2019年8月24日(土)

米議会、当局「リブラ」包囲網 事業停止求める声も

トランプ政権
2019/7/14 16:48
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【ワシントン=河浪武史】米議会と米金融当局が、米フェイスブックが計画するデジタル通貨「リブラ」構想の阻止に動き始めた。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は「深刻な懸念」と表明した。米議会も「開発を一時停止すべきだ」と待ったをかける。背景には2016年の大統領選でのフェイスブックへの不信感がある。当局は資金洗浄リスクなどを訴え、日欧に同調を呼び掛ける。

「リブラは信用できない。フェイスブックは銀行免許を取得すべきだ」。トランプ大統領は11日、ツイッターにそう書き込んだ。FRBのパウエル議長も11日の米議会証言で「リブラはプライバシーや資金洗浄、消費者保護の面で深刻な懸念がある」と繰り返し、事業の審査を「慎重に見極める必要がある」と主張した。

パウエル氏はフェイスブックが6月18日にリブラの構想を発表した翌日、記者会見で「中央銀行の金融政策に影響があるとは、あまり懸念していない」と同事業を容認する発言を繰り出していた。それが極めて批判的なトーンに一気に転じたのは「与野党問わず米議会の強い圧力があったから」(金融当局幹部)だ。

パウエル氏を議会証言に招いた米下院金融サービス委員会のウォーターズ委員長(民主)は7月10日に「個人のプライバシーや国家安全保障への懸念から、リブラの開発は一時停止すべきだ」と言い切った。米上下両院は16~17日にフェイスブック幹部を招いて公聴会を開くが、与野党議員はリブラ事業の一時停止を要求する構えだ。

フェイスブックは個人情報の流出が相次ぐなど安全面での不安を指摘され続けてきた。それ以上に深刻なのは、米議会とのあつれきだ。16年の大統領選ではロシアなどの介入を招き「偽ニュース」をばらまいてトランプ氏の勝利に貢献。米国の民主政治の大きな汚点と受け止められた。

共和党内もリベラル志向の強い大手SNS(交流サイト)が保守派の意見を排除しているとの不満があり「ハイテク企業が市場独占の力で言論検閲するなら、反トラスト法上、問題だ」(テッド・クルーズ上院議員)と反発する。米議会ではフェイスブックの解体論まで浮上しており「米議会で与野党が現時点で共闘できる分野は二つ。中国問題とフェイスブック問題だ」(金融当局幹部)とまで冷やかされる。

17~18日にフランスで開く主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議でも、リブラ対策が大きな議題となる。FRBなど米金融当局は日欧にリブラの審査の厳格化を要請。トランプ政権の意向をくむ日本側は「リブラの事業開始にひとまず反対姿勢を示す」(日銀幹部)と明言する。

欧州は米国のプラットフォーマー事業を敵対視しており、米国の当局の「反リブラ」の流れに同調する。イングランド銀行(英中銀)のカーニー総裁は「(資金洗浄対策などで)盤石でなければ事業開始はない」と断じた。国際送金に強みがあるリブラは新興国の後押しが焦点だが、中国は米国のネット覇権を崩そうとしており「リブラには当然反対する立ち位置」(金融当局者)だ。

フェイスブックは27億人の利用者を抱え、リブラの資金規模が増せば「巨大なシャドーバンキングになる」(中銀幹部)。ただ、米国は銀行には厳しい金融規制を敷くものの、金融システム上のリスクの小さいノンバンクはむしろ規制を緩めてきた。現行法制では「銀行ではないフェイスブックを厳密に金融規制下に置く法的根拠がない」(中銀幹部)。パウエル議長は「リブラの審査は1年以内には終わらない」と指摘したが、規制対象外であれば計画通り20年前半に見切り発車することも可能とされる。

もっとも、米議会や当局の反発を一段と招けば、独占禁止法を使った同社の解体論に勢いがつきかねない。通貨当局は「議会から嫌われているフェイスブックがデジタル通貨に踏み込んで良かった。これで規制強化論に弾みが付く」と皮肉めいて話す。米メディアは米証券取引委員会(SEC)がリブラを上場投資信託(ETF)の一種とみなして規制を課す動きがあるとも報じた。

リブラ問題は単なるデジタル通貨の論争を超える。20年前半の事業開始に向け、地球大で国境を越えて活動する巨大企業と、国家として強大な権限を保持し続けたい議会・当局との競争ともなる。

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