2019年8月22日(木)

ニューヨーカーの素顔伝えるエッセーシリーズ完結

文化往来
2019/7/25 6:00
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「世界有数の大都会なのに、なぜか田舎町にいるみたいにみんな気さく。地下鉄で隣り合った同士が、いつの間にか笑顔で語り合っている。ニューヨーカーは孤独でも冷たくもなく、むしろ好奇心と寛容さを持ち合わせた人が多い。今も昔もあまり変わらない特徴だと思います」

インタビューに答える岡田光世さん(7月11日、東京都千代田区)

インタビューに答える岡田光世さん(7月11日、東京都千代田区)

米国最大の都市に住む人々の素顔を書き留め、累計40万部のベストセラーとなったエッセー「ニューヨークの魔法」シリーズが、このほど9巻目「ニューヨークの魔法は終わらない」(文春文庫)の刊行で完結した。著者で作家の岡田光世さんは1980年代からNYに住み、現在は東京と行ったり来たりの生活をしている。30年にわたる詳細な人間観察の積み重ねは、このシリーズをユニークな文化論にまで育て上げた。

日本、なかでも東京と比較すると、ニューヨーカーは他人との垣根が低い。「人との付き合いで、内と外の区別を意識しないみたい」

最終巻の冒頭エピソードで、岡田さんがマンハッタン・ミッドタウンの地下鉄構内へ降りていくと、ホームでジャズバンドが演奏をしていた。電車を待つ赤の他人同士が手を取り合って、即席のダンスパーティーが始まる。踊り終わると皆が拍手して解散。それぞれの目的地に向かう。「たいていはその場限りの出会いで、後には引かない。でも、出会いの記憶はずっと残って、心に温かさを残してくれるんです」

シリーズ最終巻の「ニューヨークの魔法は終わらない」(文春文庫)

シリーズ最終巻の「ニューヨークの魔法は終わらない」(文春文庫)

ブルックリン・ブリッジ近くの河岸で写真を撮ろうとした時のエピソードも印象的だ。たまたま画面に写り込む人に「あなたも写っちゃうけど、いい?」と声をかけたら、相手はニコッと笑って「これで私のこと、いつまでも忘れないわね!」と手を振ってきたという。「NYは世界中から人が集まるので、マジョリティー(多数派集団)がいない。価値観が同じじゃないからこそ、まずは互いに言葉でコミュニケーションを取る必要が出てくる。それが、ニューヨーカーが気さくな理由じゃないでしょうか」

ただし、2017年のトランプ大統領就任が、こうした雰囲気を微妙に変えた面があるともいう。「政策の是非ではなく、好き嫌いという感情のレベルで対立が生まれた。トランプ支持者とそうでない人の間に対話が成り立ちにくくなっている」。NY出身のトランプ氏の存在がニューヨーカーの間に亀裂を生む、皮肉な状況に陥っている。

「いったいどれだけの人と言葉を交わしたの?」と友人に聞かれて数えたら、エピソードは500話あまりに達していた。個性的な出会いの経験をもとに「今度は映画を撮ってみたい」という。自ら脚本を準備中だ。

(郷原信之)

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