「言葉失う悪い数字」 日銀09年1~6月議事録を公開

2019/7/16 17:00
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記者会見する白川総裁(2009年1月)

記者会見する白川総裁(2009年1月)

日銀は16日、2009年1~6月の金融政策決定会合の議事録を公開した。前年のリーマン・ショック直後の「パニックに近い状況」(西村清彦副総裁)からは落ち着きつつあったが、影響は実体経済に広く波及。日銀はためらいつつも異例の対策で危機の封じ込めに動く。ただ戦力の逐次投入との批判は根強く、情報発信に神経をとがらせていた様子が浮かぶ。

■予想超える悪化

「前回の決定会合以降に発表された日本経済や景気に関する数字はもう言葉を失うような悪い数字だった」。2月19日の会合。白川方明総裁は厳しい口調で語った。

直前に公表された2008年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は年率換算で12.7%減に沈んでいた。減少幅は第1次石油危機の影響を受けた1974年1~3月期以来、約35年ぶりの大きさだった。リーマン・ショックで冷え込んだ消費者心理は世界的な需要減退を引き起こし、輸出への依存度が高い日本の産業界を直撃した。

「グローバリゼーションで成長してきたのが、逆に我々にとって足かせ、火薬庫になっている」(野田忠男審議委員)。「外需の弱さが内需に、製造業から非製造業へ、大企業から中小企業へと広がることを懸念」(須田美矢子審議委員)。1月の会合で08~09年度の経済成長率の見通しが2年連続でマイナスになるとの予測をまとめたが、実体経済への危機の波及は予想を超えていた。

3月の日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)では大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)がマイナス58と統計開始以来、最悪の数字を記録した。4月上旬の決定会合で野田氏は「自動車を中心とする輸出型製造業の業況判断DIが通常では考えられないレベルまで悪化した」と危機感を訴えた。

■「スピード感欠如まずい」

「米連邦準備理事会(FRB)は迅速で日銀はスピード感に欠けるという言われ方はいろいろな意味でまずい」。2月19日昼、白川氏はいら立ちを募らせていた。コマーシャルペーパー(CP)や社債を担保にした資金供給、社債購入の検討……。日銀として「異例の措置」を繰り出しているつもりだった。

にもかかわらず、市場にはリスク資産の大幅購入に慎重な日銀の本気度を疑問視する声が出ていた。リスク資産の購入は日銀の財務悪化を招く可能性がある。白川氏は2月19日の会合でも「現実に特定企業でロスが発生した場合、大きな批判が出てくる。日銀が中立的な立場で政策を遂行していく能力への信認が薄れていく」と話していた。

須田氏が「FRBが政府と一緒になってしまっていることにすごく危うさを感じている人もいる。我々には我々のやり方がある」と主張。白川氏が「我々がスピードに欠けると言われることは全くない」と応じる一幕もあった。

一方で、日銀が対策を打ち出しても円高の進行に歯止めがかからない。1月の会合ではCPなどを最大3兆円買い取ると決めたが、決定前日の1ドル=89円台半ばから88円台後半に円高が進んだ。当時の麻生太郎政権は08年12月までに総額75兆円規模の経済刺激策を打ち出していた。竹下亘財務副大臣は2月の会合で「やるなら腹を決めてやれという思いもした。さらに深掘りをご検討いただきたい」と迫った。

日銀の中曽宏金融市場局長は「政治的不安定さを背景とした日本の政策遂行能力への疑問などの材料も嫌気されて、日本売り的な様相を呈した面もあるのではないか」と言及。政府と日銀のさや当ても表面化した。

■「CP購入、異例中の異例」

「どうしても経済や金融市場が混乱すると中央銀行に何でもやってくれという感じになる」。コマーシャルペーパー(CP)の買い取りを決めた1月22日の会合。白川氏はこう述べ、「短期的にはプラスになるが長期的にマイナスになる事態を避ける必要がある」とくぎを刺した。

金融市場の機能停止を通じて企業の資金繰りが打撃を受けていた。日銀も「金融と実体経済の負の相乗作用が一段と強まっていくリスクをさらに意識しなければならない」(野田氏)との認識から、焦げ付くリスクのある金融商品の買い取りに踏み込んだ。

CP買い取りは賛成多数で決定したが「財政政策の範囲に踏み込むことになる」(西村氏)、「異例中の異例の策」(亀崎英敏審議委員)との意見が続出。中銀としてできる限りのことをする認識では一致していた半面、なし崩し的に規律が緩むことも警戒した。こうした姿勢が市場には政策の「出し惜しみ」と映った。

「きょう記者会見で出てくるのは『なぜもっと思い切って長期の資産を買わないのか』という議論だ」。後手に回るのは避けたいが、中銀としてののりを超えるわけにはいかない。白川氏の言葉にジレンマがにじむ。

「非常に急性の発作的な症状からはとりあえず脱しつつあるように見受けられる」。山口広秀副総裁がようやく明るい兆しに言及したのは、4月の会合のことだった。

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