松竹新喜劇の名作を歌舞伎に 「色気噺お伊勢帰り」

関西タイムライン
2019/7/12 7:01
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3日に始まった大阪松竹座の「七月大歌舞伎」は同名の松竹新喜劇の名作を基にした「色気噺(ばなし)お伊勢帰り」で幕を開ける。中村鴈治郎が主人公の喜六を演じ、大阪を代表する演劇人で古典芸能に造詣の深いわかぎゑふが「大阪らしい人情喜劇」を歌舞伎として演出。鴈治郎は「上方らしい芝居を作り、残していきたい」と意気込みたっぷりだ。

「色気噺お伊勢帰り」の喜六役の中村鴈治郎(左)と清八役の中村芝翫

「色気噺お伊勢帰り」の喜六役の中村鴈治郎(左)と清八役の中村芝翫

舞台は江戸後期。お伊勢参りの帰りがけ、遊郭に立ち寄った左官の喜六(鴈治郎)と大工の清八(中村芝翫)が大阪へ戻ってくる。喜六は不細工で妻にも頭が上がらないが、清八は男前で遊郭でも人気随一の遊女を惚(ほ)れさせた。対照的な2人の元に、遊郭で知り合った遊女が訪ねてきて……。それぞれの人間らしい欲とたくらみを軸に軽妙なやりとりで物語は進んでいく。

■愛嬌たっぷりに

元の松竹新喜劇では故藤山寛美が喜六を演じ、豊富なアドリブも交えて笑わせた。鴈治郎は「(寛美と)同じことはできないから」と話すが、三枚目の親しみを感じさせるキャラクターを鴈治郎ならではの愛嬌(あいきょう)たっぷりに演じた。「夏の暑さを忘れられるように、何も考えずに笑ってもらいたい」。鴈治郎の言葉通り、観客席は軽やかな笑いに包まれる。

「作品の骨格がしっかりしているので、内装を整えることに徹した」とわかぎ。ストーリーを停滞させがちなボケと突っ込みのシーンを削るなど、言葉の面白さに頼らず作品の上質さを生かす「喜劇」として演出した。そのうえで役者それぞれの見せ場も盛り込み、きっちり歌舞伎に仕立てた。

13年ぶりに歌舞伎の演出を手掛けたわかぎは「大阪の新しい(今の暮らしや文化を反映した)世話物を作ろうという気持ちで(鴈治郎らとも)一致していた」。時代の変化を踏まえてキャラクターの外見をネタにする部分などに修正も加え、現代の観客に受け入れられる喜劇になった。

■1作目は再演続く

鴈治郎による松竹新喜劇の歌舞伎化は2作目。2005年初演(当時は翫雀)の「幸助餅」はその後も再演し、昨年には東京の歌舞伎座でも尾上松也らで上演された。「他の役者に演じてもらうことで古典として残る可能性が開ける。『お伊勢帰り』もそういうものにできたら」と話す。

上方歌舞伎の大名跡を襲って4年。鴈治郎は上方歌舞伎界が抱える目下の課題として「歌舞伎公演に上方狂言が少ないこと」を挙げ、関西ならではの演目を残すことを役者としての「新しい方向性」と位置づける。「お伊勢帰り」はその一歩となる。(佐藤洋輔)

■歌舞伎振興団体40周年を記念

今公演はかつて低迷した関西での歌舞伎興行再興に取り組んできた「関西・歌舞伎を愛する会」(当初は「関西で歌舞伎を育てる会」)の40周年記念公演だ。

同会は歌舞伎俳優の澤村藤十郎と労働組合が中心となって結成された。今や毎年恒例となった「七月大歌舞伎」を大阪の年中行事として根付かせ、歌舞伎公演数も当時に比べ大幅に増えた。いわば関西における「歌舞伎の救世主」(鴈治郎)。

今年の「七月大歌舞伎」は「お伊勢帰り」に始まり、片岡仁左衛門が「体力、精神力が必要な役。関西では最後になる」と平知盛を演じる「義経千本桜 渡海屋・大物浦」などの演目が続く。長く愛されてきた重厚な古典と大阪らしい軽妙な新作が並び「幕の内弁当のような歌舞伎の醍醐味」(わかぎゑふ)が味わえる、40年目の公演だ。

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