芥川賞の今村夏子 浮かび上がる観察者の狂気

2019/7/18 11:46
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第161回芥川賞は今村夏子の「むらさきのスカートの女」に決まった。表題の呼び名で周囲から気味悪そうに噂される女性を、そばで見守る「わたし」の視点を通して描いた。

「自分の中にあるものを絞り出す」と語る今村夏子(7月17日、東京都千代田区)

「自分の中にあるものを絞り出す」と語る今村夏子(7月17日、東京都千代田区)

「むらさきのスカートの女」は、無口で謎めいた人物だ。しかし「わたし」の誘導によってホテルの清掃員として働き始めると、人が変わったように社交的な様子を見せるようになる。今村は「当初は彼女を一人称にして書いていたが、物語が進まなくなった」と執筆過程を振り返る。そこで語り手に「わたし」を据え、陰で観察するように彼女を捉えた。

なかなか存在が浮かび上がらない「わたし」は、ストーカーのように彼女を追い続け執着する。その姿はどこか狂気じみている。選考会では「『むらさきのスカートの女』という鏡を通して『わたし』の本性に迫っている」という見方が少なくなかったという。選考委員の小川洋子は「狂気を突き抜けた先にある哀れさを描ける人だと再認識した」と評した。

本作は自身のホテル清掃員としての体験を生かした。「清掃の仕事は天職だと思った」(今村)ほど、働くことに楽しさを感じていたという。「知っている以上のことを書こうとしていない感じが自分らしいところ。自分の中にあるものを絞り出す感覚」と話す。

不穏な空気が漂う作風と見られることが多いが、17日の記者会見では「いつも明るい人を描きたいと思っている」と口にした。今村は2009年に執筆活動を開始。デビュー作の「こちらあみ子」で三島賞を、「星の子」で野間文芸新人賞を受賞した。今回の受賞で純文学の新人賞3冠を達成したことになる。執筆を中断していた時期があったが、いまは「本当に書きたいと思うものがなくなるまで、書き続けたい」と意欲を見せる。

(村上由樹)

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