ワークマン躍進、安さ支える「非常識」経営
グロービス経営大学院・金子浩明教授が読み解く

ビジネススキルを学ぶ
2019/7/26 4:30
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作業服チェーン最大手のワークマンの業績が好調です。8期連続で最高益を更新、国内店舗数はユニクロを超える837店舗(3月末時点)を展開しています。成功の要因は何なのか、グロービス経営大学院の金子浩明教授が、ビジネススクールで学ぶスキル・オペレーション戦略の中でも「稼働率」の観点を中心に解説します。

【解説ポイント】
・店舗の発注は本部主導
・工場が商品種類や納品量を判断
・流行がなく陳腐化しない商品特性
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ワークマンの店舗の9割はフランチャイズ店で、製品の生産は社外の提携工場に委託しています。そのビジネスモデルは、ユニクロなどのアパレル大手よりも、セブンイレブンなどのコンビニに近いといえます。不思議なのは、ワークマンがビジネスのセオリーに反する非常識な手を打っている点です。

まず、店舗の発注が本部の主導で行われるというのは、フランチャイズビジネスの非常識です。もちろん、店舗での発注作業がなくなるというメリット(2時間から10秒へ)は大きいですが、仕入れた商品は店舗が買い取る契約なので、本部による店舗への押し込みも可能です。そのため、通常のフランチャイズビジネスでは、本部は店舗に対して何らかの縛り(特定のアイテムについて最低発注数量を設定するなど)を課すことはあっても、最終的な発注は店舗に任せます。

また、外部の提携工場への発注方法についても、ワークマンのやり方は非常識です。ワークマンは需要予測データを20ある提携工場に開示し、工場がデータをもとに納品する商品の種類や量を判断します。ワークマンから工場に対して必要な数量を示すのではなく、その逆です。さらに、ワークマンは工場から提示された数量を全部買い取っています。このやり方だと、工場からワークマンへの押し込みが可能です。

ワークマン社内ではこれを「善意型SCM」(SCM=サプライチェーンマネジメント)と呼んでいます。しかし、本当に善意でビジネスがうまく回るのでしょうか。この謎を解くカギは製品特性にあります。

■工場の稼働率を平準化

まず、提携工場へのPB製品の発注について考えてみましょう。工場の言い分のままに発注していたら、高値でつかまされたり、余分に買わされたりしないのでしょうか。

ワークマンでは提携している20の工場に同じ仕様で見積もりを依頼することで、工場間の競争を促しているといいます。品質を満たすことは大前提なので、競争の軸は必然的に価格になります。では、工場が製品1単位当たりのコストを下げるにはどうしたらいいでしょうか。

最初に考えられるのが、人件費などの労務費が低い国で作ることです。もちろんワークマンもそうした海外の工場に絞って取引しています。その上で、こうした工場のコストを下げるカギは何でしょうか。それは、季節や時期による繁閑差を少なくすること、つまり年間を通して工場の「稼働率」を平準化することです。稼働が平準化していれば、閑散期に余分な人や設備を抱える必要がなくなり、繁忙期に残業代を支払う必要もなくなります。

ファッションアパレルと異なり、作業服はほとんど流行がなく、新製品を作ると10年は同じモデルを作り続けるという「製品ライフサイクル」が長い商材のため、売れ残りによる値引きや廃棄の必要がありません。そのため、工場の閑散期に余ったラインで生産しても問題ないのです。工場としては、閑散期に人や設備を遊ばせておくのはもったいないので、多少安く請け負ったとしてもメリットがあります。

ワークマンは価格で発注先を決めるので、工場はギリギリの希望価格と、それを実現させるための生産数量を提示するでしょう。ワークマンはそれをもとに、どこに何をどれだけ発注するかを決めればいいのです。

ワークマン側としても、本来必要な数量より少し多めに買ったとしても、安く作ってもらった方がありがたい場合もあります。過剰在庫は財務を圧迫するので問題ですが、作業服は「製品サイクル」が長く畳めるので在庫管理しやすい商品です。多少の在庫なら安い方にメリットがあるのです。

ワークマン側から細かく数量や種類を指定するよりも、需要予測を大きく外さない範囲で安く作ってもらうことを優先しているのでしょう。

以上のことから、ワークマン本部にとって、提携工場への発注には次のような構図が成り立ちます。

在庫を多く持つデメリット < 工場から安く仕入れるメリット

アウトドアショップのような店構えで、イメチェンに成功した新業態の「ワークマンプラス」

アウトドアショップのような店構えで、イメチェンに成功した新業態の「ワークマンプラス」

■在庫回転率よりも重要なこと

納品する側が発注量を決めるという点で、提携工場と本部の関係と、本部とフランチャイズ店舗の関係は同じ構図です。店舗の商品発注が本部任せなのも、作業服の商品特性ゆえです。作業服は売れ残りによる値引きや廃棄の必要がないので、需要予測と在庫管理がしやすいうえに、多少在庫がダブついたり需要予測を外したりしたとしても、店舗側の損失は小さいのです。また、作業服は、現場で働く作業者が「すぐに使いたい」から買う場合が多く、顧客ニーズにこたえるには「アイテムを欠品させないこと」が何よりも重要です。

そのため、在庫回転率よりも在庫ヒット率(顧客が欲しいものが店頭にあること)が重要になります。在庫ヒット率を上げるには需要予測に加え、安全在庫(需要変動や補充期間の不確実性を吸収するために必要な在庫)を多めに積んでおくことが必要です。とはいえ、店舗オーナーの心情としては在庫回転率が気になるでしょう。欠品による機会損失(販売機会を失うこと)は数字に表れにくいからです。だからこそ、本部主導で発注することに意味があるのです。

なお、ワークマンの名誉のために補足すると、ワークマン本部はフランチャイズ店舗に商品を押し込んではいないでしょう。それどころか、本部の店舗指導員であるスーパーバイザー(SV)は、より売れそうな店舗に在庫を移動させるなどの支援をしています。また、ワークマンではオーナー同士の情報交換も盛んで、SVは気を抜けないといいます。このようにSVの間には店舗の経営を改善させるための競争があり、それが店舗への押し込みを抑制していると考えられます。以上のことから、店舗にとって、本部に対する発注には、次のような構図が成り立ちます。

在庫を多く持つデメリット < 発注作業軽減・欠品が減るメリット

このように、ワークマンが築いた「善意のSCM」は、単なる善意ではありません。作業服の製品特性を生かし、発注業務を納品側に委ねることによって、製品原価や発注作業にかかるコストを抑えています。「プロ向け品質なのに、安い」と評判の新業態「ワークマンプラス」を支える施策のひとつも善意型SCMなのです。このように、一見すると非常識な打ち手の裏側には、成功のための確かな論理があるのです。

「稼働率」についてもっと知りたい方はこちらhttps://hodai.globis.co.jp/courses/42700d23(「グロービス学び放題」のサイトに遷移します)

かねこ・ひろあき
グロービス経営大学院教授。東京理科大学院修了。リンクアンドモチベーションを経て05年グロービスに入社。コンサルティング部門を経て、カリキュラム開発、教員の採用・育成を担当。現在、科学技術振興機構(JST)プログラムマネジャー育成・活躍推進プログラム事業推進委員、信州大学学術研究・産学官連携推進機構信州OPERAアドバイザー。
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