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芸人の「闇営業」法的な問題は? 暴排条例に抵触も

弁護士 志賀剛一

写真はイメージ=PIXTA
Case:60吉本興業の所属芸人による「闇営業」問題が連日報じられています。「単に会社に黙って副業をしていただけの話ではないか」という意見もあるようですが、本当に法的に問題はないのでしょうか。

書面による契約書は存在せず?

最近、闇営業問題に関して米国系のニュースサイト「Business Insider Japan」に吉本興業ホールディングス(以下、吉本興業)の大崎洋会長のインタビュー記事が掲載されました。

それによると、「芸人、アーティスト、タレントとの契約は専属実演家契約。それを吉本の場合は口頭でやっている。民法上も口頭で成立する。タレントが出版社から本を出す、映画に出るときは別途、吉本興業と出版社や映画会社が契約書を交わしている」などと大崎会長は説明しています。

この説明によれば、「書面による契約書がない」という話は基本的には事実だったようです。

インタビュー記事での大崎会長の説明によると、吉本興業と所属芸人は雇用契約ではなく、「専属実演家契約」とのことです。「実演家」とは耳慣れない言葉ですが、著作権法で「俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、または演出する者」と定義されています。

実演家は実演を録音・録画、放送やインターネットなどに実演を送信する権利が認められており、専属実演家契約では実演家が有するこれらの権利を特定の芸能事務所に譲渡したり独占的に使用を許諾したりする内容が定められるのが一般的です。

なお、通常はこれ以外に「専属マネジメント契約」(芸能事務所が所属芸人としての活動についてのマネジメントを契約期間中、専属的に行う契約)も締結されているかと思われるのですが、いずれにしても契約書は存在しないとのことなので、それ以上はわかりません。

専属契約、芸能事務所は独占的権利

インタビュー記事での大崎会長の説明どおり、契約は原則的に口頭でも成立するのですが、これらの契約は拘束される範囲や権利関係について細かい取り決め事がたくさん出てくるので、契約書面はかなりの分量になるのが通例です。

また、問題になるのが「専属」という言葉です。実演家契約は1社との間で専属である必要はなく、複数の芸能事務所との間で交わすことも可能ですが、1社との間で専属契約を締結した以上、芸能事務所は独占的な権利を有することになり、他社からの仕事や芸能事務所を通さない直接の仕事を受けることはできないはずです。

もちろん、この「専属」の部分も口頭での合意が成立しないわけではありませんが、大切な内容であるので、書面にしておくのが通常であろうと思います。

会社を通さない仕事、ある程度容認か

なお、大崎会長はインタビューでこんなことも話しています。

「闇営業という言葉を今回のことで初めて知った。要は会社を通さない仕事で、ぼくが入社したときからあって、今もある。どしどしやりなさいとは言わないが。『高校の同級生からイベントの司会を頼まれたので、次の日曜の昼から空けといてほしい』ということはある。そこで3万円をもらったときに、会社に5000円寄越せとか、半分寄越せとは言ったことはないと思う。ただ、100万円の仕事を個人で頼まれたときに、会社を通したほうがいいね、ということはあり得る」

これを読む限り、会社を通さない仕事を受けることについて、吉本興業はある程度認めていたという理解も可能です。

では、法的にも問題はないでしょうか。最近、所属芸人の収入が少ないことへの同情もあり「闇営業自体は違法ではない」とする擁護論も散見されるようになっていますが、私は法的な問題もあると考えています。

暴排条例や組織犯罪処罰法に抵触も

吉本興業のケースでは、「営業」した相手が(1)暴力団員であったケース(2)振り込め詐欺グループであったケース――の2つが報じられています。

(1)については、各都道府県が定める暴力団排除条例(暴排条例)で禁止されている暴力団員等への利益供与に該当する可能性があります。実際、暴力団主催のパーティーで歌を披露したことが「利益供与」にあたるとして、男性歌手が東京都公安委員会から条例に基づく中止勧告を受けた例があります。

(2)については、法務省が2007年に公表した反社会的勢力の定義によれば「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人」となっていますので、振り込め詐欺グループなどはこれに含まれますが、例えば東京都の暴排条項では「暴力団員又は暴力団もしくは暴力団員と密接な関係を有する者」とされており、振り込め詐欺グループが暴力団員等でない場合には暴排条例の対象にはなりません。

しかし、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織犯罪処罰法)には「情を知って、犯罪収益等を収受した者は、3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する」と規定されています。ギャラが振り込め詐欺によって得た利益から払われており、所属芸人がこれを知っていた場合には(本件では「知らなかった」とのことですが)、この罪に問われる可能性もあるのです。

所属芸人、税務申告を修正

さらに脱税の可能性も懸念しています。もちろん、脱税となれば法に触れる行為です。

ギャラ・謝礼の支払者が暴力団関係者や振り込め詐欺グループであることから、収入として申告されていないのではないかと予想していたところ、本稿を書いている最中に、所属芸人たちは税務申告を修正したとの報道に接しました。やはり当初は申告されていなかったようで、今回は「申告漏れ」と理解します。

吉本興業のようなスタイルですと、所属芸人は個人事業主ですので、会社を通していてもいなくても、芸を提供して得た収入は事業所得になります。

謝礼の額は報道によれば最大100万円でした。結構な額ですよね。ただし、個人から個人へ支払われたのであれば「年間110万円以下なら贈与税がかからないのではないか」という見方もあります。しかし、報道によれば所属芸人たちは実際に芸を提供しており、払われた金銭がその対価でないとは言い難いでしょう。また、贈与は親族や知人間でなされるものです。所属芸人が100万円もの贈与を認めることは、イコール相手方との親密さを認めることになってしまいます。

さらに「源泉徴収されていれば問題ないのでは?」との声も聞きます。確かに、所得税法により「芸能人や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金」は源泉徴収の対象になると定められています。

仮に源泉徴収が行われていたとしても(私はその可能性も低いと思いますが)、源泉徴収は支払金額の100万円まで10.21%、100万円を超える場合は20.42%が天引きされ、翌年の確定申告で精算するというにすぎず、課税所得が高く、天引きされた分を超える税率で課税される人については、源泉徴収では足りず、別途申告所得税が発生します。大物芸人だと、源泉徴収の額では到底、納めるべき所得税に足りないものと思われます。

すべてのタレントとの契約を書面にすべき

日本経済新聞の7月13日付朝刊によると、大崎会長はインタビューに「今回のことがあったので、全社員、全芸人と共同確認書を交わす。これで反社との決別を改めて確認、徹底したい」と答えています。ここまでやるのであれば、いっそのことすべてのタレントとの間の契約を書面で締結し直し、明確化を図ったらどうかと思うのですが、いかがなものでしょうか。

志賀剛一
 志賀・飯田・岡田法律事務所所長。1961年生まれ、名古屋市出身。89年、東京弁護士会に登録。2001年港区虎ノ門に現事務所を設立。民・商事事件を中心に企業から個人まで幅広い事件を取り扱う。難しい言葉を使わず、わかりやすく説明することを心掛けている。08~11年は司法研修所の民事弁護教官として後進の指導も担当。趣味は「馬券派ではないロマン派の競馬」とラーメン食べ歩き。

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「賃貸物件の仲介手数料は何か月分?」「子供が自転車事故の加害者になったら親の責任は?」。家計と無関係ではない身近な法律問題を取り上げ、判例などを基に弁護士の志賀剛一氏が解説します。隔週木曜日に掲載します。

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