2019年8月20日(火)

「謙虚に好奇心を持ち続ける」アンナ・ロスリング・ロンランド氏 ファクトフルネス著者 #ファクトを活かそう 07

コラム(ビジネス)
2019/7/14 6:30
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思い込みを克服し、データや事実に基づいて世界を読み解く習慣を身につけようーー。そんな考えを提唱し、世界100万部のベストセラーになった「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」。物事を正しく見る習慣を身につけるために何が必要なのか。来日した著者、アンナ・ロスリング・ロンランド氏に聞いた。(来日講演の様子はこちら

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■高度な教育受けた人も勘違い

――本の題名「ファクトフルネス」の由来はなんでしょう。

アンナ・ロスリング・ロンランド スウェーデン・ファールン生まれ。統計情報から世界を理解することを目的とするギャップマインダーの共同創立者。専門は社会学や写真。

アンナ・ロスリング・ロンランド スウェーデン・ファールン生まれ。統計情報から世界を理解することを目的とするギャップマインダーの共同創立者。専門は社会学や写真。

この本ができる前から名前はありました。夫(共著者のオーラ・ロスリング)のアイデアでマインドフルネスからもじったものです。物事を勘違いしてしまわないため、より良い見方のことを「ファクトフルネス」と名付けました。我々は世界について正確なデータを十分に持っていませんでした。データをたくさん知ることが世界をより知り、勘違いを引き起こす本能を捨てる方法だと考えました。

――アジアと欧米で人間のモノの考え方は違うと思いますか。

そういったデータは持っていませんが、違いがありそうな気がします。というのは、過去50年で多くのアジアの国は欧米より速いピッチで急速に発展してきました。そのためアジア人はポジティブに物事を考えやすい傾向が相対的にあるのではとみています。ただ経済発展が鈍化すると、この傾向は変わるでしょう。

――本を通じて伝えたいことは。

高等教育を受けた人でも、実は平均的な人と同じように勘違いしてしまう、ということです。これは脳の作用に起因するのかもしれません。高い教育を受けた人でも誤った判断をすることがあります。

人間は物語が好きなのでドラマチックに考えてしまうのです。風変わりで悲劇的なものが好き。自分に遠い世界のことほどそう考えてしまいます。でも、実際の物事はゆっくり動いてるし、世の中は少しずつ良くなっているんですよね。

――なぜこんなに本が売れたと思いますか。ご自身はどう分析していますか。

実用的だけれど、難しくないからではないでしょうか。ビジネスパーソンは時間がないので、メッセージが単純で理解しやすいのが好まれたのではないでしょうか。本で訴えていることは、知識を得て、それをアップデートしよう。それだけです。

■AIは判断の助けにすぎない

――人工知能(AI)や機械学習の発展は人間の勘違いを防ぐ要因になりえますか。

はい。ただ、AIがいくら発達しても、どのデータが有用かを人間が判断するスキルは必要ではないでしょうか。

確かにAIは人間を助けてくれます。グーグルはたくさんのデータにアクセスするのを助けてくれますよね。でも、AIで山の全部を見ても、頂上はどこにあるかは人間が判断しなければダメです。人々はデータを分析し役立てるデータ・ドリブンの考え方をまだ完全に身につけられていません。

――トランプ大統領が特定メディアを「フェイクニュースだ」と批判しています。

私はメディアの現状を悲観していません。ほとんどのリポーターやジャーナリストはいいことを伝えたいと思っているはずです。一方、フェイクニュースという言葉のせいで、世の中では、ニュース全てが信用できないものなのではないかとの雰囲気ができつつあります。これは悲しいことです。

ニュースが問題なのではなくて、大局観を持ってニュースを捉える力が欠けているのではないかと思います。ニュース番組は常に刺激的なことを伝えようとします。これは人間がドラマチックなことを好む本能があるからです。でも実際は、物事はゆっくり動いているわけですよね。世界を正しく認識するためには脳をコントロールして、事実を基に物事を見るべきです。

――メディアのあり方についてどう考えていますか。

メディアはより良く変われると思います。大局観やトレンド、世界の傾向をもっと多く伝えてほしい。それを少し盛り込むだけで、受け手の理解度は高まるはずです。ある地域で大きな地震が起きて被害が出たとしても、世界全体をみると、地震の被害量そのものは減っています。それは救助技術があがっているからです。世の中はよくなっているんですよ。

――「ファクトフルネス」の中で、「なにか悪いことが起きると人のせいにしがちだが、それはよくない」と指摘していますよね。

犯人捜し本能ですね。犯人捜しをしてしまうと脳は考えを止めてしまいます。それで決着してしまい、それ以上考えなくなる。そうすると何も行動しないんです。典型的な例が、活動家や政治家です。誰かのことを非難したとしても、その先がないことが多いです。大きなことを達成したいなら、意見が違う人と協力しましょう。

■世界は変わっている

――感情に流されずビジネスを進めるためにはどうしたらいいですか。

世界は常に変化しているということを認識すべきです。ファクトベースでみないと間違ってしまいます。決めつけを排除しましょう。深呼吸して、データから長期のトレンドを探しましょう。

――米中貿易戦争が世界の論争材料になり、専門家どうしでも見解が食い違っています。ご自身はどうみていますか。

両国の経済規模が非常に大きいということがポイントでしょう。つまり、どのような結論が出ても、インパクトは大きいのです。ということは、慎重に物事を進めるべきだという結論になります。

ファクトフルネスの中でも、「焦り本能」という人間の性質について指摘しています。今すぐ手を打たないと大変なことになる、と勘違いしてしまう気持ちのことです。自分は中国側だ、アメリカ側だとポジションをとる前に、両者の言い分をよく聞きましょう。大事なのは協力・協調と、一歩ずつの改善です。

――日本は参院選の真っただ中です。政治家選びについて、どう判断すべきですか。

ここでも大事なのはデータです。自分に関係ある地域や分野だけではなく、国全体のトレンドを見て何が重要なのことかを判断すべきです。政治家はかなり断片的な情報を出しがちなので気を付けてください。データにアクセスするのはそんなに難しくないです。国家統計などにアクセスし、自分で調べて、比較したり、トレンドを見たりしてほしい。そうしないと自分たちにしっぺ返しが来ます。イデオロギーに走るのは危険です。それは、一番情熱的な人が支持されることにつながります。

――政治家どうしの討論でも同じことが起こりえますか。

多くの政治討論は、同じデータで議論されていません。「自分が持っているデータによると、あなたは大間違い」みたいなことを、お互いに主張するケースが多いです。これを見抜くには、私たち自身がデータに詳しくならないといけない。言っていることをうのみにせず、正しいデータを見つけ出す能力を身につけましょう。そうしないと、解決策がわからなくても話だけがうまい政治家に丸め込まれてしまいます。

――アンナさんの座右の銘はなんですか。

Stay humble and curious!(謙虚に好奇心を持ち続ける)です。

――日本は人口減少期に入り、経済成長も停滞しています。隣の中国が目覚ましく成長しているのを横目でみて、日本人は自分の国の将来について悲観的になりがちです。日本をご覧になってどう感じていますか。

日本は私の生まれたスウェーデンよりはるかに大きい国でいいポジションにいると思いますよ。優れた教育システムを持ち、勤勉な国民。悪い方向に向かっているとは思わないし、これからも変わり続けていくと思っています。

【「#ファクトを活かそう」記事一覧】
(1)データのない世界を歩め インテグラル代表 佐山展生氏
(2)ビジネスは打率で検証を THE GUILD代表 深津貴之氏
(3)エビデンスで考える APU学長 出口治明氏
(4)問題意識がファクトを生む 社会学者 上野千鶴子氏
(5)データで解像度を上げる アル代表 古川健介氏
(6)物事を常に問い続けよ CAMPFIRE代表 家入一真氏
(7)謙虚に好奇心を持ち続ける ファクトフルネス著者 アンナ・ロスリング・ロンランド氏 

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