2019年8月21日(水)

アポロを超えて(下)月探査、民間も挑む 輸送や車両に

2019/7/15 2:00
保存
共有
印刷
その他

5月末、米航空宇宙局(NASA)は月着陸機を開発する民間企業3社と月に機材を運ぶ契約を結んだ。その一つ、オービットビヨンドは2020年9月までに4回、月の表側にある「雨の海」と呼ばれる場所に運ぶ予定で、契約総額は9700万ドル(約105億円)になる。残りのアストロボテックとインテュイティブマシンは21年7月までに、それぞれ14回と5回の輸送を予定する。

宇宙飛行士の着陸に先行して民間の着陸機で月に機材を運ぶ(NASA提供)

宇宙飛行士の着陸に先行して民間の着陸機で月に機材を運ぶ(NASA提供)

24年までに再び米国の宇宙飛行士を月に送るNASAの「アルテミス計画」の一環だ。運ぶのは月面の放射線を測定したり、着陸船の月面への影響を調べたりする装置などで、宇宙飛行士による月着陸の準備に必要な装置や機材となる。

各社は無人の着陸機を使い、打ち上げから月への着陸まで一貫して責任を持つ。この契約をNASAは「民間パートナーとの協業の重要な一歩」と位置づける。

アポロ11号のころ、月探査は国家の威信を賭けた巨大プロジェクトだった。しかし現在は民間の力も活用して月や火星を目指す時代になった。

4月にはイスラエルの非営利団体、スペースILの探査機「ベレシート」が、民間として初めて月の周回軌道に到達。月面着陸には失敗したが、月探査がもはや国家に独占されるものではないことを証明した。開発・製造にかかった総費用が約1億ドル(約108億円)と従来より大幅に安いことも注目された。

民間が台頭する背景には、NASAをはじめとする政府機関の資金不足がある。米国惑星協会によるとアポロ計画に投じられた資金は280億ドルで、現在の価値に換算すると2881億ドル(約31兆円)に達する。アポロ計画中、一時はNASAの予算は国家予算の4%を占めた。だが現在の比率は10分の1の0.4%ほどで、NASAだけで月探査の資金をまかなうことは難しい。

宇宙予算の縮小で技術者たちが2000年ごろから民間に流出。そうした技術者たちによってスペースXをはじめとする宇宙ベンチャーが設立され、今の宇宙開発を支えている。

民間による月着陸を目指して18年まで開催されたコンテスト「グーグル・ルナ・XPRIZE」も追い風になった。アストロボテックやスペースILは同コンテストに参加して技術を磨いた。日本から参加したアイスペース(東京・港)もNASAとの輸送契約を視野に入れ、21年の月着陸を目指す。

月探査の本格化は、こうした宇宙ベンチャーや従来の宇宙関連産業だけでなく、新たな企業にも宇宙への扉を開く。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の佐々木宏国際宇宙探査センター長は「重力のある月では、地上での民間企業の技術が生きる」と期待する。

JAXAはトヨタ自動車ブリヂストンと共同で、宇宙服を着ずに移動できる月面探査車「有人与圧ローバ」の検討を始めた。鹿島や芝浦工業大学などと、月面基地の建設に役立つ建設機械の自動運転の実験なども手がけている。

ただ民間利用が進む地球の周回軌道とちがい、地球から遠い月の探査はまだリスクが高く、NASAやJAXAのような政府機関の役割も大きい。新時代の月開発を進めるには、国と民間がどう役割を分担し、協力体制を築くかが重要だ。(編集委員 小玉祥司、越川智瑛)

保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。