球場が呼んでいる(田尾安志)

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苦しむ王者・広島 不振の時こそ明るさを

2019/7/21 6:30
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セ・リーグ4連覇を目指す広島が苦しんでいる。最大で14あった貯金があれよあれよという間に減っていき、ついに借金生活に突入。首位巨人が快走しているだけに、余計に王者の失速ぶりが目立つ。

昨季まで不動の3番としてチームをけん引した丸佳浩がフリーエージェント(FA)で巨人に去った影響が出ているのは確か。ただ、バティスタらの活躍で一時首位に立った事実から、やり繰り次第では丸が抜けた穴をある程度埋められることは明白だ。

交流戦に入る直前の20試合は11連勝を含む17勝(3敗)をマーク。4連覇への視界が開けてきたと思ったが、交流戦で5勝12敗1分けとつまずいた。リーグ戦再開後は1分けを挟んで11連敗と泥沼に。ようやくトンネルから抜け出たと思ったら、7月16日のDeNA戦は3-0から逆転負けを喫した。およそ広島らしからぬ戦いぶりだ。

連敗を止め、勝利投手の九里(右)とタッチを交わす広島・緒方監督だが、表情はあまり緩まない(15日)=共同

連敗を止め、勝利投手の九里(右)とタッチを交わす広島・緒方監督だが、表情はあまり緩まない(15日)=共同

「あの選手が打てなかった」「この投手が打たれた」と個々の試合の敗因を語るのは簡単だが、重要なのはチームの雰囲気がどうかということ。ここで、緒方孝市監督が就任した2015年以降の広島の成績を振り返ってみたい。

<15年>69勝71敗3分け=4位

<16年>89勝52敗2分け=優勝

<17年>88勝51敗4分け=優勝

<18年>82勝59敗2分け=優勝

就任1年目は負け越しで終わったが、2年目以降はどの年も大きく勝ち越している。強いチームを率いることは、それはそれで大変なことだが、借金を抱えるチームを率いるのとは大変さの質が違う。貯金生活に慣れた緒方監督は、チームが久々に深刻な状況に陥ったときに、どう立て直すかの答えがすぐには見つからなかったのではないだろうか。

緒方監督はうれしさを表に出すタイプではない。常に表情を引き締めている。勝っているときはそれが格好いいが、負けが込んでくると見え方は変わってくる。時には努めて明るく振る舞い、選手を鼓舞することも大切だろう。そうして乗せられると、選手は「監督からエネルギーをもらえた」と前向きになれるものだ。

楽天的な空気「そのうち勝てるよ」

私が楽天の監督を務めた05年、チームは38勝97敗1分けと大借金を抱えて最下位に終わった。負けてばかりだからチームは暗かったかというと、そんなことはなかった。コーチ陣には常に「負けた次の日の選手への接し方は大事にしろよ。必ず明るく接しなさい」と言っていた。苦しんでいるところで落ち込んでいたら、ますますチームは暗くなってしまう。

チーム成績と雰囲気のギャップが大きかったからか、周りからはよく「負けている割に明るいですね」と言われた。そうやってツッコミを入れてもらったことも良かったと思っている。もし腫れ物に触るようなムードを私が醸し出していたら、気軽に話しかけてくれる人はいなかったはず。過度にぴりぴりした雰囲気がなく、ざっくばらんな感じが、「そのうち勝てるよ」と"楽天的"な空気をつくっていたように思う。

今の監督では、阪神の矢野燿大監督が明るい雰囲気づくりに努めている。適時打が出れば、選手よりも派手なガッツポーズを見せる。あまりの喜びように「矢野ガッツ」なるフレーズも生まれた。「監督が選手より目立つなんて」といぶかる人もいるかもしれないが、私は矢野ガッツには確かな意図があるように感じている。

5月22日のヤクルト戦で糸井(7)が生還し、ベンチでガッツポーズする矢野監督=共同

5月22日のヤクルト戦で糸井(7)が生還し、ベンチでガッツポーズする矢野監督=共同

熱烈な阪神ファンが4万人以上も集まった甲子園でプレーする選手の重圧は、それは大きいものがある。ちょっとでもミスをすれば、そこかしこからすさまじい怒声が飛ぶ。そうしてお客さんから"制裁"を受ければ、もはや首脳陣が改めておきゅうを据える必要はない。怠慢プレーには厳しく対処しなければならないが、あれだけの大観衆が見つめるなかでプレーする選手が、まず手を抜くわけがない。

ミスをする前からブーイングにおびえるようでは、いいプレーができるはずもない。そこで首脳陣が気を配るべきは、選手がプレーしやすい環境をつくること。矢野監督にとってのその手段は、派手に喜んで選手への称賛を表すことなのではないか。矢野ガッツが出ることで選手はリラックスし、重ねていいプレーをするための土台ができる。その好循環がある限り、成績が落ち込んでもチームの雰囲気まで落ち込むことはないだろう。

逆境の今こそ問われる監督の力量

以前、このコラムで紹介したように、星野仙一監督はまだチームの力に手応えを持っていないうちは「あいつはここがいいぞ」とよく選手を褒め、チームが強くなると褒め言葉は減り、むしろけなすようになった。矢野監督のやり方にも同じものを感じる。チームが発展途上の時期には、褒めて自信をつけさせることで選手ともども成長させよう、と。いずれチーム力に手応えを感じてきたら、矢野ガッツはなくなるかもしれない。

星野さんのスタイルを当てはめてみると、緒方監督が厳しい表情を崩さないのは、チームの地力に自信を抱いている証しということか。広島はファンが優しい分、監督が厳しい姿勢を見せるのは、ある意味バランスが取れているともいえる。ただ、今はチームが弱っているとき。監督が肩の力を抜けば、選手も幾分かは肩の荷が軽く感じられるはずだ。昨季までリーグ3連覇に導いた手腕は見事だったが、逆境の今こそ緒方監督の力量が問われるとき。後半戦の盛り返しに期待したい。

(野球評論家)

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