(ベースボール・マガジン社)「プロ野球 平成名勝負」(日本経済新聞社)。共著、監修本に「プロ野球よ」「そこまでやるか」(ともに日本経済新聞社)など。現職は編集委員

活動実績

2021年11月17日 日経STUDYUMウェビナーで「強さの秘訣、ここにあり!野球から学ぶ組織力」と題し講演
2016年11月 テレビ北海道情報番組に出演。「日本ハムの新球場への期待」を解説

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