2019年8月25日(日)

ソニー、新規事業に社外のアイデア 手応えあり
日経ビジネス

コラム(ビジネス)
2019/7/16 4:30
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日経ビジネス電子版

梅雨真っただ中の2019年7月3日午後。東京・品川にあるソニー本社のホールは、夏本番のような熱気に包まれていた。会場後方では飲み物が提供され、どことなく米シリコンバレーで開催されたイベントをほうふつとさせる。

「Sony Open Innovation Day 2019」の様子

「Sony Open Innovation Day 2019」の様子

この日開催されていたのは「Sony Open Innovation Day 2019」。新規事業の創出を目指すスタートアップなどを対象にしたイベントだ。壇上にはソニーの担当者が上がり、同社が手掛けるスタートアップ創出支援プログラム「ソニー・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(SSAP)」を説明。ソニーが生み出した新規事業の開発者のトークセッションや、外部との開発が進む案件も紹介された。

イベントの来場者は1000人を超え、その7割がスタートアップや大企業など外部からの参加者。イベントの責任者であるソニーStartup Acceleration部門の小田島伸至副部門長は、「初の試みだったがなんとか成功できた」と安堵の表情を浮かべた。

■新規事業創出の仕組みを外部に開放

SSAPは、新規事業を生み出すソニーのノウハウを外部に提供するサービスだ。アイデア創りから事業計画の立案、マーケティング調査、商品の量産、事業運営、資金調達、販売までを一気通貫で支援する。サービスは有料で、事業計画の立案、量産支援のみといった具合に部分的に支援を受けることも可能だ。

ソニーは14年から、自社内で新規事業創出プログラム「シード・アクセラレーション・プログラム(SAP)」を展開してきた。5年間の取り組みで、腕時計のバンド部分に通信機能を埋め込んだスマートウオッチ「wena wrist(ウェナリスト)」や小型ロボットを自由自在に動かせる玩具「toio(トイオ)」など14の新規事業が誕生。大ヒットにこそつながっていないものの、新規事業の芽は育ってきたと言える。

ソニーの「SAP」から生まれた新規商品

ソニーの「SAP」から生まれた新規商品

小田島氏が、5年間にわたるSAPの活動で気づいたのが、「イノベーション創出はアイデアと人材に依存する」ということ。「優れた人材がアイデアを生み出し、意欲を持って行動しないとイノベーションは生まれない」と続ける。

イノベーションのタネとなるアイデアを生み出す人材をいかに確保するか。「ソニー社内だけでは11万人に限られてしまう」(小田島氏)。ならば、自社にこだわらず外部に門戸を広げた方がいい。そこで18年から新規事業創出プログラムの外部への開放を本格化し、同年10月には第1弾として京セラとの連携を開始した。今年2月には名称を「SSAP」に変更し、オープンイノベーションを積極化している。

外部への本格開放から9カ月。SSAPから新事業が生まれつつある。イベントと同日の7月3日、京セラとライオンと共同で、歯にブラシが当たると音楽が流れる子供の仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi(ポッシ)」を発表した。ハブラシのヘッド部分に京セラの小型圧電セラミック素子を搭載。ブラシを歯に当てるとヘッド部分から歯に振動が伝わり音が出る仕組みを盛り込んだ。子供が嫌いな歯磨きの時間を楽しいものに変える商品だ。

京セラとライオン、ソニーが共同開発した仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi(ポッシ)」

京セラとライオン、ソニーが共同開発した仕上げ磨き用歯ブラシ「Possi(ポッシ)」

「自分の子供の歯磨き嫌いを何とかしたい」(京セラ研究開発本部の稲垣智裕氏)という京セラの事業アイデアにライオンが賛同。ソニーが事業全体の構想をコーディネートすることで、開発開始から9カ月間で商品開発にメドを付けた。まずはインターネット上で資金を募る「クラウドファンディング」で資金を集めて商品化の是非を問う考えだ。

SSAPにはこれまで約300件の応募があり、大企業やスタートアップ、大学など17の案件の支援を実施している。採択基準は「商品やサービスのアイデアの革新性。イノベーションが起こり得るかどうかを見ている」と小田島氏は話す。これまでの9カ月で「手応えはある」と小田島氏は言う。

■持続的な事業の創出へ

有料サービスとはいえ、ソニーは支援サービスでもうけようとしているわけではない。一連のオープンイノベーションの取り組みで、「ソニーが目指すのは持続的な事業の創出だ」(小田島氏)。

理想形として挙げたのは、スマートフォンで鍵を開閉する「スマートロック」のQrio(キュリオ)。日米に拠点を置く投資育成会社WiLがソニーに持ち込んだアイデアをベースに、前身となるSAPを通じて実用化にこぎ着けた。14年の設立当初はWiLが6割、ソニーが4割を出資する共同出資会社だった。

当時はあらゆるモノがネットにつながるIoTという言葉もまだ浸透しておらず、「ソニーにとって重要な事業になるとは想定していなかった」(小田島氏)。将来的な出口戦略として、「子会社化だけでなくIPO(新規株式公開)などの可能性を議論していた」と明かす。

ソニーStartup Acceleration部門の小田島伸至副部門長(撮影:吉成大輔)

ソニーStartup Acceleration部門の小田島伸至副部門長(撮影:吉成大輔)

最終的に、ソニーがIoTを本格化しようというタイミングで、キュリオの完全子会社化を提案。17年にソニーグループの100%子会社として事業部門に移管された。ソニーとしては数年間の時間を買うことができ、「事業戦略に大きな貢献ができた」と小田島氏は語る。今回、京セラなどと共同開発した歯ブラシも、「将来的にどう展開していくかは3社で議論していくことになる」という。

業績回復を経て、外部の力を取り入れて将来の種まきを進めるソニー。もっとも、大企業であるソニーが、子会社化を前提にスタートアップとのオープンイノベーションを展開すればスタートアップから不信感を抱かれかねない。その点はソニーも意識しており、小田島氏も「オープンイノベーションをする際にWin-Winとなれる関係を構築できるかは重要だ」と話す。

世の中を驚かせるイノベーションを生み出してきたソニーといえども、技術革新のスピードが速い今は自前主義にこだわっていられない。外部のアイデアや技術を生かしてどう事業化に結び付けるか。ソニーは手探りの中でも確かな手ごたえを感じ始めている。

(日経ビジネス 佐伯真也)

[日経ビジネス電子版 2019年7月16日の記事を再構成]

 日経ビジネス2019年7月15日号の特集「もう失敗させない オープンイノベーション」では、日本の大手企業が進めるオープンイノベーションの取り組み事例を紹介、成功の条件を探っている。

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