2019年8月23日(金)

生糸の白無垢、道後で挙式 伊予の伝統復活へ産学連携
ウエーブ愛媛

2019/7/17 7:18
保存
共有
印刷
その他

かつて愛媛県西予市周辺で盛んに生産された伝統の高級生糸「伊予生糸(いよいと)」の復活に向けた取り組みが加速している。産業活性化を目指した産官学による「愛媛シルク協議会」が1月に発足。このほど構成員らが企画した伊予生糸を使った白無垢(むく)がお披露目された。今後は原料の繭増産や商品開発など、県内で一貫体制の構築を進める。

横糸に100%伊予生糸が使用された白無垢(6月下旬、松山市)

大和屋本店の能舞台で伊予生糸の白無垢がお披露目された(6月下旬、松山市)

6月下旬、道後温泉の旅館「大和屋本店」(松山市)の能舞台。白無垢を着用したモデルの女性がりんとした姿を現すと、関係者から感嘆の声が漏れた。中村時広知事は「何とも言えない光沢感。これを着て結婚式を挙げれば一生の思い出になるはず」と称賛した。

白無垢は大和屋本店が、地域商社のリバースプロジェクトトレーディング(東京・中央)と連携して企画。和装製造卸の伊と幸(京都市)が制作にあたった。横糸は全て伊予生糸で計8キロを使用。市場価値は500万円という。同社の北川幸社長は「純国産生糸は国内流通量の1%未満で、伊予生糸はその中でも希少性が高い。格調高いものができた」と満足げだ。

白無垢は今後、大和屋本店の結婚式での貸し出しや、シルク産業に関する各種展示会などで活用する方針。レンタル料金は未定だが通常の4倍、60万円程度を想定する。

西予を中心とした愛媛のシルク産業は明治期以降に急速に発展した。四国山脈から流れ出る河川周辺に、蚕の餌となる桑畑に適した土地が多かったことなどが背景だ。

伊予生糸は品質への評価が高く、伊勢神宮式年遷宮や英エリザベス女王の戴冠式で納められた。手作業で時間をかけて糸を繭から引き出すため、蚕がはき出した際のうねりが残り、かさ高でふんわりとした風合いが特徴となる。一般的な生糸と比べて体積当たりの重量は3分の2以下という。

昭和初期には県内に約1万6000軒の養蚕農家が営農したが、着物の需要減退や安価な外国産の輸入により、伊予生糸は衰退。現在は10軒ほどが残るのみだ。

潮目が変わり始めたのは16年ごろ。農林水産省がブランドとして保護する「地理的表示(GI)」に登録された。17年にはリバース社が生糸を作る過程で生じる副産物を材料にしたセッケンなどを発売。それまで生糸は全体の15%程度しか利用されていなかったが、大部分が廃棄される副産物活用の道が開けたことで、農家の収入安定も期待できるようになった。

えひめ産業振興財団や愛媛県、地元大学、リバース社など30機関が参加する協議会も設置。19年度は生糸関連の商品開発や製造の拠点開設に向けた準備を進める。農業・養蚕、シルク製品開発、マーケティングの3部門の研究会も設置。繭の生産から商品販売まで県内で一貫して担える体制づくりを目指す。

こうした流れを受けて産地も変わりつつある。養蚕農家の滝本亀六さんは西日本豪雨で養蚕場が浸水する被害にあった。リバース社などの協力もあり片付けを進め早期に生産を再開。「今年は増産したい」と意欲的だ。

1度は消滅が危ぶまれるほど衰退した産地の活性化に向けて、オール愛媛体制が整いつつある。関係者の紡ぐ努力が伊予生糸の復活として実を結ぶか、これからが正念場だ。

(棗田将吾)

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。